「きゃあああ!跡部様〜!!」





教室の外が騒がしい。
悲鳴にも似た、女の子たちの黄色い声だ。
それは徐々に大きくなり、私の教室の前で大歓声が巻き起こる。

見るまでもない、見るまでもないけれど。
私は教室の扉へと視線を向けてしまう。





はいるか!」

「「「きゃああああ!!!」」」





気のせいだ。薔薇の花束を抱えた学園の生徒会長がいるだなんて。
気のせいだ。さらにそんな人に私の名前をフルネームで呼ばれたなんて。





「樺地、俺が歩けん。道を空けろ。」

「ウス。」





気のせいだ。なぜか彼に付き従っている後輩に女の子の群れを整理させてるなんて。





気のせいだと思いたいのに。
なぜ貴方はそんなに無駄にキラキラしているんですか。存在感があるんですか。





「・・・跡部くん。」





私は席から立ち上がる気力もなく、座ったまま彼を見上げた。
そのまま当たり前の一言をなげかける。





「何やってんの?!」

「学園に薔薇が届けられた。かなり量があるからな、お前にも分けてやるよ。ありがたく思え。」

「何で学園に薔薇?!いらないよ!」

「あーん?」





結局生徒会長からの任命は避けることはできず、私は正式に生徒会庶務となってしまった。
今までひっそりと過ごしてきたのに、今更学園憧れの的の生徒会に入ることになるなんて、あんまりだ。
もはや私にとって跡部くんは遠い存在でも、緊張する存在でもなくなった。

最初はさすがにいろいろと気を遣って、言葉も選んでいたけれど、
最近でははっきりと物を言うようになった。だってそうでもしないと止まらないんだもん、この人。





「俺の家で大量購入したからな。その礼のつもりなんだろう。
俺がこの学校の生徒会長であることは知られている。」

「そもそもなんで跡部くんの家が薔薇を大量購入したかは置いといて・・・」

「そんなものいくらでも用途があるだろう。観賞用や庭の薔薇園、風呂にも浮かべるだろう。」

「置いといてって言ったじゃん!ていうかお風呂?!薔薇を?!」

「何驚いてやがる。普通のことだろう。」

「普通じゃな・・・いや、うん、普通ですねそうですね。」

「お前も騒がしい奴だな。生徒会役員としてもっと威厳を持て。」





もう本当、どうしようこの人。
そりゃあ氷帝学園では普通かもね。え?本当に?
・・・そうでもないんじゃないかな。だってクラスメイトの子たち、不思議そうな顔してますけど。





「あ、跡部様・・・!」

「あーん?」

「そ、その薔薇・・・私にくださいませんか?!」





クラスメイトの一人が、緊張した様子で跡部くんに声をかける。
ぜひそうしてください。余った薔薇なんだったら、欲しいという子にあげるのが一番でしょう。





さんはいらないと言っていますし、私・・・すごく薔薇が好きなんです!」

「ちょっと・・・!抜け駆けしないでよ!跡部様、私もほしいです!」

「ええ!それなら私も・・・!」

「ああ?ちょっと待てお前ら・・・樺地!」

「ウス。」





ああ、また樺地くんを使った。
本当にこの二人の関係は何なのだろうか。樺地くんも嫌がってるそぶりも見せないし。
というか表情が変わらないからよくわからないけれど。
薔薇争奪戦でも何でもいいけど、余所でやってほしい。この狭い空間に人が多すぎる。人口密度が高すぎるよ。
大体なんで跡部くんは頭はいいくせに、そういうことに気がつかないんだろう。
私に薔薇を持ってくるなんて退屈しのぎの気まぐれだろうけど、こういう騒ぎになることくらいわかるだろうに。





「跡部様は施しのつもりだと思いますが・・・そもそもさんに薔薇は似合わないのでは?」

「そうですよ。彼女は薔薇なんて滅多に見ないので受け取りづらいと思います。」

「あーん?お前ら好き勝手言ってるんじゃ・・・」





ちょっとちょっと聞き捨てならない。
誰が施しよ。薔薇は滅多に見ないよ。
本人目の前にして言うなんて、本当この学校の人は神経図太い人が多いな!

なんて思っていたら、跡部くんが私の机に薔薇を置いて難しい顔をしてる。
一体何なんだ。彼は何がしたいんだ。





「ほら、似合わな〜い。」

「本当だあ、あははっ。」

「・・・なるほど。」





いらないとは言ったけれど、やっぱり綺麗な花だなあ。
真っ赤ですごく深い色をしてて。
通りがかりの花屋さんくらいでしか目にしないけど、こうしてたまにじっくり見るのもいいものだ。
堂々と嘲笑をする人たちも、この花を見て心優しくなればいいのに。無理か。





「蒲公英だな。」

「・・・え?」

、お前に薔薇は似合わない。」

「・・・は?」

「お前に似合う花・・・それは蒲公英だ!」





はい、先生。
これいじめじゃないですか?いじめですよね?!

わざわざ私にあげると言ってもってきた薔薇なのに、
まじまじと見つめられて、真剣な顔で薔薇は似合わないって言われました。





「た、たんぽぽ・・・。」

「・・・ふ、は、ははっ・・・確かにさんにお似合い〜!」

「さすが跡部様!」





やっぱり本当にからかいに来ただけなんだ。
そりゃあ私はどうせ薔薇は似合わないよ。道端に咲いてるたんぽぽだよ。
言われなくても知ってるよそんなこと!バカ会長!





「跡部くん・・・。」

「何だ?今度お前のために蒲公英を取り寄せてやる。今日は薔薇で我慢しろ。」

「いらないよ!もー帰って!」

「ああ?!お前、素直じゃないのもほどほどにしねえと無理にでも生徒会室に連れていくぞ?!」

「!」





取り寄せるって何?!そこまでして私を貶めたいの?!
いい人だと思ったあのときが夢のよう。あれ、本当に夢だったんじゃないの?
そして最後の意味はまったくわからない。私はいつだって素直なんですけど。



彼は絶対何かを勘違いしてる。それを聞き出して、まず会話が成立するようにしよう。話はそれからだ。









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