何気ない日常がこんなに安心できるものだなんて、考えたこともなかったな。
アイツが、来るまでは。
落ちてきた天使
「あれ?英士どこ行くの?」
朝、朝食を食べていたところへ、寝ぼけた顔のが声をかけてきた。
パジャマ姿で寝癖をつけて、俺の正面に腰掛ける。
「どこって、見てわからない?学校だよ。」
「ああ。昨日着てた服と同じだなーとは思ってた。」
「そりゃ制服だからね。」
「学校かー。楽しい?」
「まあね。少なくとものバカな話聞いてるよりは楽しいかもね。」
「へー・・・って今さりげなくひどいこと言ったーーー!!」
「さりげなくないよ。堂々と言ったでしょ。」
「そういう問題じゃなーい!!」
朝っぱらから元気だよね。
そして、何気なく俺の朝食をつまみながら話すのはやめてほしい。
今の姿(パジャマ、寝癖)といい、人の食事のつまみ食いといい、コイツには恥じらいと言うものがないのかな。
「じゃあ俺はもう行くから。くれぐれも問題起こさないでよ。」
「何言ってるですか英士さん!私が問題なんて起こすわけないでしょー?」
「そう。信じるよ。けど、もしも起こしたりしたら、背中に隠してる羽根をもいで、道端に捨ててやるからね?」
「ひー!全然信じてないじゃん!怖い!痛い!!」
無駄に騒いでいるを無視して、俺は家を出た。
・・・やっとあのエセ天使から解放された。とりあえず学校にいる間はアイツに煩わされることもないだろう。
そう考えると、1ヶ月くらいならなんとかなるかもしれないな。俺はほとんど学校や部活に行ってるわけだし・・・。
「英士ー!」
そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「結人。今日は寝坊しなかったんだ?」
「何言ってんだ!当ったり前だぜ!いつ結人様が寝坊したって言うんだよ!!」
「はいはい。『いつも寝坊することの方が多くて、朝練にギリギリにしかつかない結人が
普通の時間にここにいるなんて、驚きだな。』なんてこと思ってないよ。」
「思ってるじゃねーか。めちゃくちゃ。」
「ははは。そんなことないって。」
「まあいいけどさっ!それより昨日のJリーグ見た?テレビで中継してたじゃん?
俺、絶対あれフォーメーションが悪かったと思ってんだよな!」
「・・・ああ、昨日はちょっと・・・見てないな。」
「へ?マジで?英士にしちゃめずらしーじゃん。何かあったん?」
うん。すっごく『何か』はあったんだけど。
言えないよね。あんなこと。俺が変人にしか聞こえない話だよ。
「・・・別に。昨日は少し疲れててさ。」
「じゃあ明日ビデオ持ってきてやろうか?俺撮っといたから。」
「そうだね。じゃあお願いしようかな。」
結人や一馬と何気ない話をして、サッカー部の朝練。
つまらない授業を受けて、昼食を食べる。そして放課後にまた練習。
何気ない日常って、結構大切なんだよね。思ったことなんてなかったけど、今なら実感できる気がする。
「あれ?」
「どうしたんだ?英士。」
「弁当、持ってくるの忘れたみたい。」
「マジで?英士のおばさんの弁当うまいのになー!」
「何で英士じゃなくて、結人の方ががっかりしてんだよ・・・。」
「それは英士のおばさんの手料理に虜になった俺が、無意識のうちに英士の弁当に手が伸び・・・
「早い話が俺の弁当を毎日つまみ食いしてたってことでしょ。」
「そーとも言う。」
「がめついな結人・・・。」
「うるせーバ一馬め!俺のさりげないつまみ食いにも気づかなかったクセに!!」
「バ一馬って何だよ!ていうか、俺の弁当もつまみ食いしてたのか?!」
「・・・ふっふっふ。それは企業秘密だ。」
企業秘密も何も、すでにつまみ食いしてたって宣言してるんだけどね。
