時が経つのが早く感じる いつも冷静なお兄ちゃんが、見てわかるくらいに動揺してる。 それほどに驚いたんだろう。私の言葉に。 私もすごく、すごく緊張してる。動揺してる。 心臓が飛び出しちゃうんじゃないかってくらいにドキドキしてる。 「・・・・・・。」 少しの沈黙の後、お兄ちゃんがようやく声をだして私の名前を呼ぶ。 「・・・今のは・・・告白、なんだよね?」 「・・・うん。」 勘のいいお兄ちゃんならばわからないはずがない。 それでも確認したくなるほどに驚いたんだ。 「・・・いきなりでビックリしたな・・・。」 必死で冷静さを取り戻そうとしてる。 頭をかきながら、困ったように私から視線をそらした。 「・・・。」 「うん。」 お兄ちゃんはもう大人で、私はまだ中学生になったばかり。 私がいくらお兄ちゃんを意識していても、お兄ちゃんが私を意識することなんてないとわかってた。 その証拠が、お兄ちゃんの動揺ぶり。私がお兄ちゃんを好きになるだなんて考えてもなかったことだったんだろう。 だから・・・この気持ちが叶うことはないとわかってた。 「・・・ごめん、気持ちには応えられない。」 予想通りの言葉。だから驚きはしなかった。 悲しくても切なくても、それがお兄ちゃんの言葉ならば受け止めようと思ってた。 隠し切ることのできない想い。 そのせいでお兄ちゃんを不安にさせてしまうのなら、伝えるしかないと思った。その想いが叶わなくても。 私がそんな我侭を通すんだから、お兄ちゃんが困るのならそれで終わりにしようと思った。 隠しても、抑えこんでいても溢れ出す想い。 けれどそれを伝えられたなら、何かを始めるきっかけにも、終えるきっかけにもなるから。 「うん。」 だから私は素直に頷く。 わかっていたことだ。覚悟していたことだ。 だから、どんなに悲しくても涙は見せない。 お兄ちゃんにこれ以上の重荷を背負わせちゃいけない。 「が大切なことに変わりはないよ?でも・・・僕はを・・・そういう対象として見たことはないんだ。」 「うん、わかってるよお兄ちゃん。私は気持ちを伝えたかっただけ。聞いてくれてありがとう。」 私が笑うとお兄ちゃんもほっとしたように微笑んでくれた。 胸がズキズキと痛む。きっとお兄ちゃんにも気づかれてる。それでも。 「・・・そろそろ帰ろうか。」 「うん。」 それでも、きっとお兄ちゃんも心を痛めているはずだから。 悲しい顔なんて見せちゃダメだ。 お兄ちゃんが困るとわかってて気持ちを伝えたのは私。 だからたとえ必死で笑っていると気づかれても、悲しい顔と涙だけは絶対に見せない。 二人並んで歩く道。 先ほどまでのような何気ない会話すらない。 ただただ沈黙が流れて。 そんな中で言葉を発したのはお兄ちゃんだった。 「・・・は僕を買いかぶりすぎてるよ。」 「そんなことないよ。」 「いや、そうだね。だから僕を好きだなんて思うんだよ。」 「え?」 「僕を買いかぶりすぎて、憧れてて。 そんな男がずっと傍にいたら、好きだって思っちゃうよね。」 「・・・お兄ちゃん・・・?」 何か、ひっかかった。 ねえ今の言葉は・・・どういう意味? 「はまだ中学生だろ?」 「・・・。」 「これからもっとたくさんの出会いがあるよ。」 叶わない想いだとわかってた。 だからお兄ちゃんを困らせるだけのこの想いはいつか終わらせなければと思ってた。 終わらせようと思って、簡単に終えることができないものだとわかっていても。 それが恋であってもなくても、私がお兄ちゃんを好きなことに変わりはないから。 いつかはまた小さな頃のように、兄妹に戻れると思っていた。 お兄ちゃんが私を恋愛対象としてみていないこと、わかってたよ。 だからこの想いを伝えられればよかった。そう、思ってた。 確かに私はお兄ちゃんに憧れてた。 いつだって皆の中心で、皆を引っ張って、サッカーに対する情熱だって尊敬してた。 お兄ちゃんが格好いいと言われることが嬉しかった。皆がお兄ちゃんを褒めてくれることが嬉しかった。 だけど私は、だからお兄ちゃんを好きだと思ったわけじゃない。 皆が格好いいっていうお兄ちゃんだから好きになったわけじゃない。 普段見せない優しさも、冷静に見えてムキになっちゃうところがあることも 昔の友達と会うと子供っぽくなってしまうところも、昔からの変わらない笑顔も。 たくさんのお兄ちゃんを知って、ようやく気持ちに気づいたんだよ。 「お兄ちゃん、私・・・ちゃんとお兄ちゃんのこと好きだよ?」 「うん、わかってる。ありがとう。」 頭に優しく置かれた手と、理解してると微笑む表情。 お兄ちゃん、違う。違うよ。わかってなんかいないよ。 ずっと悩んで、ずっと考えて。 ようやく気づいた気持ち。 私はお兄ちゃんから見たら子供だけど、まだ中学生だけど。 それでもこの気持ちは憧れだけじゃない。勘違いなんかじゃないよ。 この気持ちが伝わればそれでいいと思った。 お兄ちゃんが困るだけの気持ちならば、もう終わりにしなきゃってそう思ってた。 でも、この気持ちをなかったことにしないで。 まだ子供だから、中学生だから、勘違いしているだなんて思わないで。 「・・・・・・?」 お兄ちゃんに振られたことよりも、もっともっと痛かった。 私の気持ちは、お兄ちゃんに届いてさえいない。 「・・・。」 覚悟はできてると思い込んでいたのに、結局は全然できてなかった。 子供のくせに大人ぶって、平気なフリをしていただけ。 悲しくて、悔しくて、目には涙が浮かぶ。 たとえ私の気持ちが本気とわかっても、お兄ちゃんを余計に悩ませるだけ。 それでもこの気持ちだけは伝えたいと思う。 それはただの、私の我侭だから。 「・・・そういえばお父さん、今日帰ってくるの早いんだった!今頃もう家にいるかも!」 「え、別に少しくらい待たせてればいいんじゃないの?」 「ダメだよ、急がなきゃ!」 「ちょっと・・・っ・・・?」 泣くな、泣くな、泣くな。 泣くことなんて、いつだってできるから。 私の我侭でお兄ちゃんをこれ以上不安になんてさせたくない。 私に負い目なんて、感じさせたくない。 だから今は、笑顔を。 この胸が痛んでも、 この想いが、届いていなくても。 Top Next |