何がどうなって、こんなことになったんだっけ。
落ちてきた天使
「あらあらちゃん。疲れたでしょう?」
「そんなことないです!お世話になりまーす!!」
「・・・。」
家に着くと、と母親があたかも知り合いのように話している。
・・・母さんはこの自称天使と知り合いだったの?・・・ってそんなわけないよね。
「ホラ見なさい!英士!郭家の皆さんは暖かく向かえてくれたぞう!!」
「・・・何したの。エセ天使。」
「エセ天使って・・・!!英士が家族が認められたら家にきてもいいって言うから・・・!!」
「うちの家族に何をした。」
「ちょこっと情報操作を・・・。って英士さん!後ろから黒いオーラが・・・!!」
少し戻って、公園での話。
帰る家がないと騒ぐを無視して、家に帰ろうとした矢先。
やっぱりに引き止められた。
「コラ英士!年頃の女の子を無視して帰ろうとは何事ですか!」
「え?君って女の子なの?ていうか、人間ですらないでしょ。」
「くぁー!ムカツク!!人間じゃなくても女の子!可愛い女の子にしか見えないでしょー?!」
「・・・はいはい。けどさっき、迷惑かけないって言ったよね。」
「そこは英士の良心だよねっ!こんなとこに置いていかないでよー!」
「俺には良心を期待しないで。ていうかさ、どうやって俺の家に来ようとしてるの?
うちにだって、家族がいるんだけど。アンタみたいのがいきなり来たら、おかしく思うの当然でしょ。」
「じゃあ、英士の家族が私を認めてくれたら、家に行ってもいい?」
「・・・できるならね。アンタみたいのを認めるわけないから。」
そんな会話をしていたんだけど、俺が甘かった。
このエセ天使は変な力を持っていたらしい。ウチの家族も懐柔された。
「戻せ。」
「え!いや、あの、別に記憶に私が混ざっただけで、他は何もしてないよ?」
「今すぐ戻せ。」
「だって、待っ・・・怖い!怖いよー英士!!」
「何やってるの英士。ちゃんは長旅で疲れてるんだから。遊ぶなら後にしなさい。」
・・・長旅って何?何設定?!
母さん。俺は家族のためにしてることなんだよ?
操られた今となっては、それも全然通じないんだろうけど。
俺はを睨んで、自分の部屋に向かう。
絶対後で、この変な情報操作といてもらうからね。
「ちゃん。海外から一人でこっち戻ってくるなんて、いろいろ大変だったでしょう?」
「いえいえ。自分で決めたことですから!それより、おばさんのご飯、すっごいおいしいです!」
「あら本当?ちゃんがウチに来るっていうから、腕によりをかけたわ。」
「本当ですか?うれしい!これから毎日食べられるのかと思うと幸せです!」
「ふふふ。おばさんもうれしいわ。」
・・・何この会話。
ふふふじゃないよ母さん。貴方はめちゃくちゃ騙されてるからね母さん。
どうやらの設定は、
『長い間、海外に暮らしていた元お隣さん。がこっちに戻ってくるにあたり
うちで面倒を見ることになった。』っていう設定らしい。
・・・このままだとウチが乗っ取られる。
「・・・。」
「へ?何?英士。」
「俺も久し振りにと会ったから、話がしたいな?
ご飯が終わったら、俺の部屋で話でもしようよ。」
「うえ?!って・・あれ?あの・・・」
「俺と話、したいよね?」
「あ、あははは〜!!うん!私も久し振りに英士と話したいな〜!」
「あら。やっぱり二人は昔から仲いいわね〜。」
母さんの暢気な声がして、俺とは表面上では笑顔で会話を続ける。
は明らかに怯えた笑顔で、俺は・・・まあ言わなくてもわかるよね。
「ここが英士の部屋かー!うん!シンプルだね!シンプルイズザベスト!!」
「あはは。ちょっとそこに座れ。」
「え?でもホラ英士、昔話に華を咲かせるのはまた後日にしようよ。
英士も明日は学校なんでしょ?」
「いや、俺は今がいいな。今。すぐに。この場所で。」
「怖い!怖いから英士!わかったよー!話するから!その黒いオーラで近づかないで!」
話をなんとかそらそうとしていたを無視して、俺は話を進める。
ていうか、黒いオーラって何?失礼だな・・・。
「俺の家族を戻して、出て行け。」
「ええ!いきなり命令?!全然話してないんだけど!!」
「わざわざ俺の家に来なくてもいいでしょ。
その得体のしれない力があれば、もっといい家に行けるよ。」
「だって私は英士の家がよかったんだもん!」
「それはそれは。けどすっごい迷惑だから、とっとと出て行ってね。」
「・・・そんなに迷惑?」
がそれまでの明るい表情とは違って、落ち込んだ表情を見せる。
けど、それに同情したらさっきの二の舞だから。はっきりと告げる。
「うん。迷惑だね。」
「・・・わかったよ。じゃあ出てく。」
「・・・。」
コロコロ変わる表情に影が指す。
ちょっとだけ胸が痛んだ。けど、ここで引き止めるほど俺は優しくない。
「あのー、でもね・・・。」
「何?」
「非常に言いにくいことなんですが・・・。」
また、嫌な予感。
「おばさんにかけた力は、しばらく経たないと解けなかったりしてー!あははは!!」
「・・・は?」
「だって私がしたことじゃないんだもーん!」
「・・・どういうこと?」
「人間の中にもぐりこむってことは、住む家も戸籍も必要なわけですよ。
でも当然私にはそれがない。じゃあどうするか?そこで天使の力!」
「・・・。」
「けれど私は今、天使としての力が制限されておりますっ!
