気づきたくなかったような気もするし
認めるのも悔しいけれど。
落ちてきた天使
「やだなぁヨンサ。女の子部屋に連れ込むだなんて、大人になっちゃって!」
「・・・ユン。何でここにいるの?」
「遊びに来たんだよ!学校休みだったし、ヨンサに会いたくなっちゃったから来ちゃった!」
ああ、うん。ユンはそういう奴だった昔から。
ていうか遊びに来ちゃったって距離じゃないといつも思うんだけど。
「それでその子は?紹介してよ!」
「・・・。」
「 です!英士の幼馴・・・ぐぇっ!!」
が決まり文句のように、俺の幼馴染だなんて言おうとするから
俺は咄嗟にの口を塞ぐ。両ほほを掴まれたはやっぱり変な顔になった。
ユンに幼馴染だなんて通じるわけないだろ?
小さい頃から俺とこの家を知ってるんだから、の存在を疑問に思わないわけがない。
あ、でも例の『天界の力』っていうのが働いているんだとしたら・・・。ユンも母さんみたいにを知っている設定になってたり・・・。
「?僕は李潤慶。ユンって呼んでね!」
「プハァッ!うん!よろしくね!ユン!!」
俺の手をはぎとって、とユンが笑顔で挨拶をかわす。
見たところ、ユンはと初対面のように話してる。の記憶を持たされている様子はない。
「顔そっくりだねぇ二人とも!」
「・・・俺とユンは従兄弟だから。」
「ほう!従兄弟!」
「ヨンサってばいつの間にこんなに可愛い子捕まえたの?僕に相談も無しにー!」
「勘違いしてるみたいだけど、は俺の彼女じゃないよ?」
「え?だってさっき二人で抱き合ってたよね?」
「それは不可抗力。」
疑問そうな表情でユンが俺たちを交互に見る。
簡単に誤魔化せるだなんて思ってなかったけど・・・。
恐らくユンは今日からウチに泊まっていくだろう。
そうなるとどう考えたっての存在を隠しようがなくなる。
母さんはを幼馴染だと思ってるわけだし、けどユンの記憶にはいないみたいだし。
はそれをどうするのか、考えているのだろうか。
「・・・そうだ。さっき母さんが呼んでたよ?言い忘れてた。」
「え?本当?!早く言ってよ英士!!」
「それとユン。俺、喉渇いたから飲み物でも持ってくるよ。待ってて。」
「うん?わかった!」
そうしてと一緒に部屋を出る。
階段を下りて母親の元へ行こうとするの後ろ襟を掴んだ。
首を絞められる形になったがまた変な声を出して咳き込んだ。
「え、英士さん・・・?!な、何をなさりますか・・・?!」
「、ユンに自分のことなんて説明する気だったの?」
「そりゃあ幼馴染って・・・言おうとしたら英士に顔掴まれたけども。」
「ユンは俺の従兄弟だよ?小さい頃からうちにもよく来てた。が幼馴染ならユンだって名前くらいは知ってるってことになるからね?」
「大丈夫だよー。その辺の記憶操作は天界でやってくれるもん。英士のお母さんだってそうでしょ?」
「・・・だけどユンはのこと知らなかったみたいだけど?」
「・・・あれ?」
あれ?じゃないよ。気づけよ自分で。
「どうでもいいけど、天界の力って言うのもあまり当てにならないんじゃない?」
「ええ!でもおばさんにはちゃんと・・・はっ!!」
「・・・聞きたくないけど・・・何に気づいたわけ?」
「イユンギョン・・・?ユンってもしや・・・外国の人?!」
「うん。韓国人。それがどうかした?」
「じゃあ日本に住んでないの?」
「まあそうだね。」
「それはいかーんっ!!大変だよ英士ーーー!!」
「うるさい。ユンに聞こえる。」
「痛い!!」
突然騒ぎ出したの頭をはたいて、うるさいその声を止める。
まだここ俺の部屋の近くでしょ。見ればわかるでしょ。大声だしたらユン聞こえるのわかるでしょ。
バカじゃないの本当に。知ってるけど。
このままが大声を出して騒ぐのは目に見えているので、バカ
を引っ張って俺の部屋から離れた。
「何でそんなグローバルな付き合いしてるの!英士なんて人付き合い狭そうなのに!!」
「あはは!何だとこのエセ天使。」
「ごめんなさい。すみません。もう言いません。」
何て失礼な。そりゃ確かに人付き合いは狭いかもしれないけど、余計な付き合いを増やしたくないだけ。
そしてすぐ謝る。だからなんでそんなに怯えるわけ?
