一緒に歩んでいこう。






望んだ未来を。






広がってゆく、可能性とともに。



















最後の夏に見上げた空は 

−another story−


















「「「ーーーー!!」」」





入院していた病院で、医者の先生から許可をもらい
私は数日ぶりに桜塚高校へとやってきた。

私と一緒に学校へ来た亮先輩と別れ、皆がいるだろうD組の扉を開ける。
扉が開く音とともに一瞬の沈黙。その後は皆嬉しそうな顔をして私へと駆け寄ってきてくれた。





っ!ーーー!!」

「有希・・・!」





真っ先に私に飛びついて、抱きしめてくれたのは有希。





!」

ちゃんっ!!」





その後ろからは結人と藤代くんが今にも飛びつかんとしている。
けれどそれは有希の無言の牽制によって、止められていた。

有希を抱きしめながら教室を見渡せば、笑顔で私を迎えてくれる皆がいる。





「お帰り。。」





英士が静かに呟く。
もう二度と会えないと思っていた、大切な人たち。
私にたくさんの想いを教えてくれた大事な仲間。
もう悲しいことなんて何もないんだから。笑って再会しようと思っていたのに。
視界が滲んで、目には涙が浮かぶ。それでも私は精一杯の笑顔を向けて。





「・・・ただいまっ・・・」





また会えたことが嬉しくて。浮かんだ涙が頬を伝う。
何だか泣いてばかりいる自分。けれど、またこの人たちに会えたことが本当に嬉しくて。





「・・・また・・・皆に会えて・・・よかった・・・」





思った言葉をそのまま伝えれば、私を抱きしめる有希の力が強くなった。
肩の震えている彼女もまた、涙を流してくれているのだろう。





「・・・うっ・・・くっ・・・」





すすり泣くようなその声。その声の方へと視線を向ければ。





「功先生・・・。」

「お前らっ・・・ほ、本当によかったよなぁっ・・・!」





溢れ出す涙を自分の腕で必死に拭っている功先生だった。
功先生にもたくさん助けてもらった。私たちのことで涙まで流してくれる先生には感謝の気持ちでいっぱいだった。





「泣きすぎだから!功先生!」

「そうだよ!何で先生が一番泣いてんだよー!」

「だってお前ら・・・!泣くよ!そりゃ泣くよ!すっごい嬉しいんだからさ!」





からかわれるはずだった功先生があまりにはっきりと、嬉しい言葉を告げるから。
結人も藤代くんも言葉につまって、それでも嬉しそうに笑った。

















1時間目は功先生の配慮で自習と言うことになった。
久しぶりに会った私たちは、嬉しさで興奮冷めやらぬ状態だったからだ。
10人しかいない私たちのクラス。数個の机の周りに全員が集まって、いつの間にかそれぞれの思いを語っていた。





「なあなあ、これから俺たちってどうなるんだと思う?」

「政府の頭がよっぽど固くなければ、『普通の』生活って奴ができるんだろうね。」

「実感沸かないよな〜。今までこの町に閉じ込められてきて、この世界しかしらないしさ。
17までしか生きられないって言われてたから、何かになりたいなんていうのも持ってなかったもんな〜。」

「だよな!鳴海なんてグレちゃったし!」

「ああ?!誰がだよ!!」

「うわっ!一度グレた奴は中々元に戻らないって奴?もうグレる理由ないってば鳴海!」

「てめぇ!俺がガキだからグレたみたいな言い方してんじゃねえよ!!」

「うわー!せっかくしんみり話してたのに台無し!鳴海が切れたぁっー!!」

「何笑ってんだ!お前のその態度がムカつくんだよ!藤代!」





からかうように笑う藤代くんを鳴海くんが追いかける。
藤代くんは本当に怖がっているように見えない。むしろ楽しんでるような・・・。
思えば周りから恐れられてると聞いた鳴海くんは、私たちのクラスではそんなに怖がられてなかったような気もする。
それはきっと、皆、鳴海くんの気持ちを理解していたからなのだろう。





「アイツの未来は不安だな・・・。」

「み・・・水野くん・・・。」

「確かに見てるだけで、アイツこれからうまくやっていけるのかって心配になるわね。」

「鳴海を乱暴者から戻すにはもう、猛獣使いのしかいないんじゃない?」

「・・・ええ?」

「(・・・猛獣・・・)」

「あはは!猛獣!!頑張れよ!」

「え、ええ?!」

「まあ鳴海くんは・・・の言うことくらいしか聞かないだろうね。」

ちゃんまで・・・!そんなことないよ・・・?!」





鳴海くんのへの気持ちを知ってか知らずか。
猛獣かどうかは置いておいて、皆の言っていることは的を得ている。
鳴海くんはのことになると、途端に優しくなるから。
もしも彼がにその想いを伝えて、彼女もそれを受け入れたのなら。
彼女が側にいるのなら、不器用な彼も少しは素直になれるのかもしれない。

とは言え、には好きな人がいたわけで。
これからの彼らの関係がどうなるかだって、わからないのだけれど。





「でも未来は結構不安だよな。お前らってこれからやりたいこと、なんか決まってんの?」

「「「サッカー!」」」

「とりあえず明駱高校にリベンジッ!!」

「わっ。藤代、鳴海から逃げてきたのか?」

「俺の脚に鳴海がついてこれるわけがなーい!」





自慢気に話す藤代くんと、迷うことなく「サッカー」と答えたのはサッカー部の三人。
彼らを支えたサッカー。開かれた未来。たくさんの選択肢。
彼らがどんな未来を歩んでも。サッカーを好きなことだけは変わることはないんだろう。





