思う人間は違っていても








思う気持ちは一緒だから。











最後の夏に見上げた空は















「・・・三上、お前に頼みがある。」





突然の一言に、三上とがポカンとした顔で僕を見てる。
まあ、さっきまであんな言い合いしてた相手に頼みがあるなんて言われたら
そんな顔もするよね。





「・・・何だよ?」





また僕に憎まれ口でも叩くのかと思ったけど、こいつもそこまでバカじゃないらしい。
怪訝な顔をして、一言聞き返してきた。





「・・・。ごめん。ちょっとはずしてくれるかな。
コイツに頼みごとするところなんて、見られたくないんだよね。」

「え、あ、はい・・・。」

「・・・・。」





が気を使うように、僕たちから離れていく。
その表情はとても心配そう。・・・は優しいからね。





まで追っ払って、一体何なんだよ?」

「・・・アンタ、政府の人間なんだよね?」

「あ?俺は知らねーよ。
・・・まあ、関係者が政府にはいるけどな。」





正直、この男とはかなり相性が合わない。
できることなら、避けて通りたい人間だと思うけど
今はそんなことよりも、あいつらの為にできること。それが最優先だから。





「それでもいい。政府の人間・・・特に遺伝子強化兵計画に関わった奴と
話がしたいんだけど。」

「・・・何で俺に言ってんだよ。他をあたれ。」

「・・・俺だってお前になんか頼みたくないけど・・・!
政府の命令に従ってこの町に来る奴はいても、政府に口利きできる人間なんていないんだよ!」





声を荒げて言う。コイツに当たったって仕方がないことはわかってる。
それでもこの行き場のない怒りはどうしようもなくて。同じように悪くない玲にも当たってしまったっていうのに。





「・・・政府に会って、何の話があんだよ?」





三上の当然の疑問に、僕は少し迷ってから答えた。





「・・・うちの、桜塚高校のサッカー部との試合を受けてくれた高校がある。」

「ああ。それで?」

「もちろん、僕らはここから動けないから、あっちに来てもらう。
相手の学校の許可もおりた。うちの学校の許可もおりた。後は・・・。」

「・・・政府の許可。この町に入る許可か・・・。」

「去年からずっと進めてた話なんだ。相手の高校から来るのも
試合に同意した少ない人数だけど・・・それでも、試合ができる。
自分たちの中だけじゃなくて、相手のいる勝負ができるんだ。」





今までずっと、あいつらが望んでいた試合をさせてやりたかった。
いろんな高校に交渉して、やっと見つけた高校。
遺伝子強化兵に偏見なく、試合を受けてくれるといった高校。

相手の高校の監督もキャプテンも、懸命に高校を説得してくれた。
桜塚高校でも、玲と渋沢と僕で、何とか理事長を説得した。
後は政府だけなんだ。この町に入る許可さえおろしてくれれば
あいつらが望んでいた試合ができる。

勝つことの喜びも、負けたときの悔しさも、
試合をしているときの緊張感も楽しさだって、教えてやることができる。

サッカーをしているときのあいつらは、本当に楽しそうで。
だけど、もっと楽しめるはずなんだ。









お前らはもっと、楽しんでいい。楽しんで、笑って、幸せでいてほしいんだ。











「・・・頼む。お前が僕のことを嫌いなのはわかってるけど・・・。
土下座でも何でもする。話をさせてくれるだけでいいんだ。」

「・・・あの政府に話をしたって、何にもならねーと思うぜ?
それに俺の知ってる奴は、どこの誰だかわからない奴に時間を割くような奴じゃない。」

「そんなの、話してみないとわからないだろ?!」

「・・・それに、それは俺の都合も悪くなる。悪いけど、やっぱ他をあたってくれ。」

「三上っ・・・!」





そっけなくそう言うと三上は、みゆきと一緒にマネージャーの仕事をしていたの元へと向かう。
を引っ張りあげて、グラウンドから出て行く。





・・・わかってはいたんだ。僕の一番がサッカー部の奴らであるように
三上の一番はきっと。自分にも、にもメリットにならないようなことはしない。
三上はおそらく、そういう人間。転入してきて間もない奴だけど、それくらいはわかる。
認めるのは癪だけど、三上と僕は、少しだけ似ている気がするから。