俺としては、結人にはつまみ食いしてた分、おごらせてるからいいとして。
昨日今日と騒がしかったから、弁当置いてきちゃったんだよね。
仕方ない。購買に買いに行くとしよう。
「じゃあ俺、購買に行ってくるから。先に食べててよ。」
「りょーかい!新製品のパンとか売ってたら買ってきてくれ!」
「わかったよ。一馬は?」
「あ、じゃあ、リンゴジュース・・・。」
「またリンゴか!かじゅまは可愛いな〜?」
「なっ・・・!いいじゃねえか!何が悪いんだよっ!」
「悪くないって!な?英士?」
「そうだね。いいと思うよ?リンゴでもリンゴジュースでもリンゴヨーグルトでも。
一馬のリンゴ好きはまったく悪くなんてないよ。」
「お前ら絶対バカにしてるだろ?!」
「「してないしてない。」」
一馬をからかって教室を出ると、いつも騒がしい廊下とは違う感じのざわめきが聞こえてきた。
ざわめきのする方に目を向けてしばらく様子をうかがってみる。
すると、ざわめきは俺のクラスに近づいてくるように感じた。
廊下にいる人ごみをすり抜けるように、目の前に現れた人物を見て、俺は目を疑った。・・・嘘でしょ?
「あ!英士ー!やっと見つけたっ!!お弁当持ってきてあげたよっ!!」
「どちらさま?」
「もー英士ったらお弁当忘れるなんて、結構とぼけ・・・ってええ?!」
「君なんて全く記憶にないけど?何?誰?どこの人?」
「ひどいよ英士!困ってると思って持ってきてあげたのに!!」
困ってるのは今のこの状況なんだけど。
母さん。何でコイツを止めてくれなかったんだ・・・!
「何何?なんか騒がしいけどどうしたんだ〜?って英士?」
教室の廊下での騒ぎが聞こえた結人が、教室から顔を出す。
「何で私服の子が学校にいんの?英士の知り合い?」
「いや、全然知らない赤の他「英士の幼馴染の でっす!!」」
「へー!何だよ英士!こんなに可愛い幼馴染がいるなんて聞いてないぞ?!」
「だから全然ちが「私、ずっと海外にいたからねっ。英士と会うのもかなり久し振りだし!」」
「そうなんだ!俺は若菜 結人!あと、こっちでおどおどしてんのは一馬!よろしくな!!」
「うん!よろしくね!!」
「・・・。」
結人とが握手しながら笑いあう。
もしかしてこの二人って、結構似た性格してるんじゃないの?
いや、今はそんなことどうでもよくて。一刻も早くコイツを帰らせないと。
「・・・?」
「何?英士っ・・・!!黒いオーラがっ・・・!!」
「で?何しに来たんだっけ?とっとと帰れエセ天使。」
「だ、だからね?英士のお弁当を届けに・・・。あれ?小さくひどいことを言われてる気がするよ?」
「そう。ありがとう。じゃあ気をつけて帰ってね。これ以上居座るつもりなら、羽根引っこ抜くよ?」
「え、えへへっ!うん!じゃあ戻ろっかな☆」
「えー。ちゃん、もう帰るの?俺らと一緒に昼飯食っていけば?」
「え?本当?!じゃあ、「あはは。確かは昼に用事があるって言ってたよね。じゃあ帰らなきゃ。」」
「そ、そうでした・・・!じゃあまた明日ね!バイバーイ!!」
「ああ!明日な〜・・・って明日?!」
結人が聞き返した頃にはもう、は遠くに向かっていて。
その言葉の意味を聞き返すことができなかった。
「英士?今のってどういうこと?また明日もちゃん来るのか?」
「・・・いや、いい間違えたんじゃないの?」
そう。ただのいい間違えでしょ?あんなの。
考えれば、あいつには任務があるわけだし、俺の学校に来てる暇なんてないよね。
「言い間違いだよ。」
俺は改めて、そう言いなおす。
自分に、そう言い聞かすかのように。
翌日、新たな悩みの種が増えることも知らずに。
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