「跡部先輩!」

「あーん?何だ。」

「私・・・お茶とかお花とかに興味ないの・・・!
お父さんとお母さんにも習わなくていいって許可ももらったよ!」

「興味があるとかじゃねえ。やれって言ってんだろうが。」





宍戸先輩と話してから、私は結構考えるようになったと思う。
ただ意地で反抗するんじゃなくて、やりたくないっていうんじゃなくて。
興味のないものを習おうとなんて思えないし、自分に向いてるとも思えないって理由だってちゃんと告げてる。
私はちゃんと跡部先輩と話をしようとしているはずだ。





「どうしてそんなに習わせたがるの?理由を教えて、跡部先輩。」

「お前が跡部家の者になったからだ。他に理由なんてない。」





その理由こそがわからない。
先輩が言ってる跡部家の家長であるお父さんが習わなくていいって言ってるのに・・・。












王様の妹












「・・・うまくいきません!宍戸先輩!」

「そりゃあ相手が跡部じゃな。アイツ、自分の意見は絶対通す主義だから。」

「まさに俺様ですね。」

「そうだな、俺様な奴だ。」

「そんな跡部先輩に振り回されて苦労してきたんですね、宍戸先輩は・・・。」

「はっ、もう慣れちまったよ。」

「宍戸さんカッコいい・・・!!」

「だから何でお前が反応するんだ長太郎。」





今日も結局、跡部先輩とまともに話せなかった。
全く興味の持てない習い事に辟易する日々。
はやく跡部先輩にも納得してもらって、解放してもらいたいのに。

今日も今日とて宍戸先輩に相談だ。
普段のグチは長太郎くんに聞いてもらっているけれど、彼は最後には決まってこう言う。

『じゃあ宍戸さんのところへ行こう!』

じゃあって何だ、じゃあって。結局のところ、長太郎くんが宍戸先輩に会いたいらしい。
まあそれは私も宍戸先輩に相談することで、結構スッキリするからいいんだけど。





「あー、また来てるー。跡部の妹ー。」

「ジロー。珍しく寝てないのかよ。」

「今起きたー。何話してんだ・・・?」





ここは宍戸先輩のクラス。そして宍戸先輩のクラスには同じくテニス部レギュラーである、芥川先輩もいる。
とはいえ、彼はほとんど寝ているところにしか遭遇しないので滅多に話すことはないけれど。





「・・・芥川先輩は跡部先輩に言いたいこととかないですか?そういうのってどうやって聞いてもらってますか?」





せっかくだ。この先輩も跡部先輩と話しているのを数回見たことがある。
彼の意見も聞いてみよう。何かいいことが聞けるかもしれないし。





「言いたいこと〜?・・・そういえば俺から跡部に話することってあったっけ・・・?
いつも跡部が俺に何か言ってるんだよな・・・でも俺、途中で眠くなって・・・」





あ、全然参考にならなそう。
大体この人、跡部先輩の説教なんて聞いてたら絶対すぐに寝てしまいそうだ。
部活以外で活き活きしてる表情を見たことがないんだけど・・・。





「ジローに聞いてもあんまり意味ねえと思うぞ?コイツ、跡部と話してる時は半分以上寝てるから。」





へえ、半分以上・・・って半分以上?!
それはそれで跡部先輩が不憫なんですけど!!





「じゃあ宍戸先輩を見習ってみます。どうしたら跡部先輩に慣れるでしょうか?」

「そりゃあ俺はずっと同じ部活だからな。嫌でも慣れるぜ。」

「・・・。」

「・・・時間が解決するのを待つか?」





つまりは宍戸先輩が跡部先輩に慣れたのは、数年の歳月があったからだ。
それってつまり数年経たないと慣れないってこと・・・?!





、それ何ー?」

「わわ、何ですか芥川先輩・・・!」





芥川先輩が私に寄りかかるようにして、手に持っていた手帳を覗き込む。
何か参考になることはメモしておこうと持ってきていたものだ。





「えーっとなになに・・・?『跡部先輩の決め台詞集』?」

「キャー!芥川先輩っ・・・!」

「『その1:黙れメス猫』・・・ん?何か小さく書いてある。
『メス猫はないよね、メス猫は。』

「ちょ、ちょっと待ってー!」

「・・・。」

「『その2:俺様の美技に酔いな』 
『酔ってます、いろんな意味で。』

「返してくださいってばー!」

「・・・っ・・・」

「『その3:破滅への輪舞曲だ!』
『全力でお断りします!』


「うわはははは!何コレ!ちょーおかCー!!何してんの!!」

「芥川先輩ー!!」

「ッ・・・ふはっ、あははは!!」

「・・・何を集めて・・・さんっ・・・」

「宍戸先輩っ!長太郎くんまでっ・・・!!」





芥川先輩に奪われた手帳には、跡部先輩についてメモしてある。
何で決め台詞までメモったって、一刻も早く衝撃に慣れるためだ。
何でそれにツッコミまで書いてあるかって、書きたくなるよね?普通の人なら書きたくなるよね?!
この人はこういう台詞を言う人だこういう台詞を言う人だって思ってれば絶対いつかは慣れる。
私だって努力してるんだから。すごくすごーく個性的な人だと思うけれど、
それでも跡部先輩が私の兄となったことに変わりはないから。





「・・・あれ?でもそういえば跡部にブランド物の手帳ももらったって言ってなかったか?
使ってないとまた跡部がうるせえんじゃねえか?」

「手帳はこれが慣れてるし・・・。
前の中学校の友達に転校するときにもらったものなので、こればっかりは変えなくていいかなって。」

「ああ、なるほどな。」

「なーなー!その手帳もっと見せろよー!俺、すっげー気になるCー!!」

「ダメです。もう絶対見せません!」

「えー!ケチー!!」





どうせコレをネタにして大笑いするだけなんだから・・・!
こっちは必死だっていうのに!全くもう。

実際この手帳だけ見たら、私はどれだけ熱心な跡部様ファンだと思われるだろう。
それくらい、跡部先輩のことがこの手帳には書いてある。
ここ毎日の言い合いのグチとかも書いてるしなあ。本人には絶対見せられない。



ふと昨日のメモが目に入る。



『今日もお花の先生に怒られた。私はこういうの向いてないって言ってるのに、どうして続けなくちゃならないんだ。
跡部先輩ももう少し私の話、聞いてくれてもいいのに。ああもう!この花を先輩の頭に生けてやりたい・・・!!

「・・・。」





本当に本人にだけは見せられない。ていうか他人にも見せられない。
次からは誰にも見られないように必死で死守しよう。私の今後に関わってきそうだ。







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