ねえ、俺は静かに毎日を過ごしたいだけなんだよ。
落ちてきた天使
4時間目の授業が終わり、ざわついた教室。
隣で響いた声は、バカみたいに明るい声。
「えーいーしー!わぉ!お揃いのお弁当!!」
「わぉ。心底嫌だ。」
お揃いのお弁当って、そりゃうちの母さんが作ってるんだからね。
でも必要以上の突っ込みは止めておこう。コイツを調子づかせるだけだしね。
「あれ?一馬と結人は?」
「・・・購買。」
ああ。やっぱり俺もついていけばよかった。
教室に残ればが付きまとうことは目に見えていたのに。
「じゃあ先にお弁当食べてようか?」
「何当然のごとく一緒にいようとしてるわけ?」
「ええ?!」
「そしてそこで心底驚かないでくれる?」
凄まじく衝撃を受けたかのような顔で、が固まった。(まるで漫画のようだ)
付き合ってはいられないので、俺は持っていた本を鞄から取り出し友人たちの帰りを待つ。
そして数十秒。固まっていたが再び喚きだす。
「何でよー!寂しいじゃんか!!」
「いい?学校生活は普通、男子女子で弁当を食べるものだから。」
「そうなの?」
「そうなの。」
まあそうとも言いきれはしないけど。
あながち嘘でもないだろう。勝手に友達でも何でも作ればいい。(できればだけど)
そうすれば俺への被害も少なくなるだろうし。
「だからもクラスの女子とでも・・・「やっだー!ダメだってばー!!」」
俺の声をかき消すような大きな声。
も俺もその声の方へと視線を向けた。
「これは失敗しちゃったから私が食べるってば〜!」
「何で?いいじゃん!お前の作ったもんなら何だってうまいよ!」
「な、何言って・・・」
「もーらい!ホラ!うまいじゃん!!」
「なっ・・・もう、バカッ・・・!!」
・・・何この寒い会話。
うちのクラス、いつからこんなバカップルがいたっけ・・・。
「・・・。」
感じた視線。俺は額に手を当てて考えた。
その視線に目を合わせるべきか、合わさないべきか。
「英士ー!!」
よし、決めた。完全無視の方向で行こう。
「英士ー!何今のーーー!!」
「・・・。」
「英士?聞いてる?!」
「・・・。」
「別に一緒に食べてもいいんじゃん!!」
「・・・。」
「・・・人の話を聞けーーーー!!」
「うわっ!!」
叫んだに顔を掴まれ、その無駄な怪力で無理やり彼女の方へ顔を向けられる。
本当にコイツは・・・。首の筋でも痛めたらどうしてくれるんだ・・・
「・・・っ・・・。」
「・・・・・・?」
無理やり振り向かされて見たの表情。
口調は怒っていたが、その顔は今にも泣き出しそうだった。
俺に怯えて(それも失礼だけど)泣きそうな表情は何度も見たけど
こんな悲しそうなの表情は初めて見た。正直、戸惑いを隠せなかった。
「・・・何。どうしたの?」
「英士・・・そんなに私と一緒にいたくないの・・・?」
「・・・そ「ああ!!英士がちゃん泣かしてるー!!」」
結人・・・。その後ろには一馬もいる。
嫌なタイミングで戻ってくるし。
「なあ?どうしたのちゃん?英士にひどいことでもされたか?!」
「うう・・・。英士が私を無視したー・・・。」
「何?!おい!コラ英士!何でそんなことすんだよ!!幼馴染なんだから仲良くしなきゃダメだろ?!」
お前は俺の母さんかと問いたい。
ああ、でもその前に俺は結人みたいな母親はいらない。
「ホラちゃん。座りなよ。一緒にお昼食べようぜ?な?!」
「うう・・・結人は優しいよね。」
「当たり前!英士とは違うからさ!」
「・・・へえ・・・。」
「な、なーんて!英士もいいとこあんだぜ?ちゃんも知ってるだろ?」
「・・・うん。」
頷いたを見て、俺は思わず彼女を見つめてしまった。
何、いつも怯えながら俺を見てたのに。そんな素直に頷くなんて思わなかった。
「英士は黒いし、ひどいし、笑顔で首絞めるし、その笑顔は怖いし、黒いし
無視するし、嘘つくし、やっぱり黒いけど・・・優しいところもある・・・。」
「「「・・・。」」」
結人も一馬もそんな目で俺を見るな。
そして哀れそうにを見つめるな。
「そう。ありがと。俺もね・・・。」
が顔をあげて俺を見つめる。
俺はニッコリと笑って。
「のこと、うるさくて我侭で自己中でどこまでも間抜けで
やっぱりうるさくて疲れる存在だなって思ってるよ?」
「うん・・・ありがと英士・・・ってひとつも褒めてるとこない!!」
「ああごめん。褒められるところが一つもなかったから・・・。」
「それ全然謝れてないよ!!」
もういつものだ。本当にコロコロと表情が変わる。
いつもどおりだと、こんなにうるさくてうっとおしいのに。
逆に大人しくなったらなったで、調子が狂う。
「そうだ!ところで結人も一馬もカザ・・・むがっ!!」
「「・・・。」」
いつも通りになったと思ったら、もうこれか。
とりあえずの口を押さえつけた。(変な顔になった)
あれほど二人を巻き込むなって言ってるのに。
そして結人。一馬。そんな目で俺を見るなって言ってるでしょ。(言ってないけど)
俺はの口を押さえたまま、小声で彼女に話しかけた。
「。風祭だったら俺が紹介するって言ったでしょ。」
「だって英士・・・紹介してくれる気配ないんだもん・・・。」
「、少しは待つと言う事を覚えてよ。」
「私のポリシーは猪突猛進ですもの!」
やめて。本当にやめてくれ。
そんな似合いすぎる、迷惑すぎるポリシーを持つのは。
誇らしげに敬礼とかするな。ああ、本当にイラつくなコイツ。
「わかったよ。連れてく。連れてくから今は・・・」
「よし!じゃあ今行こう!思い立ったが吉日!!」
「ちょっ・・・!!」
またしてもの無駄な怪力に引きずられ、俺は思わず席を立つ。
そこで俺を見つめていたのは、苦笑いで俺を見送る親友二人。
「よくわかんねえけど、せっかくだから仲直りしてこいよな!」
「・・・大変だな英士。」
二人がコイツを止めてくれていたら、せめて昼飯をゆっくりするくらいはできていたのに。
あっさり俺を見送るってどういうこと?俺は二人の為を思って嫌な役を引き受けたっていうのに。全く。
どうせもう俺が何を言ってもは聞かないだろうし。(なぜならポリシーが猪突猛進だから)
ああ。俺は一体どれだけコイツに振り回されていくのだろうか。
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