きっと、何度も思い描いて、望んでいた
彼らの試合が、今始まる。
最後の夏に見上げた空は
「うおーい!!〜!!」
「結人!一馬も!来てくれたんだ!」
「当っ然!藤代たちの勇姿をばっちし見てやるよっ!な!一馬!」
「あ・・・ああ。そうだな。」
「・・・ってあれ?英士は?」
「あー。あいつ調子悪いっぽい。今日は来れないってさ。」
「え・・・。それは大丈夫なのかな。」
「あー多分大丈夫。あいつもたいしたことないって言ってたし。
ていうかさ。残っててやろーかって言ったら、『男についてられても気持ち悪い』だって!ひどくねー?!」
「あははっ。英士なら言いそう・・・。」
「『俺のことは気にしないで楽しんできて』とも言ってたしな。」
「・・・それも、英士なら言いそうだね。」
「で・・・試合は・・・」
「ん?」
結人の言葉が止まって、ある方向を向いて固まっている。
私はその視線の先を見た。そこには・・・三上先輩?
「・・・先輩?」
「何?」
「何でそんな怖い顔してるんですか・・・?」
「あ?怖くねーよ!普通だっつの!!」
そういうと、三上先輩は結人と一馬を見て、さらに目つきを悪くする。
初対面なのに、そんなに威嚇しなくても・・・。だから誤解受けちゃうんだよ先輩。
「おーい三上!何してるんだー?早く来てくれー!」
遠くから渋沢先輩の声が聞こえた。
そうだよね。三上先輩は審判の集まりでここから離れたはずだった。
いつの間に後ろにいたんだろう・・・。
「チッ。わかってる!今行く!!」
「三上先輩?」
「・・・!お前フラフラしてんじゃねーぞ?俺の目の届く所にいろよ?!」
「へっ?フラフラって・・・。」
「返事!」
「わ!はい!!」
なんだか三上先輩、かなり機嫌悪い?
言いたいことだけ言って、すぐこの場を去っていってしまった。
「・・・。今のって、例の?」
「え。うん。先輩。」
「・・・へー。つーか独占欲つえーよなー。まあ気持ちはわかるけど。」
「え?何が?」
「いーや別に。こっちの話!なっ!一馬!」
「・・・。」
「一馬?どうしたんだよさっきからさ!元気ねーぞ??」
「え、そんなこと・・ねーけど・・。」
「一馬?もしかして具合悪いの?大丈夫?」
「い、いや、だいじょうぶ・・・。てか、顔近い!」
一馬が顔を真っ赤にして、私の顔を遠ざける。
むー。思わず近づけちゃっただけなのに、そこまで拒絶しなくてもなー。
「何だよ一馬。に顔近づけてもらってうれしーくせに!!」
「いやっ・・・ちがっ・・・!!そうじゃなくて、英士がっ・・・。」
「英士?ああ、やっぱり心配なのか?」
「・・・誰か、ついてた方がいいんじゃねーかって・・・。」
「ええ?英士が風邪ひいてたりしても、誰もついたりしなかったじゃん。
今回だって、俺らがついてても逆に落ちつかないんじゃねー?」
「まあ、そうなんだけど・・・。」
「俺らが英士の分まで見て、後で伝えてやろーぜ?
