信じよう。





だってお前はいつだって





自分よりも、俺たちのことを考えてくれるような奴だったから。










最後の夏に見上げた空は










「下山、何か知ってんのかなー?」

「どうだろうな。言い合いをしていた位じゃ・・・なんとも言えないが・・・。」

「けど、本当、下山先生ってかなり怯えてたぜ?だから俺、おかしいって・・・。」

「ああ。だから確かめてみるんだ。それではっきりする。」

「だな!一馬もシャキッとしろ?すぐ落ち込むの、お前の悪いクセ!」

「わ、わかってる!」





落ち込んだ様子の一馬の背中を叩き、笑顔をつくる。
そりゃ俺も不安だけど、俺まで落ち込んでても意味がない。
英士もも、きっと無事で俺たちの元に帰ってくる。俺はそう信じてる。
一馬や、渋沢先輩の言っていたことが真実だったとしても。

俺たちが向かっているのは職員室。
少し遅い時間ではあるが、教師はまだ仕事をしているだろう。
そして下山が何かしらの情報を持っていれば、英士とに近づくことができる。
むしろ、渋沢先輩とか西園寺先生が何日か調べても、何も出てこなかったってことは、
一馬の持っていたその情報くらいしか、今は頼るものがない気がする。



そんなことを考えながら歩いていると、外から戻ってきたらしい椎名先輩に三上先輩、そして功先生にばったり会った。





「真田、若菜も。お前らこの時間は寮に・・・。」

「だって仕方ねーじゃん!英士とが心配なんだよ。
俺らだって何かしたい!じっとしてるなんて嫌なんだよ!」

「・・・。」

「すいません。でも俺ら・・・心配で仕方がないんです。」

「・・・はー。わかったよ。お前らの気持ちは充分すぎるくらいわかるし。
俺が外出許可出したってことにするよ。」

「よっしゃ!さすが功先生!」

「あ、ありがとうございます!」





やっぱり功先生は、一番話のわかる教師だ。
と英士がいなくなって、何事もなかったかのように黙々と授業を続ける教師とは違う。
二人を見つけ出すと約束した功先生は、自分の休みを返上して二人を探しまわっている。
そんな先生に迷惑をかける気はなかった。だから大人しくしていたけれど、
今回ばっかりは譲れない。もうじっとしているなんて嫌だから。





「渋沢。そっちの状況はどう?」

「ちょっとした情報を掴んだよ。今から確認しに行く。そっちは?」

「同じく。情報を掴んだから確認しにいくところ。」

「もしかして、その確認の相手は・・・?」

「「下山先生。」」
















俺らは揃って、職員室から呼び出したその相手に向かいあう。
下山は、怯えた顔をして、俺たち6人を見る。





「なっ、何だ君たち!風祭先生まで・・・!揃って何か用なんですか?」

「今回の・・・郭 英士と が消えた件ですが、下山先生は何かご存知なのではと思いまして。」

「なっ・・・何を言っているんだ。知っていたらもちろん話すさ。く、くだらないことで時間を取らせないでくれ!」





何かを隠していることが見え見えだ。
かなり動揺しているのがわかる。
そして、俺たちはここぞとばかりに掴んだ情報を下山に問い掛ける。





「郭くんと言い争っているところを見たことがあると言われましたが?」

「・・・そりゃ生徒とぶつかることくらいあるさ!教師なんだから・・・!!」

「あの日、貴方が門の前をうろうろしているところも見られています。
この辺じゃ見たことのない複数の人間と話しているところも。」

「周りを見回っていたんだ!教師ならそれくらい当然だろう?
それに道を聞かれるくらい、誰だってあるだろう?!」

「・・・では何故、貴方所有の車が桜町から出て行っているのでしょうか?」

「み、見回った後に出かけたんだ・・・!!見回りを終えて、ちょっと外に買い物でも行こうかと・・・!」





ドカッ!!!!





動揺しているくせに、なかなか話をしようとしない下山に、俺らがイライラしだした頃、
俺たちのやり取りを黙ってみていた男が、突然行動に出る。

下山の真横の壁に対し、拳を突きつけた三上先輩だった。





「・・・なっ、ななっ、何をするんだ!!教師に向かってこんなことして、ただで済むと思っているのか?!」

「教師教師ってゴチャゴチャうるせーな!!教師らしいこともしてねーくせに!
とっとと知ってる情報をよこせって言ってんだよ!!」

「だから私は何も知らないと・・・!」





ドスッ!!!!





今度は下山のさらに近くに。
顔に当たるか当たらないかのギリギリの場所だ。





「ひっ・・・ひぃ!!」

「同じこと言わせんじゃねーよ。」

「あ、あわ・・・。退学に・・・」

「ああ?!退学上等だ!そもそもがいなきゃここには来てねえんだよ!
アイツを連れ戻して、どこへでも行ってやるよ!!」





三上先輩の形相に、下山は声が出せずにただ怯えている。
この先輩はのためならきっと、何でもするだろう。
下山への台詞も、決して脅しではないと思えた。





「かっ・・・風祭先生・・・!何をじっと見ているんですか?
この生徒を止めてください!!これは明らかに暴力行為です!!」

「・・・暴力?あはは。俺には生徒との話し合いにしか見えないなあ。」

「風祭先生っ・・・!アナタ・・・!!」

「とっとと吐け。殺すぞ?!」

「慌てるなよ三上。」

「しっ・・・椎名っ・・・お前は俺の味方・・・」

「すぐ殺すより、情報をを吐くまでずっと生き地獄を見せてやろう。
生まれてこなきゃよかったって思わせるくらいにね。」

「ひぃぃっ!!」





にこやかに、とんでもないことをいう椎名先輩に、下山が声をあげる。
その言葉を受けて、不敵に笑った三上先輩の拳が、再度振り上げられる。
そして、それは下山の顔へと向けられ・・・。





