、ここ!ここ教えてくれよー!」

「ちょっと待って、私もここわからないんだけど・・・!」





はその親しみやすさゆえに、交友関係はなかなか広いようだった。
当然だ。学園での立場は弱いとはいえ、俺が認めた女。
どんなに隠そうとしても、その魅力が溢れ出てしまうのは仕方のないことだ。

特に今のようにテストの近い時期になると、学年2位という肩書きが物をいい、
いつもはを馬鹿にしていそうな奴らまでもが、彼女を囲むという事態になっている。





「ふん、その程度が出来ないとは、恥ずかしくねえのか。」

「あ、跡部さん・・・!」





勉強に夢中で俺様の存在にすら気づいていないとは、相当必死なようだ。
たかがこの程度の問題、自分で出来ないようでどうする。情けねえ奴らだ。





、仕事だ。そのデータをまとめておけ。」

「・・・あのさ跡部くん、もうすぐテストがあるの知ってる?」

「あーん?何か問題があんのか?」

「あるよ!テスト前ってことでどの部活も休みなのに・・・!
なんでこんなときに仕事持ってくるの?!」

「生徒会は必要なときに動くものだ。大体お前にテスト勉強なんて不要だろう。」

「必要ですー。私は天才でもなんでもないですから。」





まったく、俺に次ぐ実力があるくせに何を言ってやがる。
・・・ん?まさか俺の地位を狙っているのか?それで死に物狂いで勉強でもしているのか?
何事も興味なさそうにしているくせに、中身は熱い奴だ。面白い、それでこそ俺の認めた女。





「ははは!受けてたってやろうじゃねえか!」

「・・・何が?」

「まあ無駄な努力に終わるだろうがな。なぜなら俺が頂点に立つことは確定事項だからだ!」

「・・・あー、うん。それじゃあ頑張るから帰ってくれるかな。
そのデータ整理はテストが終わったら提出するから。」

「俺といる時間を削ってまで勉強とは、本気だな。」

「うん、本気本気。」





素直じゃない彼女は、まるでどうでもいいような顔をして教科書に視線を戻した。
お前はもっと感情の表現を覚えた方がいい、と助言してやろうかとも思ったが、
彼女が本気で俺を倒そうとしているのなら、今はこのまま何も言わず去るのがいいのだろう。

俺はそのまま後ろを振り向き、彼女の教室を後にする。





「でさ、。ここなんだけど・・・」

「ああ、うん。どこだっけ?」





って、ちょっと待て。





「おい、!」

「ええ!跡部くん、帰ったんじゃないの?!」

「お前、自分の勉強をするから仕事を断り俺を帰したんじゃねえのか?!」

「そ、そうですけど・・・」

「じゃあなぜこいつらの面倒を見てやがる!」

「別に自分のわかるところくらいは協力してあげてもいいじゃない。」





死に物狂いで俺に挑んでくるかと思いきや、
こんな奴らの面倒を見ながら、俺に対抗できると思っているのか。
俺はそんなにあまく見られているのか。いや、はそれほど馬鹿な女ではない。

ならばどうして・・・





ー、悪い。遅くなったー。」





俺が考えをめぐらせている間に、教室に一人の男がやってきた。
こいつは・・・俺に部の予算のことで抗議してきた、科学技術研究会の部長だ。





「お前もに頼りにきたのか。以前といい、今といい、情けない男だな。」

「え?あれ、会長・・・!」

「違います!は理数系に強いから、お互いわからないところを教えあって勉強するの。」

「なんだと?!お前もわからないことがあるなら、なぜ俺を頼らねえ!」

「だってめん・・・跡部くんいつも忙しいじゃない。」





・・・いや、それは愚問か。
俺はにとって乗り越えるべきあまりにも大きな壁であり、好敵手。
頼りたくても頼れないのが現状ということだ。

しかし、教わる相手が悪い。
の交友関係が割と広いことは知っている。
特に一般家庭の者や同じ立場の特待生によく頼られているらしいことも。
だが俺以上に彼女に近づく奴はいないようだった。

目の前のこいつを除いては。





「・・・俺、タイミング悪かった?」

「ううん、別に大丈夫。」





何が大丈夫だ!悪い、悪すぎだ。お前はいつだって悪すぎだ。
はなぜかこの男に甘い。俺に初めて会った日だってこいつのために動いていた。
しかもこいつを助けたかったと言って、あの笑顔を見せたのだ。
あれから俺に向けてはさっぱり見せなくなったというのにだ!

1年からずっと同じクラスで、同じ特待生という立場。
多少親しくなるのはわからなくもないが、奴はそれ以上の感情を持っているかもしれないのだ。
今の現状を見る限り、彼女は助けを求められたら手を貸すことが当たり前になっている。
こいつ以外にもに特別な感情を抱く輩は増える一方だろう。

は鈍い。鈍いし気は回らないし危なっかしい。なのに優しく気高く美しい。
何か間違いがあってからでは遅い。





「よし、わかった!」

「え?」

「お前ら全員、会議室へ来い!俺が直々に教えてやる!」

「ええ?!」

「「「えええ?!」」」





周りの奴らがそろいもそろって驚き、間抜けな声をあげる。
まあ俺から直々に授業が受けられるなんて、滅多にない機会だからな。当然だ。





「跡部様!私もぜひ・・・!」

「でしたら私も・・・!」

「お前らには専属の家庭教師がいるだろう。」

「!」





そう、に頼るのは勉強のできない、そして専属の教師もいないような奴らばかりだ。
の優しさに縋り、彼女はそれを拒まない。それを逆手にとり彼女に近づこうとしているのなら、
俺が守らざるをえないだろう。まったく世話のやける女だ。





「・・・わ、私たちは遠慮」

「お前も来るよなあ勿論?お前に縋っていた奴らをほっておくなんてできねえだろう?」

「・・・う・・・」

「わからないところがあったら俺がしっかり教えてやる。
安心しろ。お前が俺に教わろうが、俺の勝利は変わらない。」





は複雑そうな表情を浮かべ、俺をまっすぐに見つめていた。
俺にはわかる。余裕の俺を見た悔しさと、俺に教われる嬉しさで葛藤しているんだろう。

いくらでも考えればいい。見つめればいい。そして思う存分悔しがり、憧れ、敬えばいいんだ。
お前が俺以外の男どもに惹かれることはないだろうが、周りはそうもいかない。
だからいつだって俺の存在を示してやる。



そう、お前はずっと俺だけを見ていればいい。







TOP NEXT