相性がいいだなんて、思ったことはないけれど。






















落ちてきた天使















「よぉっし!今日も1日頑張ろっかね!英士くん!!」

「・・・。」





朝練の為に起きたその時間。
朝食を食べにリビングへと行けば、そこには既に朝食を口いっぱいにほおばっているの姿。





「どうしたの。こんな朝から。はもっと遅くに家を出るんでしょ?」

「朝練の見学しようと思って!将と・・・栗色の子のことも知りたいしね!」

「・・・そう。」





昨日のような感じはもうないし、笑っているんだけど。
いやに真面目に答えるに調子が狂う。





「と、いうわけで!英士も栗色ちゃんのこと教えてよ!
昨日意味深なこと言ってたよね!!栗色ちゃんが将のこと好きだとか!!」

「・・・まあね。ちなみに彼女、桜井 みゆきって名前だよ。」

「あ、そうなの!でも栗色ちゃんは栗色ちゃんだし!!わかりやすくていいでしょ?!」

「・・・そのまますぎだしセンスないと思うけど、まあどうでもいいよ。」

「何だよー!いいと思ってるくせに!素直じゃないんだから英士は!!」





ようやくいつもの調子に戻ってきた。
って、何それ。がこうなることを望んでいたみたいな。
まさかそんなこと、思うはずないし。俺もちょっと調子がおかしいみたいだ。





「・・・だけど、風祭は桜井の気持ちに全然気づいてないけどね。」

「ええ?!ダメだな将は〜!!」





・・・うん、まあ確かに風祭は呆れるくらいに鈍いと思うけど。
お前にダメだとか言われたくないと思うよ。





「風祭がその気にならない限り、あの二人はあのままだろうね。くっつくのに何年もかかりそう。」

「ふっ・・・!それを何とかするのが私の役目!優秀な天使(見習)である私の役目なのだっ!!」





勝ち誇ったように自分の胸をドンと叩いたを見て
俺の朝食を用意してくれていた母さんが、「二人とも楽しそうね〜」なんて暢気に笑う。
俺はため息をついてから、そこに用意された食事へと手を伸ばした。























朝練が終わり、SHRまでの短い時間。
ざわついた教室の中で、より一層うるさい隣から聞こえてくる声。
俺は鞄から荷物を取り出しながら、彼女の方を向きもせずにその話を聞いていた。





「私が思うにね、英士。」

「いきなり何を思ったか知らないけど、あまり聞きたくないな。」

「まあそう言わずに!聞いておくれよカックン!!」

「・・・。」

「わ、わかった!わかったから英士!もう呼びませんから!!」





どうやら相当その呼び方がお気に入りらしいね。
でもそんな呼び方は許さないよ。何が悲しくてカックンなんて呼ばれ方。
水野のタレ目も相当だけど、まあそれは水野だし。





「将もサッカー部。栗色ちゃんもサッカー部。そして英士もサッカー部!!」

「俺は関係ないけどね。」

「つまりキーはサッカー部ってことですよ!英士さん!!」

「へえ。にしては賢いね。」

「ええ!私は賢いのです!!」





俺のさりげない嫌味の言葉をわかっているのかいないのか。
そのことには触れずに話を進めていく。





「私、サッカー部のマネージャーになろうと思って!」

「・・・は?」

「何その嫌そうな顔!!こんなに可愛い子がマネージャーになるんだよ!そこは喜ぶところだ!!」

「へえ。可愛い子?どこに?」

「ここに!!」

「どこに?」

「ここに!!」





うん。終わらないからもう止めよう。
えっと、今のは、俺の家にいて、同じクラスで(しかも隣の席で)。
俺の平穏な日常と言えば、部活しか残っていなかったわけで。



がマネージャーになる。それはつまり。





「それは止めて。お願いだから止めて。」

「へ?何で?英士が私にお願いなんて珍しい!」

「俺の平穏な日常が全てなくなるなんて耐えられない。」

「何言ってるの英士!今が平穏な日常じゃない!」

「空から降ってきて、そいつは自分を天使だとか言って、訳のわからないことを無理矢理協力させられて
毎日のように迷惑かけられてる俺のどこらへんを見れば平穏だと?」





あはっ☆と語尾に星マークまでつけて「迷惑なんてかけてないよ!むしろ幸せでしょ?!」と言ったに手を伸ばして。
気づけば軽く首を絞めてた。ああ、別に確信犯じゃないよ。無意識で本能。え?タチが悪い?そんなことないでしょ。





