やっぱり好奇心なんて持つものじゃなかった。











落ちてきた天使











「私の名前は。職業は『天使見習』してまっす!」

「・・・へー。」

「え?!何それ!!今のところって驚くとこじゃないの?!」

「あっ!そうなんだ。天使か!すごいなー!」

「何そのわざとらしさ・・・。さんは悲しいです・・・。」

「ああそう。じゃあ俺は帰るから。じゃあね天使様。」

「待てーい!!」





帰ろうとした俺のカバンをすごい勢いで引っ張る。
小柄なこの子のどこにそんな力があるのかってくらい、引っ張られてるんだけど。





「帰らせてよ。俺、アンタみたいなのに付き合ってる暇ないんだよね。」

「何よ!人が羽根しまうとこまで見たからにはもう口外しないじゃすまないの!!」

「アンタが勝手に見せたんでしょ。」

「違うよ!君が誘導尋問したくせに!!」

「いや、全くしてないから。





まあ確かに好奇心から、彼女の正体に興味を持ったのは事実だけど
勝手に自爆したのは、目の前の彼女だからね。





「というわけで!君には私のパートナーになってもらいます!」

お断りします。

「即答?!話くらい聞いてよー!君っ・・・ん?君の名前は?話しにくいよ!」

「答えたくない。」

「ええ?!名前も教えてくれないの?!じゃあいいよこっちで勝手に考えるよ!」





何でもいいから早く解放してくれないかな・・・。





「じゃあ名無しの権兵衛からとって、権兵衛くんで!!

「・・・郭英士。」

「権兵衛くんはさー。赤い糸って知ってる?」

「名前今言っただろ?!何だよ権兵衛くんって!」

「あ、今の名前か!ボソッと言うんだもん。じゃあ英士はさー。」

「いきなり呼び捨てか。」

「もう我侭だな〜。じゃあ英ちゃん?」

「やめろ。」

「じゃあ、郭くん・・・呼びにくいな。郭・・・かく・・・かっくん!!これでいこう!!

「・・・英士でいいよ。」





疲れる。この女は本当に疲れる。
この俺が振り回されるってどういうことなの?





「もー。だったら最初から嫌だとか言わないでよ。じゃあ本題ね!」

「・・・。」

「英士は赤い糸って知ってる?」

「・・・は?」

「だーかーらー!巷で有名な運命の赤い糸!」

「・・・ああ、運命の相手とつながってるとか女子が騒いでた・・・くだらない話ね。」

「くだらないとは何事だー!それは一応本当の話なのね。」

「ふーん。」

「ただし、始めから誰にでもあるわけじゃない。ずっといいことをしてきた人間、
徳の高い人間に現れるものなの。

そして、赤い糸の先の人間は、必ずその人を幸せにする。まあ最高の伴侶になるってとこかな。」





何それ。まさに少女漫画の世界って感じなんだけど。
ていうか、俺はそんな話に興味なんて1ミリたりともないんだけど。





「でね。赤い糸が現れた人間には、天使が一人ついてその恋を助けてあげるんだ。それが私!」

「・・・天使”見習”じゃなかったっけ?」

「よく気づいたね英士!!そう。正確には天使見習がついて、手助けするんだ。
で、見事くっつけることができたら、私たちは天使に昇格!」

「そう。じゃあ頑張ってね。」

「しかーし!!」





彼女は掴んだままの俺のカバンを離さない。
どうしよう。カバンはあきらめてこのまま帰るべきだろうか。
いや、でもカバンの中にサッカー道具一式入ってるんだよね。





「その任務を終える前に『人間に正体を気取られてはいけない』っていう掟があるのね。」

「あ、じゃあ俺に気取られた君は失敗だね。ご苦労様。」

「しかししかーし!!もう一つ特別ルールがあるのだ!」

「・・・。」

「人間界だと、天使としての力に制限がかかってほとんど力を使えないんだ。だからその救済措置として
パートナー制度っていうものがあるんだ。」

「なんか・・・聞きたくないんだけど・・・。」

「まあ聞いておくれ!『秘密遵守の絶対条件で、人間を一人、自分のサポートパートナーとすることができる』!!」

嫌だ。

「だから英士には、そのパートナーに・・・ってええっ?!





彼女の話を理解した俺は、即答で断った。
だれが好き好んで、運命の赤い糸やらそんな話に付き合うっていうの。





「そんなのに付き合う義理もないでしょ。俺は忙しいの。」

「そんな!私天使になれないじゃん!」

「俺に関係ないし。」

「ううー!ひどいよ英士!人には誘導尋問しといてさー!」

だからしてないから。

「天使のパートナーになると、徳がぐーんとあがるよ?!きっと幸せになれるぞっ☆」

「・・・語尾に☆マークとかつけないで。気色悪いから。

「きしょっ・・・!!ひどい!そんなんじゃ女の子にもてないよ?!」

「別にいらないよ。不自由してないし。」

「ぐう!さりげなく自慢したぞこの子っ・・・!」





どうにか俺をパートナーにしようとする彼女。
けど俺はそんなのに付き合ってる暇もないし、そもそも付き合う気もないし。





「お願い・・・!何でも言うこと聞くし・・・!協力しろとも言わないからさ!お願いします!!」

「・・・・。」





付き合う気は・・・なかったけど。
最後に見せた必死の表情がどうにも気になって。

まあ俺に迷惑がかからないって言うなら、いいかなって気になった。少しだけ。
そもそもこの事を口外できるわけもないし、確かに何にもせずに終わるっていうことには同情できたし。





「・・・はー。俺は何にもしないからね。」

「・・・!!うん!!」

「で?口外しなければそれでいいの?」

「うん。後はね。手のひら出して!!」

「?」





言われるがままに手を差し出す。
すると彼女が自分の手のひらと俺の手のひらを合わせて何かぶつぶつ言っている。

小さな光が手のひらを包んで、熱くなる。
その光が、少しずつ手の中に収束していくのがわかった。





「・・・何これ?」





手のひらに見たことのない模様が浮かんで、徐々に消えていった。





「契約!サポートパートナーの証!」

「契約破ると何か起こるとか、そんなことないだろうね?」

「ないない!ただの形式だし。何か決まりごとみたい。」





こうして俺は得体の知れない、自称『天使見習』と契約をした。
まあ、俺はいつもどおり生活していればいいだけで、
この子が勝手に誰かと誰かをくっつけてようが関係ないしね。





「じゃあ改めてよろしくね!英士!」

「俺は極力よろしくしたくないけどね。」

「何だとう!!失礼な!!」

「じゃあ俺は帰るよ。」

「・・・英士。大変だよ。」

「・・・今度は何?」

「私、帰る家がないことに気づいた!!」








「・・・は?」









ああ、俺は早まって間違った選択をしたかも。





同情なんて・・・するんじゃなかった。










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