迷いなく告げられたその言葉。
戸惑いや驚きとともに感じた気持ちは。
自分でもよくわからなかった。
落ちてきた天使
「今日は楽しかった!ありがとヨンサ!!!」
「・・・。」
「僕に負けたからヨンサが拗ねてるー!」
「・・・うるさいな。」
屈託のない笑顔でそう話すユンの姿に改めて悔しさがこみ上げる。
ていうかユンの場合、この笑顔も確信犯だ。俺が悔しがってるのを見て楽しんでる。ユンはそういう性格なんだ昔から。
部活が終わった後、俺たちは約束通り1対1の勝負をした。
キーパー1人を配置して、自分たちがディフェンダーとなってシュートを決めた方が勝ち。
そんな単純な勝負。1回目も2回目もお互いシュートが決まったのに、3回目はユンがシュートを決め、俺は外した。
今回も負けだ。ちくしょう。すっごい悔しい。
ユンを抜くことに拘って、シュートコースを狭められたことに気づかなかった俺が悪い。
そんなことわかってる。だけど悔しいものは仕方がないでしょ?
「いいじゃん英士!ちゃんと格好よかったよ!ユンも格好よかったけど!」
「え?本当!」
「だからそんなに落ち込まなくていいよ英士!確かに負けたけど!
自信ありげにニヤリと笑ってたくせに負けたけど!!ユンの笑った顔の方が可愛かったけど!!気を落とさないで英士!!」
「嬉しいな!僕も可愛いって思うよ!」
「え?やだユン!そんな今更なことっ・・・!!恥ずかしいな!!」
お前落ち込んだ人間を慰めるとか、本当に向いてないよ。
俺だから耐えるけど。俺、大人だから堪えてやるけど。
ここで怒ったら八つ当たりになるから、何もしないけど。
その空っぽそうな頭をはたいてやりたい。心から。
「だからさ英士!次があるじゃない!」
「そうだよヨンサ!また勝負しようね!」
あまりにも毒気のない二人の笑顔。
悔しい気持ちが消えたわけじゃないけど。怒りなんて通り越して、肩の力が抜けていった。
家につくと、既に母さんが夕飯を用意していた。
がいるだけでもうるさかった食卓にユンが加わったことで更に騒がしさを増す。
母さんと二人だったときには考えられない光景だな。なんて、他人事のように感じていた。
夕飯を終えると、先に風呂に入れと言ったユンの言葉にあまえることにした。
1日動いたわけだし、すぐにでもシャワーを浴びたかったし。
風呂場へ向かって服を脱ごうとして、風呂を出た後に着るものを持ってきていないことに気づいた。
仕方なく自分の部屋に服を取りに行けば、誰もいないはずの部屋から声が聞こえた。
「・・・でね?ヨンサは素直じゃないんだけど、そこがまた可愛いよね!」
「たまに素直じゃなさすぎて、愛が痛いときがあるけどね!」
「あはは!それはにだけじゃない?」
俺の部屋で何語りあってるのコイツら。
お互いの部屋が用意されてるんだから、そこで話しなよ。
わざわざ俺の部屋とかすっごい意味不明なんだけど。
まったくいい迷惑。ちゃんと言って部屋から出ていかせようと思いつつ、ドアに手をかける。。
「ところでさ、僕ちょっとに聞きたかったんだけどね?」
「なに?」
「は好きな人いるの?」
「え?」
ユンの唐突な質問に、が驚きの声をあげた。俺もドアを開けようとした手を止める。
「好きって、どういう好き?」
「ん?恋愛感情で。」
さすがに恋愛を仕事としてるだけあって、「皆好きだ」なんて言葉は返ってこなかった。
それにしてもユンは何でいきなりこんなこと聞いてるんだろう。
もしかして俺とのこと、まだ勘違いしてるとか?