つまり、天界に居場所と戸籍を作ってもらう必要があるのデース!その申請はさっき済ませたのデース!!」
「・・・。」
「英士の家に決めちゃったっ☆」
「何てことしてくれやがったのヘボ天使。」
「ギャー!!怖い!怖い英士!私の作った明るい雰囲気が台無し!!」
心からいらないよそんな雰囲気。
本当にどうしてくれようか。このアホ天使。
羽でももいで道端に捨ててやろうかエセ天使。
・・・まず、まずは落ち着こう。落ち着こうじゃないか俺。
コイツのペースに飲まれるな。気をしっかり持つんだ。
「・・・申請取り消せばいいんじゃないの?」
「フッ。あまい!あまいよ英士くん!一度出した申請がそんな簡単に取り消せると思うなよ?!」
「何勝ち誇ってるの。取り消せ。何が何でも、どこをどうやっても取り消せ。」
「ギャー!!黒い!黒い英士!おかーさー・・・ふげっ!!」
とりあえず額に横チョップを食らわせて黙らせる。
母親を呼ばれたらまたやっかいなことになるし。
のことを俺の幼馴染だと思ってる母さんが、彼女を追い出そうとするわけないからね。
「・・・いつ?」
「え?」
「いつ取り消せるの。その申請は。」
「え!何?!そんなに細かいところまで聞くの?!」
「・・・。」
「怖い!怖いから!無言で睨むのやめてくれる?!」
「じゃあとっとと答えなよ。」
「・・・うーん。1年「嘘ついたらどうなるかわかってるよね?」・・・1ヶ月かな!」
「・・・1ヶ月ね・・・。」
長い。長いけど仕方ない。
母さんをこのままにしておくわけにもいかないしね。
「じゃあ1ヶ月。1ヶ月経ったら必ず母さんを元に戻すこと。
それができないなら、その瞬間、アンタの正体をバラすよ。」
「う・・うん!ありがと英士!やっぱり英士は優しい!」
「・・・父さんは?単身赴任中だし何もしてないよね?」
「うーん。多分!!」
「・・・多分?」
「絶対です!だいじょぶです!怖いです英士さん!!」
「そう。それならいいけど。1ヶ月しか待たないからね。」
「・・・うう。そんなに念押ししなくたってさぁ・・・。」
がいじけたような顔で拗ねる。
・・・本当にコロコロよく変わる顔だよね。見ててちょっとおもしろい。
「ちゃーん!おいしいケーキあるわよー?食べるー?」
「はーい!!今行きます!!」
1階から母親が呼ぶ声が聞こえる。
今度は満面の笑みで俺の部屋を出て行く。今の今まで拗ねてたくせに。
「英士!」
「?」
今、すごい勢いで俺の部屋を出て行ったはずのが
扉を開けて、顔をのぞかせてこっちを見ている。
「英士も一緒に食べようよ!」
「・・・。」
「英士?」
「ふ・・・は・・・はははっ。」
「え、英士?!どうかした?!」
さっきまで俺と言い合ってたクセに、もう何でもないように、声をかけて。
ふざけた顔したり、怯えた顔したり、
悲しそうな顔したり、拗ねた顔したりしてたのに、もう満面の笑み。ついでに今はポカンとした間抜けな顔。
「アンタっておかしいよね。」
「何急に?!おかしくないよ!?」
「いーや。おかしいね。」
「何それ!ひどい英士!にやにやして気持ち悪いよ!!」
「・・・誰が気持ち悪いって?」
「ひー!怖い!怖いから、その黒オーラはやめて〜!!」
このわがままで自己中なエセ天使。
とりあえずは1ヶ月だけ。
それだけだったら、付き合ってやるかな。なんて。
のコロコロ変わる表情を見て、少しだけそう思った。
そう。少しだけね。
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