「わかったわかった!でもサッカー部に関わらないとあの二人をくっつけるの難しいよ!」

「見学にでもくれば?それくらいなら別に。」

「だって・・・タレ目さんが部外者は立ち入り禁止だとか言うんだもん。」

「まあ、水野の言ってることは正論だし、そこは俺にもどうにもできないな。」

「だから部外者じゃなくなる為にマネージャーを!!」

「・・・。」

「あ!それか英士の彼女にでもなって、彼女の特権とか・・・
「マネージャーで。」





の聞き捨てならない言葉に反応し、つい言ってしまった。
よっしゃあ!と気合を入れながら、どうやって入部すればいいかな!とか聞いてくるを前に
前言撤回もできず、入部希望書を出すことを告げた。

ていうか、サッカー部に彼女の特権とかないからね。
でも、たとえそう言ったっては本当に俺の彼女だとか言いかねないから怖い。
ただでさえ幼馴染設定ってだけでも困ってるのに、こんな変人が彼女だなんて思われたら。

それに比べたら、の任務が終わるまでか長くて1ヶ月。
俺のサッカーの練習に支障をきたさないならそれくらい、我慢できるだろう。
も任務のことで必死なんだし、それくらいは大目に見ても・・・






「よぉっし!将のお世話してあげようっと!!」






・・・限定?
えっと・・・ああ、まあ任務対象だもんね。






「入部希望って誰に出せばいいの?先生?」

「いや、部長に。そこから顧問に経由するから。」

「部長って誰?」

「・・・水野。」

「え?!タレ目さんが部長だったの?!」

「なったばかりだけどね。最近3年が引退したから。」





頷きながらが少しだけ困った表情を見せる。





「私、タレ目さんとはどうも合わない気がするんだよねえ。」





奇遇だね。俺もだよ。
俺の場合は性格が合わないのと、同じポジションなのと、後は・・・まあいろいろあるんだけど。





「昨日のタレ目さん!引きつった顔して私のこと見てたんだよ!失礼しちゃうよね!!」

「それは仕方ないと思う。」

「ええ!何で!!」





そりゃ、赤い糸の相手が男だとか。
男同士だけど可愛いから大丈夫だとか。
いつまで経っても直らないタレ目のあだ名とか。



俺だったら軽く10回くらいは首絞めてると思うよ。





「しかしっ!そんなことに負けるさんではないのだ!引きつった顔ならいつも英士の顔見てるから!!」

「何それ。失礼だな。」

「でも英士とはピッタリだよね!何でかな!」





そんな言葉だけ残して、は入部希望書を貰いに教室を出た。
・・・全く何を言ってるんだか。どこをどう見たら俺たちがピッタリだとか言えるのかな。
の行動も言動も俺を困らせる材料でしかないし、だって俺に何度も悪態つかれてるくせに。
それなのに・・・どこがピッタリとか言えるんだろうね。

が教室を出ていってすぐに、授業開始の鐘の音が鳴った。
バカだな。今から入部希望書もらいに行ってどうするんだろうね。
勿論俺はそれを知らせに追いかけたりはしないよ?ていうか、鐘が鳴った時点で気づくしね普通は。

それでもは入部希望書を貰いに職員室に行って、今はHRの時間だと先生に怒られて。
がっかりした顔で教室に戻ってくる。そんな彼女の姿が想像できてしまった。



そして俺の想像通りの結果を持ってが教室に戻ってきたのはそれから3分後。
あまりに予想通りの彼女の姿に、俺は誰にも気づかれないくらいに小さく笑った。












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