自分の愚かさに嫌悪した。
自分の甘えに怒りを覚えた。
けれど。
後悔も反省も、そんなものいつだって出来るから。
最後の夏に見上げた空は
「はー!終わった終わった!めんどくせーことさせやがって!」
「三上って文句だけは一人前だよね。を見習って、もう少し人の役に立つ生き方したら?」
「うるせえよ椎名。言っとくけど今日の分は貸しだからな。」
「細かい男だよね。本当、の気持ちが理解できないな。」
「余計なお世話だっつーの!」
今日の片付けの最後、サッカーゴールをサッカー部の奴らと運んで、今日はやっと終わりだ。
全く俺としたことが、思いっきり手伝っちまった気がすんだけど・・・。
「三上先輩っ!今日はありがとうございました!」
「あ?別に・・・。」
「そうですね!いろいろ手伝ってもらって・・・線審までやってもらっちゃって。」
「三上先輩ってサッカー知ってるんすもんね!やっぱり今度一緒にやりましょうよー!」
「マジでー?!俺俺!俺が対戦したい!もうサッカー部に敵はいないし!!」
「だからどこからその自信が出てくんだよ桜庭はさー。」
サッカー部のガキどもが俺の周りに集まってきた。俺は顔をしかめて後ずさる。
ていうか、どいつもこいつもサッカーバカだよな。うるさいくらいに。
・・・まあ、今日の試合はまあまあだったと思うけどな。
「そうだ!ちゃんにもお礼・・・ってあれ?ちゃんは?ついでに若菜と真田もいないし。」
「あ、真田先輩と若菜先輩は、お友達のお見舞いに行くみたいで・・・。
先輩は西園寺先生を呼びに行ってます。」
「そうなんだ?ちゃんは最後まで優しいなー。さすが!!」
全くあいつは・・・。どうせ自分から行ったんだろうけど、しなくていいことまで引き受けるし。
あいつのおせっかいのせいで、俺がどれだけ苦労してるか。まあ、それがだからいいんだけど。
はこの学校に来て確かに変わった。
なんていうのか・・・俺以外にも笑うようになってたし、人の世話まで焼くようになった。
もともとそういう性格だったのかもしれねーけど、前の学校じゃ少なくともそんなことはなかった。
他人に興味がなくて、いつも一人でいるように見えた。まあ、実際一人だったんだろうけど。
あいつが笑ってるならそれにこしたことはないが、今まで俺にしか見せてなかった顔を
他人に見られてたと思うと、ちょっと、いや結構むかつく。
だから、あいつを狙う奴とか出て来るんだよな。もっと警戒心を持てっての。
「あれ?若菜と真田じゃん?」
「本当ね。郭の様子見にいって、戻ってきたのかしら?」
「それにしては、あせって走ってくるような・・・。」
「・・・お前らっ!!英士・・・英士見なかったか?!」
今日、試合を見にきていたのクラスメイトが、息を切らせながらこっちへ向かってきた。
『えいし』って、ああ、今日調子が悪いとか何とか言ってて来られなかった奴か。
「いや、見てないけど?どうしたんだよ。郭は今日調子悪いから寝てるって・・・。」
「いねーんだよ!どこにも!!」
「いないって・・・トイレとかじゃねーの?」
「いない!トイレにも風呂場にも食堂にも!!」
「どうしたんだよ。若菜も真田も。きっとどっかいるよ。調子悪いったって重病ってわけじゃないんだろ?」
「そうかもしんねーけど・・・けど、なんか・・・」
何故か、かなり不安そうな顔をして、真田(だったよな?)が俯く。
若菜?もその真田を見て、心配したような顔だ。
ていうか、藤代の言ってることは最もだ。
具合悪いっつったって、どうせ風邪かなんかだろうし。しかも男だろ?
それがちょっといなくなったからって、そんなに大騒ぎすることでもないだろう。
しかもここは桜塚高校。ムカツクが簡単に外に出れるような場所じゃない。
それなら学校のどこかにいるはずだ。そこまで心配する必要もない。
「あら?どうかしたの?」
「玲。いや、こいつらの友達の郭ってやつが見あたらないんだってさ。
そいつ、今日は寝込んでたらしいから、心配らしくて。」
「そうなの・・・。どこにもいないの?」
「トイレとか風呂場とか食堂とか行ったけどいなかったってさ。」
「うーん。行き違いもあったかもしれないわね。ちょっと探してみましょうか。」
椎名も西園寺監督もやはり冷静だ。
多分俺と同じ考えがあるんだろう。・・・ん?西園寺監督?
「おい・・・。は西園寺先生を呼び出しに行ったっつったか?」
「え、あ、はい。そう言って、職員室に行ったはずなんですけど・・・。」
「え?さん?私を呼びにきてくれたの?私は会ってないんだけど・・・。」
「じゃあそこも行き違いかな。職員室に玲がいないとわかったら、すぐ戻ってくるだろ。」
「そうね。とりあえず、もう一度郭くんを探して、いなかったら郭くんには放送をかけてみましょう。
具合が悪かったんだったら、どこかで倒れてしまっていたら一大事だからね。」
さすが教師というかなんというか。テキパキと次の行動を決める。
ここの学校の教師は情けなさそうな奴が多いが、この女の先生の方が全然しっかりしてる気がする。
「そしたら・・・」
「西園寺先生!!」
「あら?どうかされたんですか?袴田先生?」
「大変です!すぐに生徒を寮に戻してください!!」
「・・・え?それはどういう・・・」
「門の前にいる警備員が何者かの襲撃を受けました!!
