バカだよね。こんなにひどい扱いしてるのに。
それでも俺と一緒にいたいだなんて。
落ちてきた天使
「・・・あ・・・は・・・。」
「?」
「あははは!!何言ってるの英士?!天界は私の故郷ですよ?ふるさとですよ?!何故に帰りたくないなんて!」
「そう、見えるから。」
バカみたいに大声を出して。
バカみたいに大口で笑って。
それでも笑えてないよ。誤魔化せてないよ。
不本意だけど、わかってしまう。彼女の嘘が。
「何言ってるの英士!そう見えるって・・・。私のどこを見てそんなこと言うの?!」
「じゃあ帰りたいの?」
「か、か、帰りた、たいよ?帰って、見習いからちゃんとし、した天使に・・・な、なるんだからさ!」
「どもりすぎ。」
大体、って初めて会ったときから嘘が下手なんだよ。
結構な時間一緒にいたからっていう以前に、彼女が分かりやすすぎるだけだ。
「別に理由なんてどうだっていいけど。俺が言った言葉にいちいち変な表情するのは止めてよ。
俺は悪くないのに、悪者にされた気分。感じ悪いんだよね。」
「なんか隠れた優しさのような、ただ蔑まれてるだけのような・・・さあどっち・・・?!」
「そんなの蔑「私の心配してくれてるんだよね?!ありがとう英士・・・!!」」
どっち?!とか聞きながら、俺の言葉遮ったよコイツ。
まあ、どっちと思おうが別にどうでもいいけど。
「結局、何で帰りたくないわけ?」
「・・・う・・・」
「・・・毎回顔に出して俺を不快にするくらいなら話せば?くだらない理由だったら、また国語辞典でも投げつけるけど
ちゃんとした理由があるならこのポケット英語辞典で済むかもしれないよ?」
「あれ?辞書投げつけられるの決定?!」
と、いうわけで俺の横には2つの辞書が設置された。
がふざけたことでも言おうものなら、速攻でこの分厚い国語辞典を飛ばしてやろう。
「・・・話せば長くなるんだけどね?」
「手短に頼むよ。」
「ええ?!いきなり?!自分が話せっていったくせに?!」
「ああ、こんなところに国語辞典が。」
「手短に行っきまーす!!」
宣誓でもするかのように、がまっすぐに手を上げて。
けれど威勢のよい声とは対象的に表情は真剣になっていく。
「・・・怒らないで聞いてね?」
「それは絶対無理。」
「絶対?!まだ話してないのに?!」
「の話は今のところ100%で不愉快になってるから。」
「100%だなんてそんな、全部そうみたいなー・・・って全部だよそれ!!」
「というわけで、どうぞ覚悟して話してください。」
「何それ!何その敬語!もう見捨てましたみたいな雰囲気が漂ってくる!!」
「いいからとっととしなよ。」
「うう!ひどいよひどいよ。何で怒られるの前提で話しなきゃ・・・「ああ、こんなところに漢和辞典が(増えた)」さて話そうか!!」
ようやくきちんと話す気になったようで、がその場に座り直して深呼吸する。
そして少しだけ顔を俯けたまま、話を始めた。
「私・・・天界の学校であまり成績がよくなかったの。」
「ああ、納得。それで?」
「・・・周りはエリートばっかりで、皆私を見下してて。」
「ああ、何か見下されてそうだよね。」
「皆、言うの。私が天使になんかなれるはずないって。
落ちこぼれなんだから、そんなの諦めろって。」
「ああ、エセ天使だもんね。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・英士、さっきから傷をえぐられてる気がするんだけど。」
「ああ、気のせいだよ。」
「気のせいなわけあるかぁっ!!」
叫びだしたを見つめて、隣の国語辞典と漢和辞典を掴むと
がそれを見て固まり、すぐにもとの位置に戻った。
え?本当に投げつけるつもりだったわけじゃないよ?威嚇ね威嚇。
「だから、皆を見返してやりたかった。」
「・・・。」
「ちゃんとした天使になって、私でもやれるんだって見せ付けてやりたかった。」
「・・・それじゃあ天界に帰りたくない理由にはならないよね。それならむしろ、早く任務を終わらせたいはずでしょ?」
そう言った俺を見て、はまた顔を俯けた。
けれどそれは悲しそうな顔ってわけじゃなくて。
少しだけ見える彼女の顔はうっすらと赤くなっていた。
「・・・初めて、だったから。」
「何が?」
「一緒にいて、楽しいって思えること。」
「・・・え・・・?」
「天界は私をバカにしたり、見下したり、無視する人ばっかりだったから。
そこはすごく冷たくて、楽しいだなんて思えたことなかった。」
「・・・。」
「だけど英士の側にいると、何だか温かくて。
おかしいよね。英士だって私のことバカにしてるし、ひどいことだって言うのに。
それでも英士と一緒にいると、すごく楽しいんだ!」
顔を赤くして、屈託のない笑顔でそんなことを言うから。
俺は不覚にも言葉を失ってしまった。
「・・・天界に帰ることが嫌なんじゃないの。英士と・・・離れることが寂しかったんだ。」
が不安そうに俺の顔を覗く。
そりゃそうだよね。俺は最初に迷惑かけるなって言ったし。
早く俺の家から出て行けとも言ったし。
仕方なくだけど、任務に協力するようなことにもなってる。
なのに、そんな個人的な理由で。
俺と離れたくないから帰りたくないだなんて。どれだけガキなわけ?
