私の名字が「跡部」になって、お父さんの家へと引っ越すことになった。





「・・・どこ?」

「ここよ?」

「この中のどれが跡部家?」

「ははは、面白いことをいうなあちゃんは。全部だよ。」

「この子、たまに寝ぼけるのよねえ。」





ね、寝ぼけてない寝ぼけてない!!
何この豪邸!!一体どれだけの広さがあるの?!
ていうかこれが普通みたいに言わないでください二人とも!!

お母さんだって私と一緒に質素な家に住んでたのに何でこんなあっけらかんと・・・。
そうだ、お母さんは仕事で世界を飛び回って、お金持ち相手にたくさん仕事もしてるんだ。

それにしてもお父さんって証券会社に勤めてるって言わなかったっけ?
証券会社ってそんなに儲かるものなの?!もういろいろ衝撃的すぎて何がなんだか・・・。





「これからはちゃんの家でもあるんだ。遠慮なくくつろいでくれ。」





しばらくはくつろげそうにありません・・・!
私の部屋に飾ってある高そうな装飾品や絵を見て、苦笑いを浮かべていた。












王様の妹












「行ってらっしゃいませ、景吾さま、さま。」

「ああ。」





深々とお辞儀をして私たちを見送ってくれた、スーツ姿の運転手さん。
私は今、これから転入する中学校の前にいる。

車で送り迎えなんて当然、とでもいうように運転手さんに声をかけるのは私の新しい兄。
あの家といい、上品な物腰といい、お坊ちゃまみたいじゃなく本当にお坊ちゃまなんだ・・・。





、こっちだ。来い。」

「は、はい・・・!」





慌てて後を追い、少し後ろを歩く。
兄妹になったとはいえ、まだ出会ってから日が浅い。
しかもこんな綺麗な人の隣に並ぶのは、なんだか緊張してしまう。
先ほどの車の中でもまともな会話が出来なかったというのに。





「おはようございます!」





聞こえた声に振り向くと、数人の生徒がこちらに目を向けていた。
敬語・・・ということは、部活の後輩か何かだろうかとふと考える。





「おはようございます!跡部様!!」





・・・ん?何か、違和感。

いや、彼がこの学校の生徒会長で、テニス部部長ということは聞いた。
学校の生徒に挨拶されたっておかしくはない、おかしくはないけれど。





「キャー!!跡部さまーーー!!」





なんでただの一生徒に様付けなんてしてるんだ?!





「だ、誰ですかその子・・・!」

「跡部様・・・!その女の子は・・・!」





ただの朝の登校場面なのに、どうしてこんなに注目を浴びてるの?!





「うるせえ、黙れメス猫ども!」





・・・メス猫?!






「キャー!!跡部様ーーーー!!」





そこ喜ぶとこ?!





私が転入する、氷帝学園。
広大な敷地に広大な建物。私が今まで通っていた中学とは雲泥の差だ。
とはいえ跡部家を既に目にしている私は、そこに驚くよりも兄のまさかのメス猫発言に衝撃を受けていた。





「周りがうざってえな・・・。とろとろ歩いてるんじゃねえぞ、。」





あれ・・・?なんだかイメージがガラリと変わってないか?
いや、まあ彼だって中学生なんだし、学校じゃ敬語なんて使わないよね、うん。

穏やかで聡明そうなイメージを保つために、私は無理矢理に理由をつけ納得する。





「いいか、まずは職員室に連れていくが道順はしっかり覚えろ。
お前も跡部家の一員となったんだ。学校で迷うなんて恥ずかしいことはするんじゃねえぞ?」





相変わらず注目を浴びながら、私はやっぱりどう考えても態度の変わった兄をポカンと見上げていた。





「マヌケ面してんじゃねえぞ、あーん?」





穏やかで聡明なイメージが音を立てて崩れていく。
何これ・・・!出会ったときとは全く別人じゃない・・・!





「あ、あの・・・」





名前を呼ぼうとして、言葉につまった。
あれ、この人のことはなんと呼べばいいんだ?
お兄ちゃん・・・ってなんだか呼びづらい。





「あ、跡部先輩・・・?」

「お前も跡部だろうが。何寝ぼけてんだ。」

「でも、あの、なんて呼んだら・・・」

「何を迷ってやがる。俺はお前の兄だ。」

「じゃあ、お、お兄ちゃん・・・?」





迷いながら呼んでみると、カッと目を見開いて険しい表情を浮かべた。
しまった、はずした?!私は慌てて名前を呼びなおす。





「ごめんなさい!やっぱり跡部先輩にしときます!」

「・・・ああ?」

「あ、ここが職員室なんですね?じゃあ先生に挨拶を!」

「おい!?!」





逃げ込むように職員室に飛び込めば、なぜか先生方は歓迎ムードで私を迎えてくれた。
やっぱりこれも「跡部家」が関わっているんだろうか。
登校してるだけで跡部様って騒がれるくらいだもんなあ。先生方にも有名なんだろうなあ。

私もその跡部家の一員になったわけだけれど、この人のように綺麗な顔をしてるわけでも目立つわけでもない。
最初は少しくらい話題になるかもしれないけれど、あとは平和な学校生活を送れるはずだ。きっと。



願うようにそんなことを考えながら、ようやく兄と別れて担任と一緒に自分のクラスへと向かった。






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