平和な日常。





ソイツは前触れもなく、突然俺の前に現れた。











落ちてきた天使












「じゃあな英士〜!明日は負けねーぞ!」

「何言ってんの。明日も俺が勝つに決まってるでしょ。」

「何の話だ?」

「ボール入れ勝負!ボール片すときに、蹴って何個ボールが入るか競ってたんだよ!
1個差で俺が負けたー!くそー!」

「実力だからしょうがないよね。」

「くそー!ムカツクぜ英士!!」

「・・・お前らそんなことやってたのか?」

「何だよ一馬!お前が混ざったらどうせビリなんだからな?!
俺らの中で一番ボールコントロール下手なくせに!」

「なっ・・・!そんなことねーよ!!」

「ホラホラ。二人ともそんなくだらないことで喧嘩しないでよ。」

「わかってるよー。ちくしょうっ!」

「ああ・・・ってあれ?最初英士と結人が言い合ってなかったか?」

「え?そう?気のせいだよ。」





いつも通りの学校の授業が終わって
いつも通りにサッカー部で練習に励む。
いつも通りに仲のいい奴らと帰路について
いつも通りに自分の家に向かう。





そう、それはいつも通りの日常。





結人と一馬と別れて、いつもは通らない公園の中を通って家に向かってみた。
何でこの日に限って、いつもの道じゃなくて公園を通ったかなんて今となってはわからないけど
あえて言うなら、気分?その気まぐれが俺の運命を変えた。



昼間はにぎわってる公園には、もう誰も居ない。
まあそれもそのはず。もう周りは真っ暗だから。
こんなとこ、女の子一人じゃ通れないだろうけど、俺は男だし問題ない。



「・・・?」



ふと、上から気配を感じる。
感じたというか、暗い公園のランプがさす光に、不自然な影ができたからだ。
その気配に気づくと、何か悲鳴のようなものが聞こえてきた。





きゃああああああああああーーーーーーー!!!」





雄叫びのような悲鳴とともに、何かが降ってきた。
感じ的にすごい高さから落ちてきたように見えたんだけど。
叫んだってことは生き物・・・。人間・・・。
ていうか、人間だったら間違いなく死んでるよね。

あまりにもあり得ない光景に、意外と俺は冷静で。
目の前に落ちてきた生き物に、おそるおそる視線を向ける。





「ぷはー!!死ぬかと思った!!」

「?!」





さらにあり得ない状況に、今度は絶句する。
死んだかと思ってた人間が生きてて、伸びまでしてるんだけど。
さらにその人間には、何故か背中に羽根がついている。
一体何なんだ。この状況は。夢でも見てるの俺は。





「全く、人を何だと思ってるのさ!人間界に来ていきなり死ぬなんてありえないから!」

「・・・。」





何だコイツは・・・。
いきなり落ちてきて、勝手に怒ってるんだけど。
・・・見なかったことにして帰ってもいいかな。





「・・・って、あれ?」

「・・・。」





相手がようやく俺の存在に気づく。
しまった。やっぱり無視して家に帰るべきだった。
こんな変な奴に関わるほど、俺は暇でも、変人でもないし。





「人間?!何でこんなとこにいるの!!」





それはこっちのセリフだよ。





「ど、どうしよう!いきなり掟破りになっちゃったじゃん!誰よ君?!」

「・・・。」





俺は無言でその場を立ち去・・・ろうとして止められた。
だって、空から降ってきて、無傷で、
白い1枚着で背中に羽根の生えた女なんか関わっちゃダメでしょ。





「まあいいや。行ってもいいからさ。ここで見たことは、絶対に口外しないで!」





こんなこと誰かに言おうものなら、確実に変人扱いされるよ。
誰かに言うつもりもなかったけど・・・あまりにも必死の表情で言うから
ちょっとだけこの子に興味が湧いた。・・・ちょっとだけね。それは単純な好奇心。





「君、何者?」

「へ?」

「だって、空から降ってきて無傷なんて普通ありえないから。
そもそもどうやって落ちてきたの?この辺ビルも何もないのに。」

「あ、あー!違うよ!それは君の気のせい!
私、空から降ってきてなんかないし!そこで転んだだけだよ?」

「・・・へー。じゃあ、その羽根って何?趣味?」

「え?・・・って隠すの忘れてたー!!とりゃっ!!」





彼女の意味不明のかけ声とともに、背中の羽根が消える。
・・・え?消えた?





「・・・今、どうやって消したの?」

「・・・っは!!ここに、ここにスイッチがあってね!
スイッチを押すと、服に羽根が収納されるの!いや〜最近のコスプレはすごいよねぇ〜。」

「・・・へー。」

「わかってくれたかい?!少年よ!!」

「・・・わかったけど、その装置俺も見たいな。どこにスイッチあるの?見せてよ。」

「ダ、ダメです!!これは完全極秘コスプレですから・・・!!」





さっきから一つもごまかせてないって言ってあげた方がいいだろうか。
この子、明らかに普通の人間じゃないよね。
俺も自分の目で見なかったら、全く信じられないことなんだけど。

しかし、こんなあり得ない光景に出会っても、冷静でいられるのは何だろう。
普通、もっと怖がるとか、現実逃避するとかしそうだけど。
この子があまりにも間抜けだから、怖くもなんともない。





「じゃあ、その完全極秘コスプレの秘密を見せるのと、
明日、俺が周りの皆にアンタのこと話すのと、どっちがいい?」





話す気なんて全くないんだけど(変人扱いされるし)、この子の正体を知りたくて条件を出してみた。





「・・・ううー!ダメだ!ここに落ちたの私のせいじゃないもん!私のせいじゃないんだからねー!!」





彼女が突然、誰に向かってかわからないけど叫びだす。
・・・やっぱり変だよね。この子。





「君!そこまで言うなら話してあげるよ!けど、もう連帯責任なんだからね!!」

「え。何それ。よくわからないけど、お断りするよ。」

「もう遅ーい!!知らないフリしてくれてればよかったのに!」





いやな予感がした。
俺はただ、日常あり得ないことに出会ったから、単純な好奇心で
彼女が何者かを知りたいと思っただけなんだけど。







「私の名前は。職業は『天使見習』してまっす!」








この、自分が天使(見習)と名乗る少女。





この日、彼女に出会ったことが俺の運命を変えた。












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