あんなに小さかったのに










「どういう、こと・・・?」





親父の表情と言葉。
いくら親父が人をからかうことが好きだと言っても、今の言葉が冗談じゃないことくらいわかる。
その言葉の意味だって。けれど、聞かなければ。僕もも知らない真実を。





「俺がを引き取った少し前、アイツは病院で亡くなった。」





親父の言葉にまた驚く。
ちょっと待って?それじゃあが僕の家に来たときには彼女の父親は・・・





「なっ・・・どうして・・・?!じゃあもそれを知らないで・・・ずっと・・・」





混乱して、動揺して、考えがまとまらない。
何から聞けばいいのかすらわからない。頭に浮かんでこない。





「・・・いや、は知ってる。」

「・・・え・・・?!」

「アイツの死を、は目の前で見てるんだ。俺がアメリカの病院へ連れていった。」

「・・・な・・・に・・・?何それ?だっては・・・!」

「・・・やっぱりそうか・・・。」





僕の態度を見て、親父はまた悲しそうに笑った。
やっぱりって何?が父親の死を知っていたってどういうこと?
だっては未だに父親からの連絡を待っている。なのに。





「最後に父親に一目あわせてやるつもりだった。だから、を病院に連れていった。
アイツの最後の言葉もは聞いた。けど・・・。」

「・・・。」

は父親の死を受け入れることができなかったんだ。
父親が死んだ後も、俺に会うたび聞いてきた。『パパは元気か』って。」

「・・・そんな・・・」

「無理もない。は小さかったし、の母親も・・・病気で死別してるんだ。
には父親しかいなかった。施設で暮らすの唯一の支えだったんだ。」





いつでも笑っていた
僕を何度も救ってくれていた、僕の妹。
父親を待つ不安な表情さえ見せないように振舞って。
けれどその裏で、大きなものを抱えていた。






「けど俺ももう・・・」







バタンッ







「・・・?!」







玄関から聞こえた、扉の閉まる音。
それは小さな音だったけれど、僕らはすぐにそれに気づく。








「おいおい翼くーん・・・は寝たんじゃなかったのか?」

「そうだよ!そう言ってたのに・・・!」

「帰ったその日に伝えることになるとは思わなかったな。追うぞ翼!」

「言われなくても!」





親父に言われるまでもなく僕はもう走りだしていて。
今の話を聞いていただろうを追いかける。





いつも笑っていた





いつも人のことばかり気にして。





人のことばかり救って。








大好きだった父親の最後の時に、彼女はどんな気持ちでいたんだろう。





どんなに苦しんで、その記憶を封じ込めたんだろう。





どんな思いで、僕の家に来たんだろう。

















!待ちなよ!」









!!」










家を出たばかりのに追いついたのはすぐだった。
僕はの腕を掴み、彼女の名前を呼ぶ。









「ま、待っておにいちゃん・・・!!」









こちらを向かせようと肩に手をかけると、ようやくが声を出す。
それは震えた、泣きそうな声。










「あの、ち、違うの・・・」

。」

「あ、ご、ごめんなさっ・・・わ、わたしっ・・・」

!」










は決してこっちを振り向かない。
混乱して、きっと誰かに助けを求めたいはずなのに。









。」

「!」








僕はが止めた自分の手をもう一度彼女の肩にかける。
そして自分の方へと引き寄せた。









「何も考えなくていいから。」

「・・・っ・・・。」








そこにあったのは、彼女が滅多に見せることのない泣き顔。
僕に心配をかけまいと、どんなときも耐えていたその表情。









「一人になんてしないよ。は僕の妹なんだから。」

「・・・う・・・っ・・・」









今まで抑えていたものが溢れ出すように、はポロポロと大粒の涙を零し僕の胸に飛び込む。
僕はそんなを抱きしめた。

今までが僕にそうしてくれたように。温かく包んでくれたように。
僕が感じた安心感や安らぎを与えられるように。


















「何この兄妹愛・・・!おとうさん感動っ・・・!!」





・・・ところで誰か、この空気の読めないアホ親父をなんとかしてくれないかな。









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