時々見せる感情の変化とか
それがわかるほどに一緒にいたんだ。不本意だけどね。
落ちてきた天使
「ねえ!聞いて聞いて英士!」
「嫌だ。」
「栗色ちゃんってばめっちゃ可愛いんだけど!!」
「人の話聞いてる?」
「将と栗色ちゃんかぁ〜。可愛い可愛い!恋愛って素晴らしいネ!!英士!!」
「・・・。」
せっかくの何もない休日。
友達と出かけるっていうのも悪くはないけど、一人で静かに過ごす休日も好きだ。
部屋でゆっくり本を読もうとか、DVDを見ようとかいろいろ考えていたわけだけど。
何か、もういいや。
が家にいる時点で、俺の静かな休日は諦めるべきだったんだよね。
とりあえず勝手に突っ走るコイツはほっておいて、俺は本でも読んでいよう。
いちいち反応を返してても疲れるだけだし。そのうちも諦めて部屋を出ていくだろう。
「昨日ね、ドリンク片付けてる途中に栗色ちゃんが来て手伝ってくれたのね?」
の話を右から左に聞き流しながら、俺は本のページをめくる。
「二人で洗い物してたら、栗色ちゃんに質問されてね?」
うーん、あまり面白くないなこの本。借りてきたの失敗だったかな。
「『あ、あの・・・先輩は・・・かっ・・・風祭先輩が好きなんですか・・・?』」
恐らく桜井を真似ているつもりのその言葉。(全然似てない)
そんなに見向きもしないまま、俺はまたページをめくった。
「だから私は言ったのね?『勿論!大好きだよ!!』と・・・!!」
・・・・・。
「そしたらね。
『わ、わ、私もっ・・・!あの、ま、負けませんっ・・・!!私だって風祭先輩のことっ・・・あ、う・・・。とにかく負けません!!』」
・・・・・・・・・・・。
「ライバル宣言されちゃったっ☆」
「何やってるのお前。」
・・・しまった!つい反応してしまった。
ああもう、俺がツッコミを入れるとかおかしいでしょ?キャラ違うよね?俺はそういうキャラじゃないよね?
「へへっ。栗色ちゃんは将が本当に好きなんだねぇ〜。」
「・・・だから俺がそう言ってたでしょ。」
「後は将の気持ちだね!将とは心の友な私が気持ちを聞き出してやろう!」
「・・・止めといた方がいいと思うけど。」
「む?何で?」
「が関わるとロクなことがないから。ほっとけばそのうちくっつくでしょ。」
「あはっ!そっかぁ☆って、ロクなことあるある!!めっちゃあるから!」
耳元で騒がれて集中力も途切れてしまった。ただでさえつまらなかった本はもう閉じざるを得ない。
「ロクなことないわけないから!超あるから!」と隣ではがまだ騒いでる。
終いには「あれ?ロクなこと・・・ロクなことってどういう意味?」とかどうでもいいことをしつこく聞いてきたので
机にあった辞書を投げつけてやった。(見事額にクリーンヒットだ)
「ロクロクロク・・・
『下に打ち消しの語を伴って、物事の正常でないこと、まともでないこと、満足できる状態でないこと、また、そのさまを表す。』
へえー。そうなんだぁ!・・・って正常ー!まともだよ!!めっちゃ満足してるでしょ英士?!」
・・・そこで俺に何と言ってもらえると?
「あはは!まさにの為にある言葉だね!」
「ぎゃー!!ひどいひどい!こんなときだけ爽やか!!」
何、こんなときだけって。喧嘩売ってるのかなコイツ。
「まあでも、あの二人はほっといたらいつまで経ってもくっつかないかもね。」
「でしょ?!だから私が!!」
「いいんじゃない?俺関係ないし。」
「関係あるよ!あるよ英士!そんなこと言って拗ねないで!仲間はずれになんてしないから!!」
「仲間外れでいいよ。むしろ心から希望します。」
「そんなことさせません!さんは仲間外れとか許しません!!」
え、何それ。どこの熱血教師?
そんな押し付けがましい正義感とかいらないから。
「・・・まあ、風祭と桜井が早くくっつけば俺も・・・」
俺もから解放されるし。なんて、いつも言っているような憎まれ口が浮かぶ。
けれどそれは不自然に途切れた。というよりも、俺自身がそれ以上の言葉を続けることができなかった。
「私は・・・私は寂しいな。英士に会えなくなったら。」
には正直な気持ちを何度も言ってるし。
思いあまって首を絞めたり、横チョップを食らわせたり、国語辞典を投げつけたりもしてる。
そこらの女の子が言われたら、泣いて逃げるような台詞だって言っている。
それでも全然へこたれない彼女。俺の言葉なんて無視するかのように自分の道を突っ走る。
そんな彼女に付き合わされて、何日も経って。
彼女の微妙な表情の変化がわかるようになってしまった。
どんな悪態をついても、へこたれない。
けれど俺がその言葉を言うとき、端から見れば気づくことはないくらいに小さく、悲しげな表情を見せるんだ。
だから俺は思わずその言葉を止めてしまった。
彼女がどう思おうと関係ないと思っていたのに。むしろ俺を嫌ってくれた方が好都合のはずなのに。
「・・・わーかってるよ!だから英士も協力してよね!」
「あ・・・うん。」
「わーい!今英士返事したね?したよね?頑張ろうね!!」
俺がに気を遣うとか、気をつけて喋るとか。そんなことはもう無理。
だからといって、その言葉を言ってモヤモヤとした気分になるのも御免だ。
「・・・ねえ、ちょっと質問。」
「なーに?英士から質問だなんて珍しい!」
必ず見せる悲しげな表情。
それは彼女がいるべき場所の天界に帰る話をするとき。
「、天界に帰りたくないんじゃないの?」
俺がそう言ったその瞬間、うっとおしいくらいの笑顔だったは驚いたように目を見開き
まるで核心をつかれたかのように言葉を失って固まっていた。
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