感じた違和感。





望んでいたのは、この時間なのに。



















落ちてきた天使



















「いやあ!参った参った!!」

「・・・。」





部活から帰ってきて、シャワーを浴びて。
母さんの作ったお菓子で腹がいっぱいになったというのいない平和な夕飯を終えて。

そして部屋に戻って目に入った光景にため息をつく。





「・・・何してるの。」

「お菓子食べてるの!」

「・・・。」





俺の質問の意味がわかってないとか
わかったところでどうせ追い出すけどね。とか
いろいろ言いたいことはあるけど。

ってお菓子の食べすぎで夕飯食べなかったんじゃなかったっけ?





「まあいいや。どうでもいいけどとっとと出てってよ。」

「いやあ!参った参った!」

「ねえ聞いてる?」

「いやあ!参った参った!!」

「俺疲れてるんだよね。主にのせいで。

「いやあ!参ったまい
「黙れ。」・・・はい。」





どうにかして俺に話をしたいらしいあまりにうざったいので、とりあえず俺の言いたいことを簡潔に言ってみる。
そしたら意外と素直に黙った。あれ?結構素直だね。え?俺が怖いから?あはは!まさか!





「疲れてるって言ってるでしょ。のバカな話聞いてる気分じゃないんだよね。」

「バカじゃないよ!任務の話!仕事の話!真面目な話!!」

「赤い糸が男同士でつながってるとか本気で思って、しかもそれを受け入れて
可愛いから大丈夫!とか大声で言う奴からどうやって真面目な話を聞けと?」

「ちょっとした間違いじゃん!心が狭いな英士!!」

「・・・。」

「ごめんなさい。」





速いな。謝るの。
いっとくけど俺は別に何もしてないからね。ちょっと睨んだだけだからね。





「でね。将の赤い糸の相手わかったよ。」

「でね。じゃないよ。人の話聞いてた?」

「え?!気にならないの英士!そういうの気になるお年頃でしょ?!

「別にどうでもいいよ。俺関係ないし。」





まあ全然気にならないかと言われれば嘘になるけど。
あまり関わりのない風祭のことなど、実際ほとんど気にならない。
それ以前に、そんなちょっとした好奇心で話を聞くことで既に後悔することが起こってるから。
ここは聞かないのが賢明でしょ。





「栗色の髪のね、ショートカットの女の子!」

「ねえ。だから人の話聞いてる?」





俺の話も聞かずにどんどん話を進めていくに呆れながら、
その外見に当てはまるサッカー部女子を頭に思い浮かべた。当てはまる人物は一人しかいない。





「タレ目さんの真後ろにいたっぽくてさ!丁度将とその子の間にタレ目さんがいたってわけなのよ!
そりゃ誰だって見間違えるよねぇ〜?」





それはお前だけだ。
と、突っ込みたかったけど、あまり反応するとが調子づくから止めておこう。





「で、わかる?英士。その子と将ってどんな感じ?」

「・・・。」





もう何度俺が出て行けと言おうが、ここに居座るつもりなんだろう。
俺はため息を一つついて、とりあえずの質問に答えることにした。





「どんな感じも何も・・・。桜井は風祭のこと好きだと思うけど。」

「ええ!本当ですか!私仕事しなくても良いですか!!」

「いや、仕事はしろよ。」





何その顔。仕事しなくてもいいって嬉しそうに。
お前は一体何をしにここに来たんだよ。仕事はきちんとしてほしいものだね。(俺を巻き込まないでほしいけど)





「・・・ていうか、桜井と風祭が付き合ったらの仕事は終わりなわけ?」

「うん!対象の相手を幸せにすることが天使の役目だからね!」

「仕事が終われば、えっと・・・天界に帰るわけ?」

「そうなるね!」

「なんか俺、やる気になってきたよ。」

「え?本当?!嬉しいな英士がやる気になるなんて
・・・ってあれ?何かひどくない?





訳のわからないの仕事。
けど、それが終われば、は天界に帰る。
俺もこんなやっかい事から解放される。1ヶ月も待たなくたっていいわけで。

関わるつもりなんてなかったけど、そういうことなら話は別。
ある程度の協力はして、早く天界にでも帰ってもらうのも一つの手だよね。





「私がいなくなったら英士、寂しくなるに決まってるよ?!」

「そんなことないね。むしろ早く平穏な日々を返してほしいくらいだから。」





そう。俺が好むのは平穏な日々。
こんなエセ天使がいる日々なんかじゃない。
この猪突猛進で自己中心的な天使に振り回される日々なんかじゃないんだ。





「ふーん・・・。」





ふと見せた悲しそうな表情。
少しだけ感じた胸の痛みは、きっと気のせいだ。
俺が欲しいのは平穏な日々で。寂しいとか悲しいとか思って胸が痛むはずなんてないから。





「私は・・・私は寂しいな。英士に会えなくなったら。」





笑いながら、それでも切なそうにしてそんなことを言うから。
その後に続ける言葉を失ってしまった。
いつもに言っている憎まれ口なんて、いくらでも思い浮かんだはずなのに。





「よーし!じゃあ栗色の髪の子の情報!教えてもらおっかな!!」」





思わずかけた言葉は、いつもの調子に戻ったの声にかき消されて。
・・・俺は今、何を言おうとしたんだろうか。





「じゃあ私の天使昇格に協力してよね!英士!」





いつもの調子・・・のはずの
けれど感じる違和感。笑っているのに笑っていない。
うるさいくらいに明るいはずなのに、覇気が感じられない。





「・・・・・・?」





いつもの呆れた顔じゃなく、神妙な顔つきでを見た俺の視線から逃げるように目をそらした。
気づいたのかもしれない。自分が笑えていないこと。





「あはは!どうしたの英士!そんな眉間に皺なんてよせちゃって!
わかった!わかったよ!疲れてるんだよね!!じゃあさんは部屋に戻るよ!!」





ドアから出て行くを無言で見送った。
だって別に、に違和感を感じたからって、俺がどうこうすることじゃないでしょ?
俺は疲れていたんだし、に迷惑していたし、問題なんて、ない。



が出て行った後のその部屋。
先ほどとはうってかわって訪れた静寂。

望んでいた一人の時間。
うるさい奴もいなくなって、ようやくゆっくりできる。


なのに。
頭に浮かんでいたのは学校の宿題のことでもなく、サッカーのことでもなく



悲しそうな顔で笑った、エセ天使の姿だった。









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