試合が終わって、わかりあえたライバル達。
そのあまりにも短い時間で、別れはやってくる。
最後の夏に見上げた空は
「何だよ〜もう行っちゃうのかー?!」
「我侭言うな誠二。これ以上いたら、明駱高校に迷惑がかかるんだから。」
「・・・わかってるっすけどー・・・。」
試合が終了して、彼らはわかりあったように、しばらくサッカーの話を続けていた。
桜町にいるだけではわからないサッカー。外のサッカー。世界のサッカー。
皆、楽しそうに話を聞いていた。
けれどそれは限られた時間で。彼らがこの町にいられる時間はもう残っていなかった。
「シゲさん・・・。」
「なんやカザ。いっぱしの男がそないしょげた顔するなや。」
「・・・はい!シゲさんたちとのサッカー、すごく楽しかったです!!」
「俺もや。さすが椎名の認めただけのことはあるわ。」
「マジで?マジで俺ら強かった?!」
「当たり前やろ。こない苦しめられたんは久し振りや。」
「・・・くっそー!本当は勝ちたかったのに!!」
「それは俺らも同じや。勝つ気満々で来たのに、引き分けなんて悔しいっちゅーねん。」
そう。最後に放った将くんのシュートは見事ゴールに入り、
試合は2−2の同点で終了となった。
「・・・次こそ勝ちます!」
「・・・!!」
将くんの言った一言に、一瞬、皆の表情が固まる。
『次』はあるのだろうか。もし、来るのなら・・・そのときこそ・・・。
「それはこっちのセリフやで!サッカーもっとうまくなって戻ってくるわ!!」
シゲさんが笑顔で答える。
彼だって、私たちの事情を知っている。それでも笑って。
来ないかもしれない再戦を誓う。
「ほな、またな!」
「はい!」
「ノリックも元気でな〜!!」
「おー!!君たちもな!!」
1試合しただけの、あまりにも短い時間ライバルだった彼らが去っていく。
それでも、彼らが与えてくれたものはとても大きかった。
「あーあ!行っちゃった!」
「楽しかったね。」
「・・・そうだな。」
「・・・また、やれるといいね。」
「きっと、いつか・・・やれるよ!!」
『いつか』
もしも、生まれ変わりというものが存在するのならば、きっと、いつか。
命が、人生が、巡り巡って、いつかまた会える。そんな希望を願いをこめて。
「よっし将!サッカーしようぜ!!」
「うん!!」
「待ちなさいよアンタたち!二人でやろーってんじゃないでしょうね?!」
「そうだね。俺らも混ぜてよ誠二。」
「よっしゃ!やろうぜ!!皆で!!」
「ありがとう。藤村。」
「何がや?姫さん。」
「お前が試合をOKしてくれてなかったら、僕はもう諦めてたかもしれない。」
「・・・礼を言われる筋合いなんてないで?俺はおもろいサッカーがしたかっただけや。」
「・・・そう。強かっただろ?」
「ああ。強かった。是非ともまた、試合がしたいわ。」
「・・・。」
「椎名。お前、あいつらの前でもそないな顔してるんやないやろな?」
「・・・何が?」
「あいつらの運命は知っとる。けどな、それでもあいつらは、笑っとるやないか。」
「・・・。」
「なら、お前も笑っててやれ。最後まで。」
「・・・藤村。」
「なんて、俺も側にいるわけでもないから、強いことは言えんけどな。」
「いや、お前の言う通りだ藤村。」
「・・・正門までやったな。ほな椎名。」
「ああ。また、会おう。」
「たくっ・・・!何で俺が片づけまで手伝わされるんだよ!」
「いいだろ?どうせ暇なんだから。」
「暇じゃねーっての!どこまで俺をこき使うんだよ!」
「全く。男のクセにぶつぶつうるさいよ?こっちの後輩たちはサッカー部じゃないのに
手伝ってくれてるのにさ。ねえ?」
「まあ今日はいいかなって!藤代たちにいいもん見せてもらったし!な!」
「・・・ああ。面白かった。」
「ははは。若菜に真田だったか?君たちもサッカー部に入るなら歓迎するぞ?」
「マジ?俺も考えてみよーかなー?」
サッカー部の皆がグラウンドにトンボをかけている間に、残りの作業を進める。
試合を見ていた結人や一馬もそれに加わっていた。
「。どう思う?俺もサッカーやったら、イケてるって思う?」
「うん。いいと思うけど。」
「・・・・。」
「やっぱ??あーでも英士にも聞いてみよ!」
「英士。大丈夫かな??」
「一応、後で顔出してみる。寝てるかもしれねーけど・・・。起きてたらが心配してたことも伝えとく。」
「そっか。」
「・・・・。」
「。悪いんだけど、そこに落ちてるボール拾ってくれる?
今、両手がふさがってて持てないんだ。」
「あ、はーい。じゃあこれも私が持っていきますね。」
「・・・・。」
両手いっぱいに荷物を持ち、並んで歩く。
ふと、三上先輩が遅れて後ろからついてくることに気づいた。
話を続ける先輩たちからさりげなく外れ、三上先輩の隣に行く。
「先輩?荷物重いですか?大丈夫ですか?」
「重くねーよ。こんなん。」
「何か、機嫌悪くないですか?それとも具合悪いですか?」
「・・・別に。こんだけ使われて、後でどうやって借りを返してもらおうか考えてただけ。」
「そっか。先輩も具合悪くなっちゃったのかと思っちゃいました。」
「『えいし』ってクラスメートが具合悪いわけ?」
「あ、聞こえてましたか?そうなんですよね。今日、試合見にきてくれるはずだったんですけど・・・。」
「・・・。」
あ、また不機嫌な顔した。
今日はおめでたい日だったって言うのに、先輩は不機嫌な顔の方が多いような・・・。
今日の先輩は、試合の準備して、線審をして、最後の片付けをして。・・・確かに雑用ばかりかも。
でも先輩は意外と面倒見がいいから、それくらいでこんなに怒ることないと思うんだけどな。
・・・雑用ばかり。雑用だけ・・・。あれ?もしかして。
「先輩の不機嫌な理由、わかりました!」
「・・・ああ?」
「先輩・・・先輩も・・・」
「・・・。」
「サッカーしたかったんですね?!」
「・・・はあ?!」
先輩もサッカー経験者だって言うし、見てるだけなんてつまらなかったんだろうな。
けど、先輩の性格からして素直に言い出せなかったとか!それならそうと言ってくれればいいのに!
