「、ここ!ここ教えてくれよー!」 「ちょっと待って、私もここわからないんだけど・・・!」 この学校に入ってからの私の交友関係と言えば、狭く深く、だ。 どちらかと言えば金持ち学校の中の庶民グループの結束、と言ったほうが正しいかもしれない。 もちろんお金持ちの部類に入っていても、嫌味じゃなくいい人たちだっていることは確かだけれど、 やっぱりしぐさとか価値観が大分違うからか、話はしてもそこまで深くならないのが現状だ。 欲をいえばこのグループは女の子が少ないから、少し寂しいとも思うのだけれど贅沢は言っていられない。 そして私は今、その友達に縋るような目で取り囲まれている。 ついでに普段それほど話さないようなクラスメイトにも。なぜならもうすぐテストの時期がやってくるから。 一芸入試でこの学校に入ってきた子や、少し無理をして学費を支払っている子などはいつもこの時期必死だ。 私も例外ではないけれど、日々の予習復習の成果もあり彼らほど焦ってはいない。 「ふん、その程度が出来ないとは、恥ずかしくねえのか。」 「あ、跡部さん・・・!」 彼らの指差す教科書を覗き込もうとすると、もはや聞きなれた声。 そこには我が校の生徒会長、跡部景吾がいた。 今日は樺地くんを引き連れてはいないようで、一人でふんぞり返りながらそこに佇む。 「、仕事だ。そのデータをまとめておけ。」 「・・・あのさ跡部くん、もうすぐテストがあるの知ってる?」 「あーん?何か問題があんのか?」 「あるよ!テスト前ってことでどの部活も休みなのに・・・! なんでこんなときに仕事持ってくるの?!」 「生徒会は必要なときに動くものだ。大体お前にテスト勉強なんて不要だろう。」 「必要ですー。私は天才でもなんでもないですから。」 跡部くんは自分がそうだからなのか、テスト時期になってもお構いなしにやってきて、余計な仕事を増やしていく。 焦っていないとはいえ、私だって最低限の復習はしたいし、友達に協力だってしたい。 焦っていないとはいえ、油断していては順位なんてすぐに下がってしまうのだ。 「ははは!受けてたってやろうじゃねえか!」 「・・・何が?」 「まあ無駄な努力に終わるだろうがな。なぜなら俺が頂点に立つことは確定事項だからだ!」 「・・・あー、うん。それじゃあ頑張るから帰ってくれるかな。 そのデータ整理はテストが終わるまでには提出する。」 「俺といる時間を削ってまで勉強とは、本気だな。」 「うん、本気本気。」 ああ、今日も会話が成り立たない。 今の会話の流れでどうして受けてたつって言葉が出てくるのだろう。 なんて思っても口に出さない。口に出せばさらにややこしくなることなどわかってる。 こういうときは素直に聞き入れ、頷き、話がわかった風にしておくのが一番なのだ。 私の返答に納得したのか、跡部くんは特に何も言わず教室を出て行った。 それを見送ると先ほど質問していた子たちが、一斉に私に向き直る。 「でさ、。ここなんだけど・・・」 「ああ、うん。どこだっけ?」 続けようとしたところに、今度は勢いよく扉が開く音。 それと同時に跡部くんがこちらへと早足で戻ってきた。無駄に優雅だな、跡部くん。 「おい、!」 「ええ!跡部くん、帰ったんじゃないの?!」 「お前、自分の勉強をするから仕事を断り俺を帰したんじゃねえのか?!」 「そ、そうですけど・・・」 「じゃあなぜこいつらの面倒を見てやがる!」 「別に自分のわかるところくらいは協力してあげてもいいじゃない。」 そして今度は怒り出した。 そ、そんなに仕事を後回しにしたことが気に入らないの? 跡部くんだって友達いるくせに。少し協力するくらいいいじゃないか。 「ー、悪い。遅くなったー。」 少しだけ妙な空気が流れたところで、また扉が開いた。 そこに現れたのは、私と同じ特待生で友達の。 科学技術研究会の予算のことで、跡部くんに抗議をしにいったことを思い出したのだろう。 跡部くんは眉間にしわをよせて彼を見ると、嘲笑を浮かべた。 「お前もに頼りにきたのか。以前といい、今といい、情けない男だな。」 「え?あれ、会長・・・!」 「違います!は理数系に強いから、お互いわからないところを教えあって勉強するの。」 「なんだと?!お前もわからないことがあるなら、なぜ俺を頼らねえ!」 「だってめん・・・跡部くんいつも忙しいじゃない。」 跡部くんがまた変な勘違いをしているので、それを正確に言い直す。 あ、よかったちゃんと通じたみたい・・・って、どうしてそこで跡部くんを頼る話になるの?! 生徒会長で忙しくて私をいつも馬鹿にしてこきつかってる跡部くんと、苦楽をともにしてきた友達。 頼るならどちらをとるかなんて、考えなくてもわかるじゃないか。 「・・・俺、タイミング悪かった?」 「ううん、別に大丈夫。」 ああ、あれかな。 俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの的な。 自分を差し置いて他の人に頼られるって嫌だったのかも。 まあそんな考えがあったとしても、私には関係ないですけど。 「よし、わかった!」 「え?」 「お前ら全員、会議室へ来い!俺が直々に教えてやる!」 「ええ?!」 「「「えええ?!」」」 私の周りにいた子たちが一斉に間抜けともとれる声をあげた。もちろん私もだ。 わからない。跡部くんの「わかった」は一体何がわかっているのかがわからない。 「跡部様!私もぜひ・・・!」 「でしたら私も・・・!」 「お前らには専属の家庭教師がいるだろう。」 「!」 跡部くんが直々に教えてくれると知るや、それまで遠巻きに私たちを見ていたお金持ちグループが いっせいに動き手をあげた。けれど跡部くんはそれを一蹴する。 確かにもっともな意見だ。専属の家庭教師がいるならそれで十分じゃないか。贅沢者め。 私たちを取り囲んでいた彼らが絶句したように、跡部くんを見つめていた。 確かに跡部くんはこの派手で煌びやかな学校の頂点で象徴のような人だ。憧れ、心酔する人もいる。 しかし私たち庶民には眩しすぎるのだ。そんな彼に教わるなんて恐れ多い・・・とか思ってるんだろうな。 だから、こうしてテストが近づく度に囲まれるのが、地味で緊張せず話せる自分なのだということも知っているし。 「・・・わ、私たちは遠慮」 「お前も来るよなあ勿論?お前に縋っていた奴らをほっておくなんてできねえだろう?」 「・・・う・・・」 「わからないところがあったら俺がしっかり教えてやる。 安心しろ。お前が俺に教わろうが、俺の勝利は変わらない。」 また縋るような目で見られた。今度は勉強の意味ではなく、一緒にその場にいてくれって意味だろう。 確かにこの中で、跡部くんに緊張せずに話せるのは不本意ながら私だけだ。 跡部くんがいない方が勉強がはかどるのはわかりきってるけれど、彼らを見捨てることもできない。 私はちいさくため息をつきつつ、彼を見上げた。まだ勝利がどうとか言ってる。本当どうしようかこの人。 そろそろ面倒がらないで、彼に振り回されない方法を真剣に考えてみようと思った。切実に。 TOP NEXT |