昔からそれなりに友達はいたし、面倒ごとは嫌いだから人当たりも良かったつもり。 だから今のこの状況は経験したことのないものだ。 「あなた、跡部様と血のつながりがないって本当なの?」 裏庭に呼び出されて囲まれるなんて、わーお初体験。 でもこんな初体験はいりません!心底いりません! 王様の妹 昨日までは跡部さん跡部さんとにこやかだったのに、 今日は一転、お怒りの表情だ。綺麗な顔をした人なのに、そんな顔をしたら台無しだよ。 「噂が流れてる。私たちもおかしいと思ってたのよね。 二人とも全然似ていないし、貴方には跡部様のような上品さのかけらもないし。」 余計なお世話だ。 どうせお茶もお花もダンスも出来ませんよ。動作もセレブじゃないですよ。 昨日もお説教されたばっかりなのに・・・!何なのこの仕打ち! 「私は血のつながりのある妹だなんて一言もいってませんよ。」 「・・・!やっぱり!噂は本当だったんだ! こんなガサツで芋みたいな子が跡部様の妹なはずなかったのよ!」 ひどいひどい!いくら怒っているからってそれはひどい! 誰がガサツで芋みたいだ!そりゃあ跡部先輩に比べたらそう言われても仕方ないかもしれないけど! 「親の再婚で兄妹になったんです。だから妹なことに変わりはないんですけど・・・。」 「そんなの関係ないわよ!本当の妹だと思ってたから構ってやってたのに・・・! さてはアンタも跡部様のこと狙ってるでしょう?!」 「狙いません、狙えません、荷が重すぎます。」 跡部先輩の彼女になる人は大変だろうなあと本気で思ってる。 あの俺様についていき、あの暴言に耐え、あの名台詞たちを受け流さないといけないんだよ?! 正直なところ私が血のつながりのない妹だって知っただけで裏庭に呼び出すような、 我慢のできない先輩たちじゃついていけないと思うの。 「まあそりゃあそうか。好きになったところで無駄だもんねー、この顔じゃ!」 「・・・そういうわけなのでそろそろ解放してくれませんか?」 「でも、それとこれとは別。」 「は?」 逆らうことのない私を見て、数人の真中に立っていた先輩が意地悪そうに笑む。 「跡部様に近づかないと約束しなさい。 貴方があの人の周りにいるのが、目障りなのよ。」 「・・・いや、私そんなに近づいてるつもりないんですけど。」 「大体跡部様に敬語も使わないで・・・!何様のつもりよ!」 「いや、それも跡部先輩に使うなって言われたからなんですけど・・・。」 「嘘言うんじゃないわよ!跡部様がそんなこと言うわけないでしょ?!」 ああもう、ダメだ。これ以上何を言っても取り合ってくれそうにもない。 これは適当に約束するしかないかな。 「わかりまし・・・」 適当でも嘘でもいい。返事を返そうとして、私は言葉をつまらせた。 いくらこの人たちを納得させるためとはいえ、私が大人しく頷くのはおかしくないか? だって血のつながりはなくとも、跡部先輩と私は兄妹なんだ。 近づかないなんて無理だし、私は少しずつでも跡部先輩をわかりたいと思っている。 「何?はっきりしなさいよ。」 この人たちの勝手な感情で、勝手な押し付けで文句をつけられて言うことを聞くなんて、なんだか悔しくないか? 「嫌です。」 「は?」 「跡部先輩と私は兄妹です。近寄らないなんて無理です。」 「なっ・・・!」 「大体先輩たちにそんなことを言われる筋合いもない。」 「・・・!身の程を弁えなさいよ!庶民が!!」 「うっわー!何面白そうなことしてんだ?!」 女の先輩の綺麗な顔が、思いっきり歪んだの同時に別方向から男の人の声がした。 先輩たちが一斉に、驚いたように声のした方向へと振り向いた。 「む、向日くん・・・!!」 「何してんだ?俺も混ぜろよー!」 「え、いや、あのっ・・・!そんな大したことしてないから・・・!」 「ふーん、じゃあ俺その子に用あるから連れてっていー?」 「も、勿論!」 そこにいたのはテニス部レギュラーの一人、向日先輩だ。 話したことはないけれど、テニス部を見学したときに印象に残ってる。 だってすごいピョンピョン飛び跳ねてたんだもん。 「跡部の妹だよな?話すのは初めてだっけ?俺は向日岳人!テニス部の・・・」 「レギュラーの人ですよね。知ってます。」 「お、俺も結構知られてんじゃん!」 なんだかすごく明るい先輩だ。 今のも当然助けてくれたんだよね・・・?お礼を言っておかなきゃ。 「あの、助けてくれてありがとうございました。」 「跡部信者は怖いからなっ!気をつけろよ!」 「もう熱狂的を通り越して、宗教みたいになってますもんね。」 「そうそう、あそこまで行くと怖えよな!」 先ほどの先輩たちにイライラしていたけれど、向日先輩の明るい笑顔にそんな感情も薄れていった。 テニス部の人たちは本当にいい人ばかりだ。 「でもさっきのはカッコいいと思ったぜ?」 「さっきの?」 「何だっけ?『先輩たちにそんなことを言われる筋合いもないです。』だっけ?」 「うわっ!聞いてたんですか?」 「ああ、バッチリ!」 は、恥ずかしい・・・!人当たりはいいと思ってたのに、あんな台詞言っちゃうんだもんなあ。 ここ最近、跡部先輩と言いあってばかりいたから、言いたいことを口に出すようになったのかも。 「テニス部見学に来てたときは、文句とか言わなそうな子に見えてたからな。」 「え?何でですか?」 「だって、何も言わずに特別席に座ってたじゃん。」 「!」 「あれはねえよな!跡部のセンスは相変わらずすげー!」 遠慮なんてせずに笑い出した向日先輩に対して、私の顔は赤かった。 折角忘れていた記憶だったのに、昨日のことのようによみがえってきた。 「まあいろいろ大変だと思うけど、頑張れよっ!」 「・・・はい!」 優しく笑顔を向けて、私の頭を撫でる向日先輩を見ていたら なんだか恥ずかしさも和らいで。 あーこれからもああいう跡部さま信者にからまれるんだろうなーと不安になりながらも こうして助けてくれる人もいるということに安心し、私も先輩に応えるように笑みを返した。 TOP NEXT |