小さな、暖かな手 「こんにちは!おにいちゃん!!」 「・・・・・はい?」 来客を知らせるチャイムが鳴り、僕は家のドアを開けた。 一瞬、そこには誰もいないように見えたのだけれど、 僕の視界の下から聞こえたのは、小さな女の子の大きな声。 「えっと、どこの子?」 「このおうちのこどもだよ!」 ・・・状況が全く理解できない。 迷子?でも何で僕を見てお兄ちゃんなんて言ってるんだ? 「つばさくんでしょ?」 「・・・?!何で僕の名前知ってるの?」 「おとうさんから聞いたもん。しゃしんも見せてもらったから、すぐわかったよ!」 ほら、と渡された写真。明らかに僕だ。 そしてその子は、肩からかけていた小さなバッグをごそごそと探っている。 「おとうさんがこれをみせてって。おにいちゃんならすぐにわかるからって。」 「・・・。」 何だかとてつもなく、嫌な予感がする。 だから見たくなかったんだけれど、こんな小さな子を今更追い返すわけにもいかない。 僕は無言で、渡された紙切れを受け取った。 『よう翼!元気でやってるか? 突然のことに、さすがのお前も驚いていることだろう。 今そこにいる目に入れても痛くないほどの可愛さを持った女の子は、。俺の娘だ! 正確にはこれから俺の娘だ!何でって?父さん娘が欲しかったんだよね!! え?驚いた?そうだろうそうだろう。大・成・功☆ でもホラ。父さん海外勤務じゃないか。 その子はずっと日本の施設にいたし、簡単にこっちに連れていくわけにもいかないしな! だから翼に任せるよ!翼ならなんとかしてくれるだろ?父さん、翼を信じてるぞ!! 妹に優しくな!翼が父さんにするみたいに、殴ったりしちゃダメだぞ☆ あ、そうそう。 学校もちゃんと手続きしといたから。お前の通う飛葉中の隣の小学校!よろしくな! この子を迎えに日本には帰ったんだけど、翼が怖いからまたアメリカ戻るな! 翼が落ち着いた頃に、また帰るよ。寂しくて泣くなよ? ああでもがいるから安心だな!それじゃあな!』 「・・・・・。」 「おにいちゃん?」 「あ・・・あんの・・・クソ親父ーーーーーーーっ!!!」 勢いに任せて叫び、手にあった紙切れを握りつぶす。 何だこれは何だこれは何だこれはーーーー!!! いくら親父が自己中で我侭で人をからかって遊ぶことが生きがいで 人に迷惑しかかけない生き方を誇りに思ってる奴だったとしても!! ペットとかじゃないんだぞ?! 何、この欲しかったからもらってきましたみたいなノリ!! ていうか、欲しかったとかいうなら自分で育てろよ!! ところどころにある星マークとか、すっごく腹立つんだけど!! ありえない。信じられない。誰か嘘だって言ってよ! うなだれながら、横ではてなマークを浮かべている少女を見る。 ・・・どうするのさこの子。親父の話だと戸籍上はもう僕の妹ってことになるわけ? いくら親父でもいきなりそれは・・・ないとも言えない。いや、むしろ奴ならやる。 施設にいたって書いてあった。他に帰る場所なんてないのだろう。 「・・・。」 「・・・?」 「・・・あがりなよ。」 「うん!ありがとうおにいちゃん!おじゃまし・・・じゃなかった・・・。」 「?」 「た・・・た・・・」 何やら顔を真っ赤にして、た、た、と口ごもっている。 た?何が言いたいんだ? 「ただいまっ!!!」 「・・・。」 ようやく出た言葉は、ごくごく普通の当たり前の言葉。 顔を真っ赤にして、ちゃんと言えたと満足そうだ。 そのまま、その小さな少女は期待をこめて僕を見上げた。 考えなくたってわかる。彼女の求める言葉。 「おかえり。」 「へへっ。うん!!」 あまりに嬉しそうに笑うから、つられて僕も笑ってしまった。 親父に今まで押し付けられた問題の中で、これは間違いなく一番の問題。 親父への怒りは消えない。今度帰ってきたら、どんな目にあわせてやろうかと、そう思う。 けれどこの子に罪はない。むしろ親父の考えなしな行動に巻き込まれた被害者だ。 「名前は?」 「!7さい!!」 親父の手紙で名前は知っていたけど、あんな手紙は記憶から抹消してやる。 この子の口から聞いたことが真実だ。 「僕は翼。15歳。」 「15?おとなだね!」 「さあ、どうかな。」 まあ7歳の子供にとっては、15でも大人なんだろう。でも僕もまだ中学生なんだけど。 とはいえ、自分の性格上、この子を放り出すことなんてできないこともわかってる。 昔から親父には振り回されてきた。 そんな親父に慣れてしまっていた自分。 それでも今回は、今までのことなどちっぽけだと思わせる大問題。 この子に、に罪はないけれど。 親父め・・・!!今度帰ってきたら覚えとけよ!! Top Next |