それともかじゅまは英士がいないと寂しくて、何もできない?」
「ち、違う!!ていうか、かじゅまって言うな!!」
「じゃあ元気出せよ?な?」
「わかった。・・・確かに気にしすぎてたかも。英士なら大丈夫だよな?」
「そうそう!よっし!じゃあ試合見よーぜ!」
そんなやり取りをしている間に、試合開始の時間がやってきた。
選手たちがグラウンドに集まる。
選手以外の観客は少なくて。
桜塚高校の一部の生徒に、それ以上に少ない先生。政府から派遣されたらしい監視員。
そして、グラウンドをはさんだ向こう側には、と鳴海くんが並んでいた。
にジェスチャーで『こっちに来れば?』って聞いてみたけど、
顔の前で手を合わせて、謝る仕草を見せた。
横にいる鳴海くんが、そっぽを向いてる。ああ、鳴海くんがこっちに来たくないんだ。
私が嫌われているのか、彼が不器用すぎるのか・・・。に『了解』と返した。
藤代くんも有希も、水野くんも将くんも、サッカー部の皆が緊張した面持ちでそれぞれのポジションに着く。
対するシゲさんやノリックさんは不適に笑っている。彼らの試合が今、始まる。
そして、試合開始のホイッスルが鳴った。
「柾輝!9番!抑えて!!」
「わかってる・・・!!」
「竹己!カバー!!」
「はい!!」
試合開始早々、翼さんの声がフィールドに響く。
攻撃的な明駱高校のサッカーに、試合慣れしていない皆は翻弄されているようだ。
「もらった・・・!!」
「・・・!!」
ノリックさんからパスを受けたシゲさんが、ボレーシュートを放つ。
しかし、そのシュートを渋沢キャプテンが受け止めた。
「皆!落ち着け!練習どおりにやればいい!」
「わかってます!すいませんキャプテン!!」
そう。きっと皆わかってるんだ。けど、体が動かない。
初めてする試合で、緊張しないわけがないんだから。
ゴールキックから試合が再開し、今度はこっちのボールになる。
上原くんから有希へ、有希から水野くんへとボールがまわされる。
すでに前線に走り出していた、藤代くん、将くん、天城くんが三方向へ分かれ、パスを待つ。
すかさず、出来たスペースに将くんが走りこみ、水野くんがパスを出した。
「あ・・・!!」
「将っ・・・!」
水野くんのパスは通ったが、将くんがそれを取りこぼしてしまった。
同時に、明駱高校のDFがそのボールを奪い、カウンターを受ける。
「ごめん!水野くん!!」
「気にするな将!!ボール取り返すぞ!!」
「うん・・・!!」
ボールは敵の8番へと渡り、逆に攻め込まれ、またしてもシゲさんにシュートを放たれる。
今度はパンチングで渋沢さんが、攻撃をしのいだ。
「あーもう!見てられねーんだけど!!あいつら緊張しすぎじゃねーの?」
「・・・仕方ないよ。自分たち以外の誰かと試合なんて・・・したことなかったんだから!!」
「どうにかして緊張とけねーのかな・・・?」
「・・・こればっかりはね。何か、きっかけでもあればいいんだけど・・・。」
「おーい!姫さん??」
シゲさんが、遠くから翼さんに声をかける。
そのため、その声は皆に聞こえるくらいの声だった。
「何さ藤村!!」
「本当にこのメンバー、椎名の認めた奴らかいな?手ごたえなさすぎるで?!」
「っ・・・!!」
「動きもガチガチやし、まともに動けてるのは椎名と、そこのGKくらいのもんや!!」
「何だとっ・・・!!」
皆がシゲさんを睨みつける。
シゲさんはそんな視線、気にした風もなく言葉を続ける。
「悔しいんやったら、あんさんらの本気のサッカー見せや!
こっちはハナっから本気なんやから!!」
ピピーッ!!
