時が経つのが早く感じる 「・・・つっばっさっくーん?」 「・・・何、そこのキモイ人。」 「いきなり?!まだお父さん何も言ってないよ?! 何でいきなりそういうひどいこと言うの?!」 「うざい。それで何?」 休日出勤していた父親が少しだけ早く家に帰ってきて。 僕らは久しぶりに家族3人で食卓を囲み、夕飯を終えた。 洗い物を終えたは宿題があるからと部屋へと戻り、今は僕とコイツの二人がリビングにいる。 「今日なんかあっただろ、と。」 「!」 「なーんかお前らギクシャクしてんだもん。お父さんには全てお見通し!」 「うるさいな。別に何もないよ。」 あーもういつも子供をほったらかしにしてるくせに。 どうしてコイツは変なところで勘がいいんだ。 「まあお父さんは聞かなくても見当がついちゃってるけどね!」 「は・・・?」 「に告白でもされた?」 「っ・・・!」 「おおっと珍しく動揺しまくってんな翼。」 ちょっと待てちょっと待て・・・! どうしてコイツが知ってるんだ。 コイツが知るはずなんてない。あの場所には僕との二人しかいなかったんだから。 「それでそれで?何て答えたんだよ色男!」 「だからお前には関係ないって言ってるだろ?」 「ちょ、父親に向かってお前呼ばわりはないだろ!お父さんいい加減泣くよ?!」 「泣け。勝手に泣け。アンタの場合、たまには泣くくらいのことを経験した方がいい。」 「え、何その台詞!俺の方が人生長いんだけど!人生の先輩なんですけど!」 「勝手に先輩にならないでくれる?たまたま少し長く生きてるだけだろ。」 コイツはもしかして、の気持ちに気づいていたんだろうか。 が相談・・・なんてするわけないか。こんな人をおちょくってる奴になんか。 「それで?夕飯のギクシャク感からいくと、翼くんは断っちゃったのかなー?」 「その喋り方止めてくれる?腹が立つ。殴りたくなる。」 「痛い痛い!もう蹴ってる!殴ってるよ翼・・・!!」 ニヤニヤと全部わかってるみたいに。 腹が立ってつい手足が出てしまった。 こっちは真剣に悩んでるっていうのに、何でこんな奴に面白がられないといけないんだ。 「そうやってのこともからかうのだけは止めてよね。」 「そんなわけないだろ?!俺がそんな嫌な奴に見えるのか?!」 「見える。大体断るとか断らないとか、それ以前の問題だろ。」 「・・・何が?」 僕に足蹴にされながら、親父が疑問の表情を浮かべた。 僕はため息をつきながら、少し迷って口を開く。 「は僕の妹で、まだ中学生だよ?」 「だから?」 「・・・わかんない奴だな。小さい頃から血がつながってないってわかってて、 周りは格好いいって言ってる自分の兄に憧れないわけないだろ。」 「え?何それ、自慢?!」 「違う。お前話聞く気ないだろ?」 相変わらずの親父の態度に呆れ、その場から去ろうとした僕を引き止めて。 謝りながら僕の言葉の続きを聞こうとする親父にまたため息をついて。 「憧れの気持ちと好きって気持ちがごっちゃになってるんだよ。」 「・・・。」 「まだ中学生なんだし・・・無理もないけど。」 「・・・お前それ、に言ったのか?」 「・・・ちゃんとは言ってないけど・・・ならそのうち気づくと思うよ。」 さっきまでふざけていた親父の表情が変わった。 掴んでいた僕の服のすそを離し、僕を見つめる。 「お前って年上好きなんだっけ?」 「・・・はあ?!何なのさいきなり・・・。」 「いやでも・・・お前後輩と付き合ってたことなかったっけ? じゃあ何歳以下が対象外ってことになるんだ?」 「何ふざけてるの?アンタのお遊びに付き合ってる暇なんてないんだけど。」 「だって、お前が言ってるのはそういうことだろう?翼。」 親父が言ってることの意味なんてわからないのに。 珍しく親父が真剣な表情を見せるから。