「翼さんがさ。卒業したらプロの試験受けるつもりなんだって。あまくない世界だし、俺らには選べる未来ができた。
だけど・・・それでもその世界に来たいなら挑戦してみろって言ってくれたんだ。」

「俺は目指すつもりだ。閉ざされた世界じゃなく、たくさんの奴と戦ってみたい。」

「僕も・・・そこへ行きたい。サッカーと生きていきたいんだ。」

「私は女だから、こいつらと一緒のグラウンドには立てないけど。
そこらの女には負けないつもり。だから私もサッカーで上を目指すわ。」

「勿論俺も!どんなところに行ったって、俺は誰にも負けるつもりはないからさ!」





本当に嬉しそうに未来を話す彼らを見て、私も嬉しくなる。
それはずっと望んでいたこと。けれど、口になんて出せなかった。
自分たちに未来がないことがわかっていたから。それを口に出しても、残るのは空しさだけだったから。
思い描いた夢を語ることさえ出来なかった。けれど今は。
堂々と言葉に出来る。笑って話せる。笑って、彼らを応援できる。





「・・・ふーん。いいなあ。俺なんて何にも考えてねえよ。」

「っていうよりも、すぐに未来が浮かぶこいつらが特殊だよね。」

「へへーん!素直に羨ましいって言えよな郭〜!」

「・・・まあ、羨ましいかな。俺は未来なんて見たことなかったから。」





未来を見ることさえ出来ず、過去に囚われていた英士。
笑っているその表情はどこか悲しげで。
遺伝子強化兵であること。限られた時間しかなかった私たち。
それでも生きるには理由が必要だった。
生きる理由を未来に託すことさえ、できなかった。





「でっ・・・でも・・・!!」

「一馬?」





それまでほとんど喋らなかった一馬が、勢いあまって席を立つ。
そして、悲しく笑った英士を見つめた。





「でも・・・俺らにだって未来はある!未来を見ることができるんだ・・・!!
今は見つからなくたって・・・もう限られた時間なんかじゃない!これから見つけられるだろ?!」

「一馬・・・。」

「だからっ・・・だから英士・・・そんな顔・・・」





英士をまっすぐに見た一馬。
英士の表情を見て、必死になって彼を励まそうと言葉と紡ぐ。
そんな一馬から視線を外さぬまま、英士は静かに微笑んだ。





「うん。わかってる。・・・ありがとう一馬。」

「え、英士・・・。」

「・・・そうだよな!今は何も考えてなくたって、先は長いんだから気長に行こうぜ!」

「先は長い・・・か。そうだね。選択肢なんていくつでもありそうだ。」

「先のことなんてわからないけどさ!俺たち3人揃えば怖いものなしだもんな!」

「ははっ。そうだね。」

「・・・っ・・・。」

「あ!泣くなよかじゅま!!」

「な、泣いてねえよ!だからかじゅまって・・・」

「ははっ。そんな顔で反論したって説得力ないよ一馬。」





涙ぐんで真っ赤になった一馬をからかって。
教室に笑い声が響く。





は?どうするか決まってるの?」

「私も・・・今はこれと言って浮かんではいないけど・・・。」

「だよなー!も俺たちと一緒か!」

「うん。でも一馬の言うとおり、これからいくらだって探せると思うから。」





自分を取り巻く環境には無関心だった。
けれど、様々なの出会いの中で、たくさんの想いを知った。

笑いあえる場所。他人の中に見出せた温かさ。誰かを思うまっすぐな気持ち。

自分が遺伝子強化兵だと知って絶望した。
大切な人たちにもう二度と会えないのだと。
もう自分は当たり前にそこにあった未来を見ることさえできないのだと。



けれど今は。









「・・・例えばさ。」

「ん?」

「例えばこの先、私たちがそれぞれの未来を見つけて、バラバラの道を歩んだとしても。」

「・・・。」

「それでも、またこうして皆と会いたいって思うんだろうな。」








それは、心から思うこと。









「皆に会えてよかった・・・!」










「今この場所で・・・皆と一緒にいられることが嬉しい!」













病室のベッドで見た夢。
とても、とても幸せな夢。

皆が笑っている夢は、もう夢なんかじゃない。
未来のなかった私たち。けれど今は、未来を想像して思いを馳せる。
他愛のない日常。大切な人たち。



私たちはそんな日常を、これからも過ごしていける。



生きて、いけるんだ。











ちゃん!俺も嬉しい!すっごい嬉しい!」

「泣かせること言うなよー!!」

「きゃあ!」





藤代くんと結人が感極まったように、私に抱きついた。
突然の二人分の重みにつぶされるように、机に突っ伏すように肘をついた。





「どさくさにまぎれてに抱きつくな変態ども!」

「うわ!小島が怖え!」

「あはは。ちゃん大丈夫?」

「うん。大丈夫。」





重みが消えて体勢を元に戻せば、そこには皆の優しい笑顔。





「これからもずっと・・・よろしくね。。」





その温かい場所で、英士が静かに呟く。
その言葉が嬉しくて、私もその笑顔に応えるように笑って。





「こちらこそよろしく!」










一度は諦めた自分たちの未来。
けれど、再度与えられたその未来。








もう一度、歩みだそう。








それは私たちの新たな未来と可能性。









今度こそ皆で、未来を見据えて歩んでいけるから。













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