「君!ちょっと言動が過ぎるよ!」
「おっと。えらいすんません!」
言葉を言い終えたシゲさんが、主審に注意を受ける。
審判に謝るシゲさんを皆が見つめていた。
「・・・くそー!!俺らなめられてるぞ!?」
「絶対勝つ!!」
「そうよ!私たちが負けるわけないんだから!!」
皆の表情が、緊張の表情から、挑戦的な表情に変わる。
それを見たシゲさんもまた、不適に笑った。
「お前ら!攻めて攻めて攻めまくれ!!後ろは俺たちが守る!」
それからの彼らは、いつもの練習のとおりにサッカーをプレーする。
翼さんが強いと言っていた、明駱高校と互角以上の戦いを繰り広げた。
「行っけーーーー!!」
サイドから桜庭くんのセンタリングがあがる。
そしてその場所へ、藤代くんが飛び込んで・・・
ザンッ
そのボールはゴールの中へ。
「ぃやったーーーー!!」
「藤代くん!!」
「藤代!!」
「誠二!!」
皆が藤代くんに飛びつく。
この試合の初ゴールを決めたのは藤代くんだった。
「・・・ふーん。やるな〜。」
「藤村が火つけるからやで?」
「まあそうでないと、おもろくないからな。」
「まあな!!」
けれど、これで終わるはずもなく。
次は明駱高校の怒涛の反撃だった。
明駱高校からのキックオフ。
素早いパスまわしに翻弄され、最後にロングパスがノリックさんへ渡る。
しかし、桜塚高校のDFがノリックさんを囲む。
そんな中、ノリックさんは微笑み、誰もいない場所へバックパスをする。
「何だ?パスミス・・・?」
その場所へ上原くんがボールを取りにいった瞬間、きれいな金髪がそのボールを取り
そのまま振り返り、シュートを放つ。
ノリックさんとDFの影から飛び出たボールに、渋沢さんの反応が一瞬遅れ、ボールはゴールの中へと入る。
「ナイスシュート!」
「ああ!けどまだまだやな。次は逆転せな。」
「当然や!」
そして、そのまま勢いは止まらずに、明駱高校は続けざまに点をあげる。
シゲさんの言葉のとおりに、明駱高校が逆転した。
「・・・すごい・・・。」
「将?」
「すごいね!あの人・・・!僕が見たこともないサッカーをする。それに、すごくうまい!!」
「バカ!敵を褒めてどうすんだよ!俺らはそいつに勝たなきゃなんねーんだからな!!」
「うん!だからこそ・・・勝ちたい!!」
ボールを持ったシゲさんに、将くんが向かっていく。
向かってはかわされ、吹き飛ばされ、それでも向かっていく。何度も。何度も。
「将って・・・あんなに根性ある奴だったんだな。」
「にぶくて、とろい奴だと思ってたけどなー・・・。」
「そうだよ。将くんってすごい根性あるんだから・・・!!」
試合に夢中になっていた一馬と結人が、将くんを見て感心したように言う。
そうなんだ。将くんは彼のサッカーで、言葉はなくとも私を勇気付けてくれていたから。
そして、体格の違うシゲさんに、将くんがまた吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた将くんに、シゲさんが手を差し伸べる。
「いたた・・・。」
「どうやチビッコ?俺、強いやろ?」
「はい!強いです!すごく!!」
「・・・。」
「あなたみたいな人と戦えるなんて、嬉しいです!」
「・・・お前、素直すぎてこっちが恥ずかしいわ。まあ悪い気はせえへんけど。」
「あなたは強い・・・でも・・・」
「負けません!!」
「っ・・・ははは!」
「・・・?」
「お前、おもろいやっちゃなあ!!ええで!とことん勝負したる!!」
「はい!」
「その前にお前の名前を教えてくれへん?ちなみに俺は藤村 成樹や。」
「風祭 将。」
「じゃあカザやな。俺も負けへん。お前にも、桜塚高校にも!」
皆、必死でボールを追いかける。
ボールを持って、パスを出し、シュートを放つ。
それでも点差は縮まらない。
「将・・・!!」
シゲさんと競り合っていた将くんが、競り負け、転倒する。
ボールを持ったシゲさんが、パスを出そうと周りを見渡した瞬間・・・!
「藤村・・・!!下や!!」
「!!」
素早く起き上がった将くんが、シゲさんへスライディングし、ボールを奪い取る。
そしてそのまま、すかさず天城くんへパスをまわし、自分はゴールへと走る。
シゲさんがボールを奪われると思ってなかった明駱高校の守備のスキをぬって
スペースへ飛び込んだ将くんに、次は水野くんからのパスが渡る。
試合終了間際、将くんのシュートが明駱高校のゴールへと放たれる。
そして、それと同時に、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
TOP NEXT
|