妙なこだわりを持っていたって





それは行動が伴って、初めて堂々と宣言できると思うんだ。












落ちてきた天使












「と、いうわけで、紹介してください。」

「何が『と、いうわけ』だよ。」





の任務対象の風祭。
その風祭と俺が知り合いだと聞いた後の第一声。





「俺、協力しないって言ったよね?何回言わせるわけ?」

「いいじゃん別に!紹介してくれるくらい、協力のうちになんて入らないでしょ?」

「嫌だ。」

「英士のケチ!!」

・・・は?

嘘です。ごめんなさい。もう言いません。





だから何でそんなに怯えた目で俺を見るわけ?本当に失礼な奴だな。
俺はこの変な任務に極力巻き込まれたくないだけ。
単純な好奇心や、同情でここまで痛い目にあってきてるからね。





「いいもんね!じゃあ結人か一馬に紹介してもらおーっと!!」

「?!」

「あ!二人とも戻ってきた!ゆう・・・むぐっ!!





聞き捨てならないセリフを聞いて、俺は二人を呼ぼうとするの口を抑える。





「俺にしか話せないんじゃなかったの?」

「え?それは任務の話。友達の紹介くらい、誰だってするでしょー?」





がキョトンとした顔で、俺を見上げる。
まあ確かにそう。紹介くらいは誰だってする。でもが関わってきたら話は別でしょ?
コイツは絶対に何か騒動を引き起こす。そんなことに大事な友達を巻き込ますことはできない。





の仕事なんだから、一人でやりなよ。結人と一馬を巻き込むな。」

「何でよー。いいじゃん!せっかくの対象の知り合いなんだから!使わない手はありません!!」

「おいおい。何二人でじゃれてんだよー。」





を引き止めているうちに、結人と一馬が俺たちの側まで来ていた。
結人。全然違うよ。これはじゃれてるんじゃない。戦ってるんだ。お前らのためなんだ。





「結人!一馬!私お願いがっ・・・ぐえっ!!」

「うわ!何してんだよ英士!じゃれるにもほどがあるぞ?!」





口を塞がれながら、それでも二人に協力を頼もうとするを止める。
勢いあまって首を絞めてしまったけれど。
結人と一馬が驚いた顔で、俺とを引き剥がす。





「気にしないで二人とも。と俺は、昔からよくこうして遊んでたんだ。
もちろん俺は本気じゃないし、もおおげさに声を出しちゃっただけだよ。」

「・・・へ、へえ。お前ら、変な遊びしてたんだな。」

「うん。だから俺がをいじめているように見えても、それは幼馴染のスキンシップだとでも思って。」

「ふーん。そうなんだ?ちゃん。」

「いや、あ
「そうだよね??」・・・ああー!うん!当たり前じゃない!!」





「そうなのかー。」と暢気に笑う結人と、何だか可哀相な顔でを見つめる一馬。
に何か、自分と同じオーラでも見つけたのかな?同じ苛められ体質として。
いや、いやいや、俺はをいじめてなんかいないよね?俺は間違ったことはしていないはず。
例え、勢いあまって首を絞めてしまったとしても。



ちょうど良く、教室に教師がやってきて、それぞれが自分の席へと戻っていく。
俺は横目で、不満そうに椅子に座ったまま、足を揺らすを見た。





「紹介・・・すればいいんでしょ。」

「・・・え?」

「だから、結人と一馬を巻き込まないでくれる?」

「巻き込むなんて、そんなつもりなかったよ?」

そんなつもりがなくても、無意識に巻き込むタチの悪い人っているよね。

「あはは。そうだねー
ってそれ、私のこと言ってる?!





ああ。もう。本当にうるさい奴だな。
まだクラスがざわついてる状態でよかった。





「心外だよ!英士!!」

「授業始まるよ。のうるささで俺まで注意されたらたまらないから、黙っててよね。」

「きー!我侭なんだから英士は!!」





そのセリフ、そのままお前に返したいよ。
と、言いたかったけれど、授業も始まる。俺もこんな奴に気を取られていないで大人にならないと。

授業が元々嫌いなわけじゃなかったけれど、この時間を安息と感じたのは初めてだ。
がやってきて、家での安息は諦めて、学校でやっと落ち着けると思ったのに。
ああ、俺の平穏な日々を返してくれないだろうか。
あんなちっぽけで単純な好奇心で、ここまで俺の生活が変わるなんて。





「・・・。」





転入初日だというのに人目も気にせず机に突っ伏して眠る、隣の変人を見て、そんなことを思った。










授業終了の鐘の音が鳴る。
その鐘の音で、が目を覚ます。寝ぼけたように、周りを見渡していた。

俺はが気づかぬうちに、自分の席を立つ。
・・・が、運悪くの視界に入ってしまったらしい。





「あ!英士!!」

「・・・。」





ガッ!!





無視して進もうとすると、制服の裾を捕まれた。
姿に見合わない怪力で。





「離してくれる?それから、その無駄な怪力なんとかして。

「怪力?!女の子にそんなこと言わないの!全く英士はっ!」

「ごめんね?こんな怪力の女の子、見たことなかったから。女の子じゃないと思ったよ。」

「謝ってない!謝ってるのに全然謝ってなーい!!」

「で?何?」

「さっきの続き!私は結人や一馬を巻き込もうなんて思ってないよ!」

「・・・だから・・・」

「他人を巻き込もうなんて思ってない。」





めずらしく真面目な顔だ。
これは・・・本当にそう思ってるのかな。
何度もしてきた誤魔化しじゃなく、本当の気持ち?

他人を巻き込もうとしないっていう思いは。
・・・ん?他人を巻き込まない?





「英士以外の人を、巻き込もうだなんて思ってないよ!!」





・・・は?!
ちょっと待って。それ一番問題なんだけど!!
俺は協力しないって言ったよね?他人だよね?
何で俺だけは巻き込まれていいみたいになってるわけ?おかしいよね?おかしいでしょ?!





「・・・おかしいな。俺の耳がおかしいのかな?
、他人を巻き込もうとはしてないんだよね?」

「うん!」

「けど、俺は巻き込まれてもいいの?」

「うん!」

「俺は、他人だよね?」

「何言ってるの英士!英士は私のサポートパートナー!
もう一心同体だよ!他人なんかじゃないでしょ?」

「冗談はその頭の中だけにしといて。俺は他人。どっからどう見ても他人だから。」

「冗談なんかじゃないよ。本当にそう思ってる!私の目を見て!冗談に思ってるように見える?!」





見える。と思いたい。
思いたいけど、見えない。本気の顔だ。
こんなことに本気になられるほど、馬鹿げたこともないんだけど。





さーん。先生が呼んでたよ?
私も職員室行くけど、一緒に行く?」

「うん!行くー!」





どこからともなく聞こえてきた声。女子のクラス委員長だ。
は笑って、その声に応える。





「じゃあね英士!頼りにしてるから!」





そんな自分勝手な思いだけを告げて、が教室から出ていく。
の背中を見送って、我に返ってから盛大にため息をつく。

変なこだわりを持って、他人を巻き込まないとか言ってるけど、
俺がに言ったことは本当だ。嫌味じゃなく、本当に思ってること。



そんなつもりがなくても、無意識に巻き込むタチの悪い人っているよね。



まさしくに当てはまるセリフ。
こだわりを持っていたって、こういう奴は必ずいるよね。

一馬も結人も、あのエセ天使いに巻き込まれないようしなくちゃ。勿論、俺もね。



そんなことを思いながら、それでも嫌な予感は消えずに。
俺の思いとは関係なしに、これから次々とに振り回されることになる予感に気づかないフリをしていた。














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