「先輩もサッカー経験者ですもんね!見てるだけなんてつまらなかったとか!」
「バカか!違う!!俺はどいつもこいつもお前のこと、呼び捨てにし・・・っ!!」
「・・・呼び捨て?」
考え出した結果と全然違う答えに、一瞬とまどう。
そして「しまった!」って顔した三上先輩の顔がみるみる赤くなっていくのがわかった。
・・・あれ?前にもこんなことがあって、やきもちかなって思ったけど違って。
だって、三上先輩が「まーいいけど。」なんて言葉で終わらせるから、やきもちじゃなかったんだってがっかりして。
けど、本当は違った?
「・・・ふふふ。」
「・・・気持ち悪い。」
「ちょっと三上!まで巻き込んでトロトロ歩かないでよ!今、倉庫の鍵持ってるのお前だろ?」
先輩と話している間に、さらに遠い距離へと進んでいた翼さんが私たちを呼ぶ。
不機嫌な顔をした先輩に代わって、翼さんに返事を返す。
「行きましょう?・・・亮先輩!!」
先輩が視線はこちらに向けないままに、一瞬、驚いた表情をする。
「仕方ねーな。とっとと終わらせるぞ。。」
「はい!」
何でもないように、先輩の名前を呼んだ。
けれど、本当は気恥ずかしくて、それでも嬉しくてドキドキしていた。
桜塚高校の皆を名前で呼んだり、呼ばれたりするのとは少し違う気持ち。
先輩に呼ばれる自分の名前が、特別なもののように感じられた。
「よし!じゃあ後はゴールを元の位置に戻して完了だね。」
「うわー。最後に一番重いものが残ってるっすね!」
「残したんだよ。こればっかりは全員で運ばないと、無理だからね。」
片付けの最後に、試合の為に移動してあった大きなゴールを皆で運ぶ。
ほとんどの片づけを終えた皆が、ゴールのまわりに集まる。
「あれ?俺たちも手伝った方がいいっすか?」
「いや。大丈夫。朝、運んだメンバーで運べるよ。サッカー部と・・・三上!」
「はあ?!また俺かよ!」
「すまないが頼むよ。三上。」
亮先輩がぶつぶつ言いながらも、配置につく。
そして、皆が配置につき、重たいゴールを一気に持ち上げる。
「・・・もう、片付けも終わりだよな?」
「ん?そうだよ一馬。どうかした?」
「俺、英士見てくるよ。このままだと夜になって、寝てそうだし・・・。」
「一馬。今日は異様に英士の心配してたな。何か、あんのか?」
「・・・いや、そういうわけじゃねーんだけど・・・。」
「・・・仕方ねー。俺も一緒に行ってくるわ!サッカー部によろしく言っといて!」
「うん。わかった。今日はありがとね!」
「いやいや!またこんなおもしろいことがあったら、呼んでくれな〜!」
二人に手を振って、その後姿を見送る。
具合の悪い友達を心配するのは当然のことだけど・・・確かに一馬は英士のことをずっと気にしてたように思える。
そんなに具合が悪そうだったのかな・・・?男子寮には行けないから、明日学校で聞いてみよう。
「先輩・・・?どうかしましたか?」
「みゆきちゃん。ううん。何でもないよ。
そうだ。片付けも終わりと言えば・・・。西園寺先生呼んでくるね。最後の挨拶してもらわなきゃだもんね。」
「あ、それなら私が・・・。」
「いいのいいの!みゆきちゃんも今日一日、ずっと仕事してたんだからね!そこで休んでて!」
そう言って私は、西園寺先生のいるだろう職員室へと向かった。
コンコン
「えーいしー?入るぞ〜?」
「真っ暗だな・・・。寝てるのか?」
「ほら。ずっと寝てたんじゃねーの?英士。」
「そうか・・・。だったら・・・。」
「いや・・・ちょっと待て?」
「何だよ結人。」
「布団・・・ふくらんでなくないか?」
「!!」
「布団が冷たい・・・!!」
「英士・・・?!」
職員室に向かう途中で、見慣れた人影に気づく。
いつもの制服ではなく、動きやすそうな私服を着ているけどあれは・・・。
「英士!どうしたのこんなところで!」
「・・・。」
「今日、具合悪いって聞いてたから、心配したよ?
今、一馬たちが英士の部屋に向かって・・・?!」
英士が素早く動き、ハンカチのようなもので私の口を塞ぐ。
英士の突然の行動に驚き、英士を振り返る。
「・・・ごめんね。。」
英士の言葉と、悲しそうに微笑む顔を最後に、私は意識を失った。
『遺伝子強化兵』
そのあまりにも哀しい運命を、私は本当にわかっていただろうか。
どんなに笑っていても、穏やかでいるように見えても、
拭いされない心の闇があること
私は、わかったつもりになっていただけなのかもしれない。
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