彼女の思考回路には、やっぱりついていけない。



















落ちてきた天使



















「へえ。貴方が転校生のさん?」

「はい! です!英士の幼馴染です!」





だからそれは言わなくていいってば。
何でお前はいつもそこを強調するんだよ。





「うちにもいろいろあって、そう簡単にマネージャー希望を通すわけにもいかないから。
ちょっと話を聞かせてね?あ、私は2年の小島 有希。女子サッカー部の部長をやってるの。」

「女子サッカー部?」

「うちは女子サッカー部がマネージャーも兼任してるの。まあ、こっちも練習があるから
基本的には自分たちのことは自分でやってもらってるけどね。」

「へえ!そうなんだ!」

「知らなかった?まあ、転入してきたばかりだから仕方ないか。」





水野に入部届を出したは(水野はやっぱり引きつった顔だったそうだ)
放課後サッカー部に連れられ、女子サッカー部部長である小島の見きわめテストを受けさせられる。

男目当てでサッカー部に近づく女子たちを一蹴する目的だ。
実際、横で仕事もせずにキャーキャー言われたって困るしね。
他の女子に嫌われることもあるだろうに、小島はよくやっていると思う。

そして例にもれず、もそのテストの対象者となったわけだ。
ちなみに俺は危険を察知した水野から、近くでを見ておいてくれと言われた。いい迷惑だよ本当。

男目当てはないと思うけど、真面目さが見えないを小島がどう見るか。
どうせだったらそのままテストに落ちてくれていいんだけど。





「何でサッカー部に入ろうと思ったの?」

「将・・・じゃなかった栗色ちゃん・・・!でもなかった・・・えっと・・・」





お前バカでしょ。本音めちゃくちゃ口に出てるけど。理由くらいちゃんと考えておきなよね。





「・・・はい?何?」

「楽しそうだから!!」

「・・・。」

「・・・?」

「え?それだけ?」

「え?うん!それだけそれだけ!!」





それだけって・・・。
入部テストだっていうのに、入部理由が一言だけなんてありえないでしょ。
たとえ本当のことが言えなくたって、もっとマシな理由くらい思いつかないの?
ああ、本当にバカだなコイツ。





「・・・じゃあ何で楽しそうって思ったの?」

「皆笑ってるでしょ?すごく生き生きしてる!見てたらわかるよ!!」

「・・・。」

「何?!そんなにじっと見つめて!そんな熱い目で見られても困るよ?!





困るのはお前の思考回路だと思う。
小島もの危険性を感じてるのかもね。いいと思うよ。危険性を理由にテストに落とせばいいと思うよ。





「昨日、風祭に抱きついてたって聞いたけど?」

「将ね!うん!将はそりゃ抱きつくよね!心のオアシス!私の癒し!!」

「・・・。」

「何?!だからそんな熱い目で見られても困るんだってば!!」

「何だかすごく個性的な性格なのはわかったわ。まあ郭の幼馴染だしね。





あれ?今なんかすごく失礼なこと言われたよね俺。
すごく心外なんだけど。屈辱なんだけど。俺とそこの変人を一緒にしないでほしい。





「男目当てでもなさそうね。後は・・・。」

「後は?」

「やる気があるか、ね。」

「やる気!あるある!めっちゃありますぜ姉さん!!」

「・・・今日1日マネージャーの仕事をこなしてもらうわ。その仕事ぶりで決めさせてもらうわね。」

「おう!任せとけ!!」





小島が呆れた表情でを見る。
そして、その近くにいた俺に「アンタも大変ねえ」みたいな視線を向けた。全くだよ。

そしてそのまま近くで部活の準備をしていた桜井へと声をかける。
どうやら仕事の内容をに伝える役目を頼んだようだ。
・・・って運がいいよね。風祭のときといい、タイミングよく都合よく対象に近づける。
天使の力ってやつ・・・は制限されてるんだっけ。じゃあやっぱり運か。
あれだけ喚いたり、騒がしくしたり、周りに迷惑かけたりしてるのに。運だけでここまで来てるような感じだよね。





「よろしく!栗色ちゃん!」

「え・・・?栗色・・・?あの、私、桜井 みゆきって言います。」

「うん!私は !よろしくね!栗色ちゃん!」

「は・・・はあ。よろしくお願いします。」





桜井。そいつ殴ったっていいんだよ。
自己紹介してるのに、それを無視して自分で決めた勝手な呼び名で呼んでる奴なんて、殴ったっていいんだよ。

そんな二人を眺めていたら、水野からの集合がかかった。
説明を始めた桜井とそれを聞いているを一瞥して、俺はそちらへと向かった。


















「えーいーしー!!お疲れ!!」

「・・・。」

「おっ!ちゃんどうだった?小島何だって?」





今日の練習が全て終わって。最後の挨拶を終えて片付けを始めようとすれば
そこにはうるさいくらいのの声。
俺たちに配るタオルを振り回しながら(これから使うんだから振り回さないでほしい)こちらへと駆け寄ってきた。

がサッカー部のマネージャーになりたいと言っていたのを聞いていた結人が
へと合否の結果を聞く。とはいえ、その態度から大体はわかるけどね。





「明日から正式にマネージャーでっす!」

「やったじゃんちゃん!よかったな英士!」

「何で俺にふるの。」





止めてよ結人。
その言い方だと、俺がにマネージャーになってほしいと思ってるみたいじゃないか。
そんなこと微塵も思ってないよ。全く。





「だけど・・・条件つけられた・・・。」

「条件?何?」

「・・・部活の邪魔にはなるなとか。真面目に仕事しなかったらすぐに出て行ってもらうとか・・・。」

「まあそれは当たり前だね。」

「ひでえな小島。ちゃんしっかり仕事するよな?」





いや、小島はひどくないよ。すっごい正論言ってる。
この短時間での性格を把握した小島はさすがと言うところだろうか。
それくらい言っておかないと、絶対コイツ調子乗るからね。






「それと・・・うぅっ・・・!!」

ちゃん?!」





今度は涙目になって、俯く。
泣くほどつらいことでも言われたらしい。
でもの思考回路が読めるわけがないから、一体何を言われたのか。






「将に抱きついたらダメだって言われたっ・・・!!」

「「・・・。」」





俺たちの無言の意味も伝わらず、は涙を浮かべて、ぐずっている。
さすがの結人さえもそんなから目をそらさざるを得なかったらしい。(そりゃそうだよね)





「行こうか結人。片付けまだ終わってないよ。」

「そうだな。うん。」





そんなを残し、俺たちはグラウンドへ備品の片付けに向かった。
未だ一人で苦悩しているを一瞥して、盛大なため息をつきながら。









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