「跡部先輩・・・。」 「・・・何だ?」 「何ですかコレ。」 「知らねえのか?これはイギリスから取り寄せた最高級の・・・」 「いや、その辺の説明はわからないのでいいです。 高そうなブランド物っていうのはなんとなくわかりますし。」 「じゃあ何が聞きたいんだ、あーん?」 「どうしてその高いブランド物のバッグを私にくれるんですかってことです。」 「・・・。」 「・・・跡部先輩?」 ある朝、車の中で渡されたのはどう見ても高そうなブランド物のバッグ(銘柄は知らない) 普通の中学生が持つには、きっと高価すぎるものだ。ていうかそんなのを持ってること自体、庶民な私は怖い。 いきなりそんなものを差し出された理由を跡部先輩に問う。 なんだか彼の性格は大体わかってきたから、最初の緊張は嘘のようになくなっている。 跡部先輩の綺麗な顔と上品な仕草に緊張していたけど、それ以上に先輩の性格の方が濃いんだもん。 「お前、敬語は止めろ。あと跡部はお前の名前だろっつってんだろうが。」 「人の話聞いてます?!」 王様の妹 「お前、自分の名前を言ってみろ。」 「・・・・・・じゃなかった、あ、跡部 ですけど・・・。」 「お前の兄の名前を言ってみろ。」 「跡部・・・景吾さんですけど・・・。」 「つまり俺はお前の兄で、お前は俺の妹だ。」 「わ、わかってますよ。」 じゃあどんな呼び方が正解なのかを言ってほしい。 前に「お兄ちゃん」って呼んだら、すっごい険しい顔したくせに。 「じゃあ何て呼んだらいいですか?」 「バカかお前は。それくらい自分で考えろ。」 「・・・。」 確かにこれから・・・というか形式上はもうなっているけど、私たちは家族になるんだ。 兄妹で先輩、なんて呼び方をしないのもわかっているけど・・・。 跡部先輩って呼び方がダメなのはまぎらわしいからでしょう?きっと。 だけどお兄ちゃんはダメで・・・。じゃああと、残るは・・・ 「景吾さん・・・?」 「・・・違う!」 うわあ!また目を見開いた!怖い怖い!! これも違うの?じゃあ何て呼べばいいわけ? なんかもう・・・うん、わかってきてたけどこの人本当に面倒くさいな! 「ふ、は、はは、あはははは!」 「忍足?!」 「忍足先輩?!」 今までのやり取りを車から降りてすぐにしていたから、今いるこの場所は学校の門の前。 跡部先輩の朝練にあわせた時間で人もまばらだったが、丁度忍足先輩が居合わせたようだ。 「何してんねん自分ら。」 「邪魔だ忍足、どこかへ行ってろ!」 「俺には答えがわかるでー?教えたろうか、ちゃん。」 「え?は、はい!」 いつまでも呼び方に拘られても、こっちが疲れるだけだ。 それを教えてもらえるのなら、その方がてっとりばやい。 「忍足、お前そんなことしたらどうなるかわかってるだろうな?」 「どうなるかって・・・?」 「お前のガキの頃からの恥を一からばら撒いてってやるよ。」 「な・・・?何言うてんねん。俺と跡部は全く別の学校やったやろ?」 「はっ。俺を誰だと思ってやがる。」 「・・・。」 忍足先輩の顔が青ざめた。 出会ってそんなに日が経ってないとはいえ、青ざめる理由は私にもわかる。 跡部先輩ならやりかねない。っていうか、やる。この人は自分がやると決めたら絶対やる。 「・・・せやな、こういうのは自分で気付いた方がええ。」 「わかればいいんだよ。と、いうことだ。自分で気付くんだな、。」 「・・・でもじゃあわかるまでは跡部先輩でいいですか?」 「まずは敬語を止めるんだな。お前はその辺のメス猫とは違う。俺の妹だからな。」 「・・・でも年上は年上じゃないですか「つべこべ言わずに俺様の言うとおりにすればいいんだよ。」」 本当に俺様だこの人。大げさでも何でもなく俺様だ。 人の話聞かないし。人が話してるのに上から言葉かぶせるし。 あ、そうだ。最初の話が終わってなかったんだ。 「それで跡部先輩。このブランドのバッグは一体何なんです・・・何なの?」 「跡部家たるもの、あんな安っぽいバッグを持ち歩くなんて恥ずかしいだろう。」 「いや、安っぽいっていうか一般の学生は皆、あんな感じなんですけど・・・。」 「バカかお前。お前は跡部家の一員になったんだ。いい加減に自覚しろ。」 いや、そうだけどもさ。 結局のところ私は元々お金持ちだったわけでもなければ、お母さんみたくセレブが仕事相手ってわけでもない。 そこらにいる一般学生として育ってきたんだ。いきなり跡部家の自覚って言われてもなあ。 「でも、お母さんも・・・お、お父さんもそんなこと言わないよ?」 「お父さん?!」 「え、な、何?!」 跡部先輩さっきから目を見開きすぎなんですけど怖い怖い怖い。 何?まさか父さんは俺のだ!なんて言い出すんじゃないよね?! 跡部先輩の性格は大体把握できた気がしていたけど、たまに予想外な行動を取るから困る。 「・・・何で親父は・・・じゃあ何で俺が・・・!」 「あ、跡部先輩?」 「チッ、もういい、行くぞ樺地!」 「樺地?」 「ウス。」 「うわあああ!!」 いつの間に・・・!!っていうかいつからそこに・・・!! 「ちゃんも苦労するなあ。」 「そう言ってくれるなら、忍足先輩助けてください・・・。」 「助けてやりたいけどなあ・・・。俺には持病の癪があってなあ・・・」 「・・・つまり無理ってことですね。」 最初に出会った頃のときめきとか、うきうき感とかは一体どこへ行ってしまったんだろうか。 跡部家跡部家ってさ。どうせ私は上品じゃないですよ。セレブじゃないですよーだ。 なんだかもう跡部先輩は兄というよりもなんか、そう、小姑みたいに思えてきた。 なんて言ったらまた怒られるし下手すれば倍返しにされるから、絶対口には出さないけどね。 TOP NEXT |