僕は部屋を出ようと歩き出した足を止める。 「だからそういうことじゃないって言ってるだろ。 の気持ちは僕への憧れからきてるもので・・・」 「翼。」 「何・・・?」 「がそう言ったのか?自分の気持ちは憧れだって。勘違いだって言ったか?」 「そういうわけじゃないけど・・・。」 「じゃあが言ったことが本当か勘違いかなんて、誰にもわからないだろう?」 の気持ちを聞いたとき、まさかとそう思った。 妹であるはずのが、僕を好きになっていたなんて。予想もしてなかったことだ。 はいつでも笑って僕を迎えてくれた。 試合で負けても、情けないところを見せても、それでも格好いいと言ってくれた。 それは兄である僕に対する、絶対の信頼。そして理想。そう思いこんでいた。 だって彼女は大人びていても中学生。周りに影響されやすい、思い込みだって強くなるような年だ。 「お前がさ、年上しか好きになれないとか、中学生は対象外とか をこれからも妹としてしか見れないっていうなら仕方ないと思うよ。」 「・・・。」 「でもお前は年齢だけでの気持ちを決め付けてる。 が悩んで、悩みぬいて伝えた言葉を否定してる。」 「・・・それは・・・」 「確かには子供だよ。けどガキはガキなりにいつだって真剣なんだ。 お前にわからないわけないだろう?」 「・・・っ・・・。」 僕にもそんな存在がいた。小さな頃から恋をしていた人がいた。 その人と僕の年は大分離れていて、彼女はいつも僕を弟のように見ていた。 僕は僕なりに真剣だった。その人を守ってやりたいといつだって思ってた。 はやく大人になりたいと、そう願っていた。 けれど、それは叶うことなく、彼女から向けられる想いが恋にかわることはなかった。 「大人ぶって、簡単に決め付けるな。まっすぐにぶつかってきたから逃げるな。」 悔しい、本当に悔しいけれど。 僕は父親のその言葉で、への言葉を、行動を恥じた。 自分も同じ経験をしていたのに。 子供扱いされることが、気持ちを認めてもらえないことが苦しかった。 それなのに、僕も同じことを繰り返していた。 もう大人になったつもりで。まるで子供をたしなめるように。 まっすぐに向けられた想いにさえ目を向けられていなかったくせに。 「ふっ・・・お前もまだまだだな翼。」 「・・・。」 この時ばかりは何も言い返すことができない。 子供がそのまま体だけ大きくなったような父親だと思っていたのに。 たまに核心をつくようなことを言う。 親らしいところなんて、数えるほどしか見たことがないのに。 その数少ない親らしいところは、少なからず僕に何かを教えてくれている。 「大人になっても子供心を忘れない!それが良い大人になる秘訣だぞ翼!」 「調子に乗らないでくれる?アンタの場合、子供心が多すぎて大人になりきれてないだけだろ。」 「いいの!俺は大人になんかなりたくないの!」 「自分の年を考えて物をいいなよ。今のアンタ、ただの痛い人だよ。」 こうやって調子に乗らなければ、少しは見直すところもあったのに。 本当、呆れるほどにバカな親。 僕はリビングを出て2階に向かう。 しっかり者ののことだ、宿題はもう終えているんだろう。 宿題は僕から離れる為の口実。そんなことはわかっていた。 彼女の望む答えを僕は出せないだろう。 その答えは彼女をまた傷つけることになるのだろう。 それでも、僕は伝えなければならない。 踏みにじってしまった純粋な想いに、もう一度。 部屋の前で一呼吸つくと、僕はの部屋のドアをノックした。 「はっ・・・はい!!」 小さな頃にを泣かせてしまったことがある。 彼女の慌てたような返事。あの日のことが昨日のように思い出されて、胸がチクリと痛む。 あの頃のように一人で。誰にも心配などかけないように。 君はまた、泣いていたのだろうか。 Top Next |