「人の親戚関係に文句つけないでくれる?」
「す、すみませんでした・・・。」
「それで?何でユンが外国人だと大変なわけ?」
「・・・天界の力、効かないです・・・。」
「は?」
「天界にも管理範囲と言うものがあってね?私の属してるところは日本を管理してるわけですよ。」
「・・・へえ。そんなのがあるんだ。」
「でね?力が働く範囲って管理範囲と一緒なんだよね。
私がここに来た日に日本にいなかった人は記憶操作の対象に入ってないわけで。」
つまり、天界の力は日本にしか効かない。
恐らくその天界の力って言うので記憶操作がされたのは、が現れた日。
その日に日本にいなかった人間は、記憶操作の対象にならないってことだ。
国内に単身赴任中の父親が帰ってきても、は俺の幼馴染設定として父親の記憶が操作されているんだろう。
けれど、その日に韓国にいたユンは記憶操作の対象に入らなかったってわけだ。
まあわかった。わかったけど。
「何その中途半端。そんなことにまで頭が回らないって天界ってバカなんじゃないの?」
「バカー!何てこと言うの英士!天罰くだるー!」
「誰がバカだ。そんな空の上の天罰よりも、罰くらい俺が直接手っ取り早く落としてあげるよ?」
「うわぁ!勘弁して!・・・って何で私に天罰くだる話になってるの?!」
アメリカとかたくさんの国の人間が集まるところは一体どうしてるんだか。
そんなことを聞く気力もなくなって、俺はわめくを無視して階段を降りていく。
「ね、ね、ね!英士どうしよう!こうなったらもう英士の婚約者で一緒に住んでるってことに・・・「却下。」」
「じゃあどうしろって言うのさー!いいじゃんこんなに可愛い婚約者な「少し黙ってくれる?」」
あまりにも煩いの方へ振り向くと、案の定表情を固まらせた。
全く、俺だって考えてあげてるのにうるさいんだよね。
「ユン、お待たせ。」
「あ!ありがとヨンサ!あれ?は?」
「母さんの手伝いしてる。」
「で、やっぱりはヨンサの恋人なんでしょ?」
「違うよ。あの子は知り合いの娘さん。
事情があって彼女の親が外国に行ってる間、うちが預かることになったんだ。」
「えー!何だ。そうなんだ。」
ユンが結構あっさり納得してくれたことに安堵する。
母親がをお隣の娘さんだと思ってる以上、あまり複雑にするとボロが出るだけだから。
設定は変えずに嘘もつかず、これが一番無難な回答なんだろう。
ちなみには絶対変なリアクションして怪しまれるのは確実なので、リビングに置いてきた。
絶対来るな、と念押ししたらなんか泣きそうになってた。
「やめてよ。あんな奴頼まれても恋人になんてならないから。」
「とか言ってー!のこと好きなんじゃないの?」
「だから違うって・・・」
「だってヨンサ、といるときすごく楽しそうだったよ?」
「!」
ユンの言葉があまりにも意外で、俺は言葉を失ってしまった。
ていうか、さっき見ただけの少しの時間でそんなことわかるわけないでしょ。
「何言ってるのユン。大体俺たちが話してるところなんて、まだほとんど見てないでしょ?」
「部屋の外から話し声が聞こえてたよ?それに、がいるとヨンサの表情が豊かだ!」
やっぱり少し聞かれていたみたいだ。とはいえ、話の内容を聞かれた感じもないけれど。
それに表情が豊かって・・・。のあまりのバカさ加減に呆れたり、迷惑がってるだけ。
「どうでもいい人には表情だって出さないのに、の前ではいろんな表情を見せてたよ?」
それは。
は顔に出さないとわからない奴だからで。行動にうつさないとわからない、バカな奴だからで。
そんな、ユンが言うような深い意味なんてない。
「え、英士〜!」
ユンの台詞に言葉を失っていると、カチャリとドアが開く音。
そこには怯えた表情のが、お盆にお菓子をのせて立ち尽くしていた。
「お、おばさんが・・・おばさんがね!これ持っていってって!」
そんなに怯えた表情しなくたって大丈夫だよ。
どうせ母さんに持っていって一緒に話でもしてこいって言われたんでしょ?
ニコニコと薦める母さんの申し出を断るとかできなかったんでしょ?予想できるからそれくらい。
「ありがとーー!」
「う、うん。え、英士も食べ・・・英士?」
ちょっと注意しただけなのに、そんなに怯えて。
だけど持ってきたお菓子を食べれば、怯えたことなんて忘れるんだろう。
小さなことにいちいち大げさだし、考えなしの猪突猛進。
俺に迷惑ばかりかけてることも忘れて、学校生活まで楽しんだりして。
何度俺にうざがられたって、諦めなくて。それどころか一緒にいたい、だなんて言い出す。
迷惑なんだ。俺の平穏だって崩される。
だけど、嫌じゃない。
「それに、がいるとヨンサの表情が豊かだ!」
普段そんなに表情を変えることなんてないのに。
久しぶりに会った従兄弟が、一目見て楽しそうだと言うほどの表情なんて。
俺は一体どんな表情でいたんだろうか。
「どうでもいい人には表情だって出さないのに、の前ではいろんな表情を見せてたよ?」
認めるのは癪だけど。すごく、すごく悔しいけど。
「英士と一緒にいると、すごく楽しいんだ!」
俺も、楽しいのかもしれない。と一緒にいることが。
「ユ、ユンー!え、英士が黙り込んでるー!何か怒ってるよ絶対!!」
「え?あ、本当だー。」
「本当だー。じゃないよ!何暢気にしてるの?黒い大魔王降臨だよ!」
「・・・。」
「あはっ!あはは!ヨンサ大魔王だってー!格好いいっ!!」
怯えるの顔と、大口を開けてこらえきらないように笑い出したユンの姿。
あれ?何この怒りとイライラ感。楽しいだなんて気の迷いだったかな。
を一瞥すれば、ユンの陰に隠れて必要以上に怯えてる彼女。
ため息をつきながら怒ってないよと一言呟けば、その表情を少しだけ明るくした。
「ほ、本当に?魔・・・英士!」
「誰が魔王?」
「きゃー!!」
の額を軽くたたくと、泣きそうな顔で額をさすり出した。
全く大げさなんだからは。
「・・・。」
「・・・何?ユン。」
「・・・へへっ!別にー?」
そんな俺たちのやり取りを見て、ユンが楽しそうに笑う。
だからユンが思ってるような関係じゃないってば。
・・・まあ、といると飽きないって言うのは本当かもしれないけどね。
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