「俺の答えは同じだ。」 跡部先輩の強い言葉。 先輩が跡部家を大切にして、誇りに思ってることはわかってる。 「自分の立場を自覚しろ、。」 本当にそれだけが理由だというのなら、私の存在って一体何なんだろう。 ブランド物を身につけて、たくさんの習い事をして。 優秀じゃなければ私は、跡部家の一員にはなれないのだろうか。認めてもらえないのだろうか。 「跡部さんは、貴方に傷ついてほしくないんです。」 それでも、いつも跡部先輩の一番近くにいる樺地くんが伝えてくれたこと。 何も言うなと言われて、それでも伝えてくれたその言葉が頭の中をぐるぐるとまわっていた。 王様の妹 「ちゃん、次体育だよ!着替えに行こ!」 「遅刻しちゃうよー。」 「あ、うん・・・!」 この学校に入り周りの子たちとの壁を感じていたけれど、話してみれば意外と普通の子も多かった。 まあ跡部様信者だとか金銭感覚がおかしいとかツッコミたいところはあるけれど、 一番ツッコミどころの多い跡部先輩が近くにいたせいか、今ではそれらも普通の日常のひとつだ。 跡部先輩と血のつながりのないことは、おそらく学校のほとんどに広まったことだろう。 それでも特に悪質なイジメなんかはなく、こうして近づいてきてくれる子もいることは嬉しいと思う。 「・・・ちゃんさ、最近元気ないよね?」 「何かあったの?」 「・・・え?う、ううん。何もないよ!」 兄に手帳を捨てられたかもしれなくて、テニス部の人たちも巻き込んで騒いでる・・・なんて言えるわけもないだろう。 彼女たちは跡部先輩はもちろん、テニス部自体の大ファンだ。 そんなことを話したら、怒られるか羨ましがられるかで、とにかく騒ぎになってしまうだろうから。 更衣室でジャージに着替え、彼女たちと一緒に校庭に出る。 そういえば手帳が無くなったのは先週のこの時間あたりなんだろうな、なんて思いだした。 「跡部さんは貴方の教室には入っていません。 そしておそらく、あの時間に貴方の教室に入ってきた者もいません。」 それと一緒に樺地くんの言葉も。あの言葉はどういう意味なんだろう。 樺地くんの言葉をそのまま捉えるのなら、誰がどうやって私の手帳を持っていくというのか。 誰も教室に入らずに私の鞄から手帳を持ち出すなんてできないだろう。 樺地くんもはっきり言ってくれればいいのに・・・!なんてことを自分勝手なことを考えながら それでも彼の伝えてくれた言葉は、私や跡部先輩のことを考えてのことなんだろうと思った。 「さん。」 「長太郎くん、そっちも終わり?」 「うん、そっちも終わったの早かったんだね。」 考え事をしつつも体育の授業を終えると、丁度男子の方もゾロゾロと校舎に入っていくところだった。 男子も女子もチャイムが鳴るよりもはやく終わったようで、その辺で雑談をしてる生徒も多い。 「・・・まだ悩んでるみたいだね?跡部さんとはうまくいかなかった?」 「・・・私、そんなに顔に出てるかなあ・・・。さっきも元気ないねって言われちゃった。」 「はは、さんは意外と顔に出やすいんじゃない?」 「そういう長太郎くんはなかなか見えないよね。一部のこと意外は。」 「ん?何か言った?」 「何も。」 次の授業までは時間があったので、近くにあったベンチに二人で座った。 長太郎くんが買ってきたくれた飲み物を口にして、昨日のことをかいつまんで話した。 「そっか、話してくれなかったんだ跡部さん。」 「・・・うん。」 「跡部さん結構意固地なところあるからなあ。それに自分で決めたことを曲げることもないし。」 「でも理由くらい教えてくれてもいいと思わない?」 「教えられない理由があるんじゃないかな?跡部さんなりの。」 「・・・それはそうかもしれないけど・・・。」 「・・・うーん。」 長太郎くんに聞いても答えなんて出ないことはわかってる。 ただ、このモヤモヤしていた気持ちを誰かに話したいだけ。 長太郎くんが話を聞いてくれることはわかってて、こうして困らせてるのはただの私の我侭。 私は少し考えて、もうひとつ彼に伝えてみることにした。 「・・・あのね、樺地くんが、ヒントみたいなものをくれたの。」 「樺地が?自分から?めずらしいな。」 「・・・跡部先輩は私に傷ついてほしくないって。 それから手帳がなくなった時間、跡部先輩は教室に入ってないし、教室に入った人もいないはずだって。」 「・・・入ってないって・・・。それじゃあどうして手帳がなくなるんだ?」 「私もそれがわからなくて。でも樺地くんは嘘とかつくような人に見えないし。」 「そうだね、樺地はいい奴だよ。」 同じ部活仲間の彼から見ても、樺地くんはやっぱりいい人みたいだ。 ほとんど話したことはないけれど(むしろ喋ってるところすら数えるほどしかないけれど) 彼の言葉は信用してもいいものなんだろう。 「跡部先輩に口止めされてるみたいなのに教えてくれたから・・・誰にも言わないでね?」 「うん、わかったよ。」 「テニス部の人たちも信用してないわけじゃないけど・・・それで樺地くんが困るのも可哀相だもん。」 「うん。」 「・・・よければ、一緒に言葉の意味、考えてくれる?」 「勿論!そうだ、宍戸さんに相談しにいこうか?」 「・・・うん・・・って違う!人の話聞いてた?!」 長太郎くんはいつも笑顔で優しくて、思わず頼ってしまうんだけど。 どう考えても宍戸先輩のことになると別人のようになる。どれだけ宍戸先輩好きなのこの人・・・! 「それにしても、誰も教室には入っていない・・・かー。 樺地の話だと、やっぱり跡部さんが手帳を捨てたとは思えないな。」 「・・・私もそう聞こえた。でも本人は自分だって言うし、訳わかんないよ。」 「誰も入ってない・・・誰も入ってない・・・ん?」 「どうしたの?」 「・・・。」 長太郎くんが何か思い立ったように黙り込んで、何かを考えてる。 そして数秒の思考と止めると、すぐ私に視線を向けた。 「行こう。」 「ど、どこに?」 「真相を確かめに!」 「ええ?!」 そう言って走り出した長太郎くんに、腕を掴まれて引きずられるような形で一緒に走った。 どこへ行くのかと聞いても笑顔でまあまあ、なんて窘められてしまったので私はただついていくしかなかった。 「ちょ、長太郎くん速い・・・!」 「あ、ゴメン!ゆっくり走ったつもりだったんだけど・・・」 早く終わった授業終了のチャイムが鳴る。 それと同時に着いたのは、私たちの数個隣のクラスだった。 休み時間に入って、数人の生徒たちが教室から出てくる。 「あ、いたいた!おーい、日吉!」 長太郎くんが笑顔のまま呼んだのは、窓際の席に座って読書をはじめようとしていた日吉くんだった。 声に気づいたはいいけれど、面倒そうな表情を浮かべて顔を背ける。 けれど前の席の人に呼ばれてるよ、と声をかけられたようでため息をついてから席を立ちこちらにやってきた。 「何だ鳳。」 「協力してほしいんだ。」 長太郎くんの言葉が理解できないというように、日吉くんは眉間の皺をさらに深くした。 そして長太郎くんの後ろにいる私を目にすると、不機嫌度が増したように大きくため息をつかれてしまった。 TOP NEXT |