「きゃあああ!跡部様〜!!」





今日も俺の美しさのせいでメス猫どもが騒がしい。
仕方のないことだ。俺ほどの男が視界に入っているのだから。
そこらの女が騒ぎ立てるのなんて、当然のことだ。



しかし、例外がいることも事実。





はいるか!」

「「「きゃああああ!!!」」」





悲鳴にも似た黄色い声援。
俺の周りにみるみるうちに人だかりが出来ていく。





「樺地、俺が歩けん。道を空けろ。」

「ウス。」





樺地がその人だかりをかきわけ整理して、俺はようやく目的の人物の前まで来た。





「・・・跡部くん。」





彼女は自分の席に座ったまま、複雑そうな表情で俺を見上げる。
俺に見惚れて絶句しているだろうに、それを表に出そうとしない。





「何やってんの?!」

「学園に薔薇が届けられた。かなり量があるからな、お前にも分けてやるよ。ありがたく思え。」

「何で学園に薔薇?!いらないよ!」

「あーん?」





相変わらず素直じゃない女だ。
生徒会庶務となった彼女とは以前よりも格段に話す機会が増えたが、
話すたびに遠慮がなくなってきてやがる。いや、素直にならず意地をはると言ったほうが正しいか?





「俺の家で大量購入したからな。その礼のつもりなんだろう。
俺がこの学校の生徒会長であることは知られている。」

「そもそもなんで跡部くんの家が薔薇を大量購入したかは置いといて・・・」

「そんなものいくらでも用途があるだろう。観賞用や庭の薔薇園、風呂にも浮かべるだろう。」

「置いといてって言ったじゃん!ていうかお風呂?!薔薇を?!」

「何驚いてやがる。普通のことだろう。」

「普通じゃな・・・いや、うん、普通ですねそうですね。」

「お前も騒がしい奴だな。生徒会役員としてもっと威厳を持て。」





俺の言葉に感銘を受けたようだ。
彼女は額に手をあてて、うつむき何かを考え出した。
さすが学年2位、俺の次点の女だ。学習することを覚えている。





「あ、跡部様・・・!」

「あーん?」

「そ、その薔薇・・・私にくださいませんか?!」





いつの間にか俺たちの傍に来ていたのクラスメイトらしい女が
緊張した様子で俺の薔薇を指した。





さんはいらないと言っていますし、私・・・すごく薔薇が好きなんです!」

「ちょっと・・・!抜け駆けしないでよ!跡部様、私もほしいです!」

「ええ!それなら私も・・・!」

「ああ?ちょっと待てお前ら・・・樺地!」

「ウス。」





またもや近づいてきたメス猫どもを落ち着かせ、ため息をひとつつく。
そもそもが俺にあわせて生徒会室に来れば、こんな邪魔もなく渡せるというのに。
なぜコイツは頭はいいくせに、そういう気がまわらないんだ。もっと俺を見習え。





「跡部様は施しのつもりだと思いますが・・・そもそもさんに薔薇は似合わないのでは?」

「そうですよ。彼女は薔薇なんて滅多に見ないので受け取りづらいと思います。」

「あーん?お前ら好き勝手言ってるんじゃ・・・」





そんなことはない。いくらが庶民とはいえ、薔薇の赤は女を美しく見せる。
そう思い彼女の机に薔薇を置いてみたはいいが、何かしっくりこない。なぜだ。





「ほら、似合わな〜い。」

「本当だあ、あははっ。」

「・・・なるほど。」





確かに薔薇は美しいが、その存在感ゆえに周りの印象を消してしまう。
彼女の魅力は派手さではない。
一見どこにでもいるような親しみやすさ、冷静であるようで内に情熱を秘め、
気高く、美しく、優しさも兼ね備えている。



そう例えるなら・・・





「蒲公英だな。」

「・・・え?」

、お前に薔薇は似合わない。」

「・・・は?」

「お前に似合う花・・・それは蒲公英だ!」





彼女は薔薇ではない。優しいきいろのたんぽぽだ!






「た、たんぽぽ・・・。」

「・・・ふ、は、ははっ・・・確かにさんにお似合い〜!」

「さすが跡部様!」





確かに我ながら素晴らしい例えだ。
周りも自身も感動していることだろう。





「跡部くん・・・。」

「何だ?今度お前のために蒲公英を取り寄せてやる。今日は薔薇で我慢しろ。」

「いらないよ!もー帰って!」

「ああ?!お前、素直じゃないのもほどほどにしねえと無理にでも生徒会室に連れていくぞ?!」

「!」





まったく俺がここまでしていることの重大さがわかっていない。
彼女にはまず、それがどれほど幸せなのかを教えてやらねばならないらしい。











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