「私ね、再婚したいと思ってる人がいるの。」





土曜の昼下がり。
お昼を食べ終えてゆっくりまったりとしていたところへ、母親から突然の言葉。

突然の告白に私はポカンとした表情で数秒、母親を凝視していた。





小さい頃から父親はなく、お母さんは女手ひとつで私を育ててくれた。
再婚もせず、朝早くから仕事に出かけ夜遅くに帰ってくる。そんな毎日。
お母さんが私のためにどれだけ苦労してくれているか、私は知ってる。
だから私ははやく大人になりたかった。はやく大人になってお母さんに楽をさせてあげたいと思っていた。

けれど、ずっと独り身を貫いてきたお母さんにもついに再婚したいと思える相手が出来た。
支えてくれる相手が出来た。強がって一人で何でも出来るって言うお母さんが結婚したいと思った人。

反対する理由なんてひとつもない。賛成するよ、と笑顔で頷くとお母さんも嬉しそうに笑った。















王様の妹













再婚のことを聞かされてから、ほとんど日を空けずにトントン拍子に準備は進んでいく。
その間、再婚相手との顔合わせもして、その相手に驚いた。
その人は私の家にも来た事がある、お母さんと長年一緒に仕事をしてきた人だった。
なんていうか上品で優しくて、紳士な大人の男の人という感じ。
ますますお母さんとの結婚に賛成したくなった。





「すまない、息子は今日部活の遠征から帰ってくることになっていてね。少し遅れてしまうんだ。」

「私のひとつ上なんですよね?」

「ああ、ちゃんの通う中学の生徒会長もしている。わからないことがあったら聞くといい。」

「生徒会長?すごいなあ!」

「景吾くんはね、テニス部の部長もしてるのよ?顔もカッコいいんだから!」





アナタに似て、なんて言葉を付け加えて見つめあう二人。
もー、私ただの邪魔者じゃないか。二人とも嬉しそうだからいいけどね。

こうして三人では何度か会っているのだけれど、相手の息子・・・つまり私の兄となる人にはまだ会っていない。
テニスの強豪校に所属しており忙しく、予定がことごとく合わなかったのだ。
そんな強豪校の部長で生徒会長・・・。すごく真面目そうな人を想像したけれど、実際はどんな人なんだろうか。





「申し訳ありません、遅れました。」






そんなことをぼんやりと考えていると、丁度真後ろから男の人の声が聞こえた。
自然とその声の方へと振り向いて、思わず固まってしまった。何だこの綺麗な人・・・!





「いいのよ景吾くん!疲れたでしょう?座って座って!」

「部活はどうだった?」

「ええ、とても有意義でした。」

「そうか。」





動作の一つ一つが上品で、親にまで敬語を使うって・・・。どこかのお坊ちゃまみたいだ。
珍しいものでも見るように、私はじっと彼を凝視してしまっていた。





「ふふ、ってば景吾くんがカッコいいから見惚れてるわ。」

「え・・・?!ち、違っ・・・!」

「景吾、彼女がさんだ。お前の同じ氷帝学園に編入することになる。いろいろ教えてあげなさい。」

「・・・そうですね。」





大きな瞳が私を見つめ、目があうと静かに微笑んだ。
こんな綺麗な人が近くにいた経験なんてないから、どうしていいのかわからなくて視線を泳がせた。





「よろしく、。」

「よ、よろしくお願いします・・・!」





テニス部部長で生徒会長ですごく綺麗な顔をした穏やかな人。
私が今まで付き合ってきた交友関係の中にはいなかった人だ。
ていうか、こんな人がそこらにいるものでもないから当たり前といえば当たり前だけど。

そうか・・・この人が私の兄になるんだ・・・。





「さあ、全員揃ったところで食べましょうか!」

「ここの料理は何でもお薦めできるんだ、ちゃんも気に入るといいな。」

「はい、ありがとうございます。」





高級レストランで食事なんてしたことがなくて、マナーもよくわからなかったけれど
とりあえず周りの様子を見ながら恐る恐るナイフとフォークを持つ。
食べ物を口に運ぶと、食べたことのない味が口に広がる。
こ、こんなおいしいものがあるんだ・・・!慣れない手つきで一口、また一口と食が進む。





「気に入ったかい?」

「はい!すごくおいしいです!」

「よかった。それじゃあまた食べに来よう。」





嬉しそうなお母さん、優しいお父さん、穏やかで聡明そうなお兄さん。
小さな頃から母親と二人きりだった食卓。新しく増えた家族はとても素敵な人たち。
自然と心が躍って、思わず笑みが浮かんだ。
新しい家族、新しい環境は多少なりとも不安だったけれど、この人たちとならばうまくやっていけそうだ。

新しい家族が想像以上に安心できる人たちで、張り詰めていた心はもうほどけていた。





「・・・。」






だから、そんな私を凝視する視線があったことにも全く気付いていなかった。





そして数日後、転入した中学校でその反動のような衝撃を受けることになる。










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