「わ、わかったーーー!!話す!話すからやめてくれーーー!!」





振り下ろされた三上先輩の腕が止まる。
そして氷のように冷たい表情をして、下山を見下ろしていた。



















「じゃあ行ってきます!後はお願いします!!」

「ええ。下山先生は警察に連れていくわ。もっと詳しい状況がわかれば、携帯に連絡します。」

「功先生・・・。」

「若菜!真田も・・・!絶対連れ戻してくる!!」

「・・・任せたからな!!絶対だからな!!」

「・・・お願いしますっ・・・!」

「おう!待ってろよ!!」

「俺は行けないが・・・気をつけろよ?」

「わかってるよ渋沢。必ず皆一緒に戻ってくるからさ。」

「三上も・・・無茶はするなよ?」

「・・・ああ。」

「よし、じゃあ飛ばしていくぞ!三上、椎名!!」





下山の話を頭から信じたわけではないが、今の俺たちにはそれしか情報がないこと。
その話は、この事件のつじつまに合っていることから、それを信じ下山の言う場所へ向かうことになった。

下山から聞いたその場所は、山奥の中。
車でしか行けないだろう場所には、功先生と三上先輩、椎名先輩で向かうことになった。
警察にも連絡は入れたが、動くのはどうせ遅いのだろう。



下山から聞いた話は、あまりにも信じられないことばかりで。
英士が昔から政府の壊滅を目論んでいたなんて。
その協力相手とずっとコンタクトを取っていたなんて。



そのために、を利用しようとしていたなんて。



信じられなかった。
のことをただのクラスメイトと言っていたけれど、俺は英士はが好きだったんじゃないかと思ってた。
だって俺は、あんなに穏やかに、優しそうに笑う英士を見たことがなかったから。
それは俺たちに、親友に見せる表情とはちょっと違う、愛しいものを見る表情に見えたから。

そんなを利用するなんて、考えられなくて。
俺たちに一言の相談もなしに、この場所から離れるなんて考えられなくて。俺の頭は混乱していた。





隣にいる一馬を見る。
一馬は俯いて、どうしていいのかわからない顔をしている。

一馬は自分が英士を疑ってたことを、後悔しているみたいだから。
長く付き合ってたって、親友だって、疑ってしまうことくらいあるのに。
俺らは完璧じゃない。強くもない。弱い心に負けてしまうことだってある。
なのに、一馬は優しすぎて、すぐに自分を責めるんだ。
これもコイツの悪いクセなんだよな。





・・・こういうとき、英士だったらどうするんだろう?





そうだな。英士だったら、憎まれ口を叩きながらも、一馬を励ますんだ。
それは決して優しい言葉じゃないけれど、それでも俺らはその言葉にいつの間にか元気づけられて。
俺たちは俺たちのままでいいんだって、そう思わせてくれる。





そうだ。英士はいつだって、俺らのことを考えていてくれていた。











「・・・一馬。」

「・・・何?」

「英士のこと、わからなくなったって顔してんな。」

「っ・・・!だって・・・!」

「俺さ。お前らがいるのにずっと一人だって思ってたじゃん。
が来るまで、そんなことをずっと考えてた。」

「・・・え?」

「何で真っ先にお前らに相談しなかったかわかるか?
お前らに話せば、もっと早く解決したのにさ。」

「・・・。」

「俺な。見せたくなかったんだよ。お前らに俺の醜い考えを。
くだらない恨みとか、嫉妬とか・・・。見せたくなかったんだ。」

「結人・・・。」

「親友だから、話せないこともあるんだよな。」





だから俺は思うんだ。
英士もそうだったんじゃないかって。
自分の醜い部分を、汚い心を、親友の俺たちには見せたくなかったんじゃないかって。

俺だって、怖かったから。
こんな醜い自分を見られて、お前らが離れていくんじゃないかって。
お前らっていう、大切な存在に気づかないで、一人だと思いつづけて。
そんな自分を無意識にわかってたから、だから言えなかった。






「下山の話が本当なら・・・いや、本当なのかもな!英士だし!!」

「ゆっ・・・結人・・・!」

「だって英士って策士だし。俺バカだから、英士の考えてたこととかわかんねーよ。」

「・・・お前、俺が英士を疑ってたら怒ったくせに・・・。」

「ははっ!まーいいじゃねーか。状況は変わるんだよっ!」

「・・・。」

「・・・けどさ。」

「・・・何だ?」

「英士が、俺たちをすっげえ大切にしてくれてたことは本当だと思うんだ。」

「・・・。」

「憎まれ口叩いたって、いつも俺たちのこと考えてくれてた。」

「・・・うん。」

「俺は英士を信じるよ。きっと、俺たちのところに帰ってくるって。」

「・・・ああ・・・。俺も、俺も・・・信じるっ・・・!!」

「けど、戻ってきたらまず説教だな!俺たちをもっと頼れっての!!」

「・・・ははっ。そうだな!」

「かじゅまは止めとけ?返り討ちに会うだけだから。」

「そんなことねーよ!!かじゅまって言うな!!」













英士。



早く、早く帰ってこい。



と一緒に、いつもみたいに涼しげな表情で。





お前がどんなことを思っていたっていい。



どんなに醜い考えを持っていたっていい。



それでも俺たちは友達だから。









だから、待ってる。





この町で、お前との帰りを待ってるから。





だから絶対、帰ってこいよな。















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