「んー。いないよ!何で?」
「だって、ヨンサと仲いいし!でも今日はカザマツリって子と仲良くしてたの見たからさ!」
「将?だって将だよ?毎日の癒しは将にもらわないと!!」
「ふーん?何だかよくわからないけど、カザマツリは違うんだよね。じゃあヨンサは?」
「英士?うん、好きだよ!大好き!!」
あまりに迷わずそんなことを言うから、不覚にも顔に熱を帯びていくのを自覚してしまった。
に赤くなるなんて、絶対もうないと思ってたのに。
「だよね?ヨンサもきっとそうだよ!のこと好きだよ!」
「え?」
「ヨンサも楽しそうだもん!といるとさ!従兄弟の僕が言うんだから間違いないよ!」
ちょっと待って。
おかしいから。確かにといると飽きないって思ってはいたけど。
好きだとかそんな恥ずかしいこと俺は言わないし思わないから。勝手に捏造しないで・・・!
「・・・そう、かな?」
「うん!」
「本当にそうなら嬉しいな!」
いつものだったら「そんなの当たり前のことだよー!」とか言いそうなのに
何だかとても謙虚だ。いつもそうだったらいいのにって思うくらいに。
「けど、ヨンサへの気持ちは恋愛感情じゃないの?」
「うん!」
「本当に?全然?」
「そうだよ!」
何だろう。何かが胸に引っかかった。
別に俺だってに対して、そんな感情持ってなかったし持つ気もなかった。
だからが俺をどう思おうとよかったんだ。
大体は自称天使で、俺とは違う存在。
恋愛感情なんて持たれても迷惑なだけだった。
なのに、何かが胸につっかえて。ざわついてる。
ちょっと、ショックだったのかな。
・・・まあ確かにごときに全然とか言われたら、ショックかもね。
「うーん・・・ヨンサにはみたいな子が側にいてくれたらって思ったんだけどなー!」
「あはは!大丈夫!英士は私がいなくても幸せになれるよ!」
「はっきり言うんだね?」
「彼には幸運の天使がついてるからね!」
何言ってるのユン。みたいな子が俺の側にいたら、俺の精神疲労がどれほどのものになると思ってるの?
ていうか幸運の天使って何?
まさか自分のことでも言ってるつもり?よくそんな恥ずかしい台詞が言えるよね。
「幸運の天使?何ソレ?お守りか何か?」
「うん!そんなとこ!」
これ以上話を続けさせていると、さすがにボロが出そうだ。
まあ、が天使だなんて話、いくらユンでも信じたりしないだろうけどね。
のその言葉と同時に、俺は部屋のドアを勢いよく開ける。
突然響いたその音に、とユンが同時に振り向いて俺を見た。
「・・・俺の部屋で何してるの?」
「え?とお話だよ?」
「だから!何で俺の部屋でする必要があるの。」
「後で英士も一緒にお話するためでしょっ!当たり前じゃん!」
「俺はひとりで静かに過ごしたいんだけど。」
「何言ってんの英士!私たちはいつでも一緒!」
「そうだよヨンサ!僕らいつだって一緒だったじゃない!!」
「・・・バカじゃないの二人とも。」
この二人にこれ以上何を言っても無駄だよね。今更だけど。
「散らかさないでよね。」
そう一言だけ残すと、俺は箪笥から必要なものを取り出して部屋を出た。
「あはは。やっぱりヨンサって素直じゃないけどいい奴だよね!」
「ね!」
「ねえはいつまでこの家にいるの?また会える?」
「・・・うん!会えるよ!」
「僕、明日帰るんだ。連休終わっちゃうからね。」
「えー!そうなの?!」
「といると楽しいしさ!また一緒に遊ぼうね!」
「うん!」
その時の俺は、二人のテンションについていくことに疲れて。
に対して感じた、自分の意外な感情に驚いていて。
任務が終わればは天界に帰ることも、俺の前からいなくなることもわかっていたけれど。
当たり前のように側にいるがいなくなるなんて、あまり想像できなくて。
と離れる時は少しずつ、それでも確実に近づいていること、全然気づいてなんかいなかった。
TOP NEXT
|