「バカじゃないの?」
「うっ・・・。やだ英士!追い出さないでっ!!任務もちゃんとやるからっ!!」
「当然でしょ?ちゃんと・・・」
「・・・英士?」
あまりにまっすぐすぎるの言葉。
が側にいたってきっと毎日うるさいだけで。
そんなこと思われたって迷惑。迷惑なはずなのに。
「ど、どうしちゃったの英士?!顔赤いよ?!」
「・・・っ・・・。」
何でこんなに胸がざわつく?
顔が、熱くなる?
「何でもないよ。うるさいな。」
「な、何をー?!心配してるのにー!!」
ホラ、側にいるとこんなにうるさい。
こんな風にうるさい奴なんて、結人だけで手一杯だよ。
にはとっとと任務を終わらせてここから出て行ってもらおう。
けれど。
「・・・結局、随分自分勝手な理由だったわけだね。」
「わぁ!話が戻っちゃったよ!」
「まあ、理由はわかった。」
「・・・え・・・英士っ。あの・・・。」
「・・・追い出したりしないよ。残念だけど。」
「・・・え?」
望んでいたのは、静かで何も変わらない平凡な日常。
のいるうるさくて、騒がしい日常なんかじゃないけれど。
「そしたらはまた別の奴に迷惑かけるんでしょ?そうなったらソイツ、あまりに不憫だし、俺も後味悪くなるし。」
「英士・・・。」
「任務はちゃんとやりなよ。手を抜いたりしたら・・・」
「やりますやります!ですのでその手に持つ国語辞典を置いてくださいませんか英士さん!!」
不本意だけど、いつの間にか慣れてしまっていたこの日常。
もう少しくらいなら、このまま過ごしていたっていい。
「・・・っ・・・ありがと英士っ!!」
「別にって・・・うわっ!!」
本当に嬉しそうに笑いながら、が俺に飛びついてきた。
引き剥がそうとしても、その無駄な怪力に逆らう術もなく。
「本当、いい迷惑。」
「へへっ。」
「笑うとこじゃないでしょ。」
迷惑だって言ってるのに、彼女は笑う。
そして俺を抱きしめる力も強くなる。
・・・っていうか、それ以上は本当に止めろ。骨折れるから。
「・・・そういえば、何でそんなに嫌われてたわけ?」
「えっ?」
「いくらがうるさくてもうざくても、全員が全員そこまで嫌わないでしょ。」
「・・・それは・・・。」
ガチャッ
突然部屋のドアの開く音。
ノックもせずに開かれたそのドアの方へと視線を向ければ。
「ヨンサーーー!!」
そこには久しぶりに顔を見る従兄弟の姿。
ちょ、ちょっと待て。ユンは韓国にいるはずでしょ?何でここに?
「わあヨンサ!その子ヨンサの彼女?!」
が彼女って何をバカなことを・・・と思ったものの
今の俺との密着状態。誤解されても仕方のない状況・・・。
ああ、また面倒なことになりそうだ。
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