外部から侵入者が入った可能性があります!!一刻も早く生徒を寮に集めてください!!」
「「「!!」」」
一瞬、頭の中が真っ白になる。そして言いようのない胸騒ぎが襲ってくる。
桜塚高校なら外に出ることも、外から誰かが来ることもないと、何でそんなことが思えた?
こんな制度のある忌々しい学校に、嫌悪感すら持っていたはずなのに、その制度に守られてるとでも思ってたのか?
俺がお前を守ると、そう思っていたのに、どうしてそんな考えができた?
俺はいても立ってもいられずに、その場から離れる。
走りながら必死で名前を呼ぶ。何度も。何度も。
「っ!!」
無事でいることを願って。
「っ!!」
俺の声に驚きながら、現れてくれることを祈って。
「っ・・・!!」
「三上!!」
息をきらせた椎名が俺の腕をつかむ。
険しい顔をしながら、俺を見上げる。
「・・・闇雲に探しまわったって仕方がないことくらい、お前ならわかるだろ?
今、玲が放送をかけたから、寮の食堂に集まってるはずだ。きっと、もそこにいる。」
「そんな悠長なこと・・・!!」
「門にも新しい警備員が張り付いてる。侵入者がいたって、そこで食い止められるはずだから。」
「その警備員が不甲斐ねえから、侵入なんてされるんだろ?!」
「三上っ!落ち着けよ!!お前が慌てたって仕方ないだろ?!」
椎名の言っていることが最もなことはわかってる。
けど、それでも、自分の不甲斐なさに、情けなさに、苛立ちが抑えきれなかった。
「・・・とりあえず、食堂に行こう。そこで・・・。三上?」
「・・・。」
もう日も暮れて、周りは暗くなっているが、かすかに光るものを見つけた。
それがどうにも気になって、近づき手に取る。
「・・・!!」
それは、見覚えのあるもの。
元は俺が持っていたもの。
銀色が反射して光って見えたそれは。
に渡したクロスのストラップ。
ストラップを握りしめて、自分の愚かさに嫌悪する。
ストラップを握りしめて、自分の行動を後悔する。
俺は、バカだ。
の側に、ずっといると決めたのに。
どうして単純に行き違いなんて思った?どうしてすぐに戻ってくるなんて思った?
何があったって、あいつの側にいてやらなきゃいけなかったのに・・・!!
寮の食堂に集まった生徒。
その中にの姿はなかった。
そしてもう一人・・・。
「英士っ・・・何で・・・!!」
「英士ももいなくなるって、どういうことだよっ!!」
サッカー部で友達がいないと騒いでいた二人が、教師につめよる。
つめよられた教師は慌てた様子で、他の教師に助けを求めている。
「俺たちをこんなところに閉じ込めて、ずっと閉じ込めて・・・
それなのに、何で今更、二人がいなくなるんだよっ!!」
「若菜。真田。」
「功先生っ・・・!!」
「二人とも、皆も・・・すまない・・・。けど俺が、絶対に、絶対に見つけるから・・・!!」
「っ・・・!!絶対、だからなっ!約束だぞ功先生!!」
若菜たちに声をかけたのは風祭。
他の教師とは違い、真剣に、まっすぐに生徒を見ている。
その表情から、今回の件で、かなり心を痛めているように見えた。
若菜たちにもそれは伝わったようで、それ以上教師を攻めるようなことはしなかった。
この風祭と言う教師は、それほどに信頼されているんだろう。
その日、二人の遺伝子強化兵がいなくなった寮の食堂で、
生徒のざわめきや泣き声が、いつまでもそこに響いていた。
と郭がいなくなった原因は、侵入者によって連れ去られたか、
またはタイミング良く二人で逃げ出したかという2つに絞られて調査されることになった。
・・・逃げ出すってそんなことがありえるわけがない。
あんなにもこの町で強く生きたいと願ったが、逃げ出すはずなんてないだろ?
「どこ行くのさ。三上。」
「・・・お前には関係ない。」
「学校は?授業は?」
「許可は取ってきた。監視役の特権でな。あんな意味のないもの、受ける必要ないし。」
「・・・ふーん。」
私服を着て、軽く荷物を揃えて、門から出ようとする俺に後ろから声がかかった。
なぜか自分も私服姿になっている椎名だった。
「を探しに行くんだよね?」
「・・・心配しなくても、闇雲に探し回ったりはしねーよ。情報収集から始める。」
「情報収集って・・・その眉間に皺の寄った顔で、情報が聞きだせるとでも?」
「うるせーな!もともとこういう顔だっつの!!」
「仕方ないから、僕も行くよ。」
「・・・は?いらないしお前の助けなんて。」
「お前一人でなんとかなると思ってるの?それとも政府が協力してくれるとでも?
この学校に来てる不甲斐ない奴らが使えるとでも?本気で思ってるの?」
「・・・。」
「僕だってが心配なんだ。それに・・・お前への借りも、一刻も早く返したいんだよね。
お前に借りなんて残しといたら、一体どんなことさせられるか。」
「・・・ちっ!勝手にしろ!!」
。
俺はお前に会えたことで、お前が側で笑っていてくれることで、安心してた。
もうお前と離れることなんてないと、そう思っていたんだ。
それは俺の油断。俺の甘え。
だから俺は、絶対お前を見つけ出す。
お前が武蔵野市から消えたときもそうしたように、必ず、お前に会いにいく。
だから。待ってろ。
すぐにお前を、助けに行くから。
すぐにお前に、会いに行くから。
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