例えば転校した先の学校で、兄妹が話題のきっかけになることってあると思うんだ。 同じクラスの子の姉の高校と、自分の兄の高校が一緒なんだーそっかーとかさ。 実は、少し期待してたんだよね。 だって私の兄となった人はテニス部部長で生徒会長。 クラスで兄のことを知ってる人がいて、それがきっかけになって話題が広まっていったりするかもなんて。 転校するのが初めてってわけじゃなかったけど、やっぱりクラスにポツンと一人でいるのは寂しいから。 そんな、ちょっとした期待を持っていたんだけど、 「跡部さん!跡部様の妹って本当?!」 「何で今この中学に来たの?!何か事情があったの?あ!留学とか?!」 「あれが跡部さんの妹だってよー!話しかけてみるか?」 なんかもうそれどころじゃなかった。 少しくらい知ってる人がいるとか、そんなレベルじゃない。 私の机の周りには人だかり。教室の外にも人だかり。 ちょっと待って!私、ただの転入生なんですけど・・・! 王様の妹 「ねえ跡部様ってさー・・・」 「ちゃんは跡部様の・・・」 「私、跡部様のことが・・・」 跡部様跡部様跡部様と・・・! 何ですか、この学校は・・・!どこぞの宗教ですか! このクラスにやってきて数時間。確かに一人ぼっちにはならないし、話題にも事欠かない。 ただしきっかけになるはずだった兄の話題はきっかけどころか、話題の全てなんだけれど。 寂しくはない。そりゃもう全然寂しくはないよ。でも疲れる・・・!なんなのこの学校は・・・! 彼女たちは私が再婚相手の連れ子ということは知らないみたいだ。 言動からどうやら跡部先輩と同じ道を歩んできた、お嬢様とでも思われているんだろう。 もしここで本当のことを言ったらどうなるだろうか。私はお嬢様でも何でもなく、ただの一般庶民なのだと。 周りにいる女子たちはどうやら兄が大好きなようだから、態度は一変するだろう。 むしろそう言ってしまった方がいいかもしれない。こうもずっと跡部様跡部様と言われるよりはマシだ。 「あの「さん。」」 突然の声は、周りの女の子の声ではない。低い男の声だ。 「はい、えっと・・・」 ・・・でかっ!! 私が椅子に座っていることを差し引いても、かなり身長は高そうだ。 クラスにいるということは、同じクラス・・・。同い年なんだよね? 「きゃあ!鳳くんー!!」 私が反応する前に、周りの女子が黄色い声をあげた。 「俺、跡部さんと同じテニス部の鳳長太郎って言います。跡部さんから伝言があるんだけど・・・ちょっと来てもらえる?」 「あ、はい。」 正直、理由は何でもよかった。 彼女たちの跡部様信仰にはもううんざりしていたから、鳳くんが声をかけてくれて助かった。 私はすぐに席を立ち、鳳くんと教室を後にした。 「大丈夫?」 「・・・え?」 「疲れてるみたいだったから・・・。あれ?俺の気のせい?」 「ううん、気のせいじゃないよ、ありがとう!」 「よかった。転入していきなりあれじゃ、参っちゃうよね。」 「うん・・・うん!鳳くんが声をかけてくれてよかった。」 「そっか、よかった。」 自分よりも大分背の高い彼を見上げて微笑む。 なんだかこの学校に来て初めて労われた気がする・・・! 鳳くんの爽やかな笑顔が眩しくみえた。 「で、実はさ。」 「うん?」 「跡部さんからの伝言って嘘なんだ。」 「え?そうなの?」 「さん・・・あ、跡部さんじゃお兄さんと紛らわしいから名前で呼んじゃったけど・・・いいかな?」 「うん、全然!」 「ありがとう、俺も長太郎でいいから。」 「うん、長太郎くんね!」 私が今までいた中学校は、当然何の変哲もない、様付けで呼ばれるような人なんていない学校だったから。 こんな普通の会話、普通の友達がすごく嬉しくて懐かしく感じる。まだ転入して数時間しか経っていないはずなのに。 「さんが困ってるみたいだったから・・・。適当に理由をつけたんだ。」 「そうだったんだ。うん、すごく助かった。ありがとう長太郎くん。」 「いきなり跡部さんの妹になっちゃったわけだしね。さんの苦労が見てとれるよ。」 「そ、そうなの・・・!何でその・・・跡部先輩があんなに注目の的なのか、その辺教えてくれないかな?!」 確かにビックリするほど綺麗な顔をしてるし、なんだかカリスマ性も感じられるような気はしてる。 でもこのおかしいくらいの人気は一体なんなのだろう。 最初は家柄かとも思ったけれど、それだけでここまでの人気は取れないと思う。 「・・・うーん・・・。なんていうんだろう、跡部さんの人柄っていうか・・・」 「人柄?!」 確かに出会った頃は穏やかそうで優しそうな人だと思ってた。 だけどこの学校に来てからは、横柄な態度と乱暴な言葉。 人柄で人気があるという言葉に私は首をかしげてしまった。 「あの人には人を惹きつける力があるんだよ。」 人を惹きつける・・・?やっぱりいまいちわからない。 そりゃあ私はあの人と出会ってから日が浅いのは確かだけれど。 「でも跡部さんの人気はあんなものじゃないよ。」 「え?跡部様って呼ばれてるのに?」 「はは、普段の生活のときは跡部様って呼んでるのは一部の人たちだけだよ。 それよりも部活中はもっとすごいよ。」 「・・・。」 「さんも見に来る?それなら放課後テニスコートまで案内するよ。」 いや、あの、普段の生活のときはって・・・。一部でも様付けでなんて呼ばれないよ普通。 しかしそれよりもすごいっていう部活か・・・。見たいような見たくないような・・・。 けれどこの学校に転入したからには、いつかは通る道なのだと思う。 遠まわりして結果を遅らせるよりも、わかることはわかるうちに知っといた方がいい、・・・はず。 「それじゃあ・・・一緒に行かせてもらおうかな。・・・怖いけど。」 「あはは、そんな怖がる場所じゃないよ!」 長太郎くんはまた爽やかに笑う。 けれどなんだか爽やか過ぎて、逆に不安だ。 ・・・なんて言ったら長太郎くんに失礼だろうか。 TOP NEXT |