けれど、それでも、頼まずにはいられなかった。
少しの可能性でも、それが犬猿の中のクラスメイトでも、
それが僕に出来ること。あいつらにしてやれることだったから・・・。





・・・どうして、僕はこんなに無力なんだ。
あと一歩なのに、もう少しだったのに、どうして僕は・・・。





いや、諦めるのは早い。まだ時間はあるから。
僕が諦めたら、誰がやるんだ。誰が、あいつらに楽しさを教えてやれる?





諦めるのは、早い。まだ、きっと手はあるはずだから。



































「三上先輩?翼さんのお話・・・何だったんですか?」



マネージャーの仕事をしていたらしい、を引きずり出して
昇降口の脇にある階段へと腰をおろす。
は不機嫌そうな俺の表情はお構いなしに、椎名との会話について聞いてきた。



「あー・・・別に。断ったし。お前は気にするな。」

「う・・・はい。」



明らかに聞きたそうな返事をされたが、俺は無視して
立ったままでいたを俺の横に座らせる。

しばらく沈黙の時間が流れた。
コイツといると、その時間も気まずくないのが不思議だ。
まあ、気まずくても俺から話題をふったりはしないけど。

その間、俺は頭の中で椎名の言葉を思い返していた。



俺が椎名に言ったことは、本当のことで。
おそらく俺が親父に椎名を紹介したところで、結果は変わらないだろう。
そもそも会ってくれすらしないかもしれない。親父はそういう奴。
自分のメリットにならないことは、極力しない主義だから。



俺を送り出すとき、親父はいくつかの条件をつけた。
桜塚高校の授業をサボらずに受けること。
監視者用の連絡用携帯は常に身に付けておくこと。
この夏が過ぎたら、必ず武蔵野市に帰ること。・・・とかだ。

全ては親父のメリットとなること。
自分の後継ぎとなる息子に、今までサボっていた授業を受けさせ、
いつでも居場所を把握し、自分のもとへ帰ってくることを約束させる。

まあバカ正直に全部守ってるわけではないけど、ある程度、俺の行動が制限されるのには違いない。



これで次に親父に何かを頼んだりしたらどうする?
のために、といるために来た場所なのに、俺の行動はさらに制限されることになるだろう。



椎名には同情はすればこそ、自分の行動を犠牲にしてまで協力してやる義理はない。
俺は椎名と親しくもないし(むしろ仲悪いし)サッカー部に愛着もない。

だったら、あそこで断るのは当然の選択。





当然の選択・・・なのに、どうしてこんなに引っかかるんだ?










「三上先輩。」





突然、に話しかけられ思考が止まる。





「また、行きましょうね。サッカー部!」

「ああ?嫌だね。」

「えー!何でですか?」

「椎名はいるし、バカ犬はうざいし。面倒くさいし。」

「けど先輩、楽しそうに見てたじゃないですか。
藤代くんとも微笑ましかったし。翼さんともきっと仲良く・・・なれますよ!」

「・・・何だ今の間。ああ、椎名とは仲良くなれそうにもない。と。」

「ち、違いますよ!ちょっと二人の喧嘩を思い出しちゃっただけです!」





確かに、椎名は別として、あいつらを見てるのに悪い気はしなかった。
遺伝子強化兵なんてことが嘘であるかのように、バカみたいに笑ってる奴ら。

バカみたいにボールを追っかけたり、ふっとばされたり、勝負を挑んだり。
バカみたいだけど、そんな光景に見入っていたことは事実。





「お前さ。」

「はい?」

「何で俺を、サッカー部に連れていこうとしたんだ?」

「え。あの、まあ最初は友達に連れてきてって言われたんですけど・・・。」

「ふーん・・・。」

「けど、先輩に見てほしかったんです。
私を勇気付けてくれた場所や、そこにいる人たちを。」

「・・・。」





が笑顔で、照れくさそうに話す。
その表情から、その場所がにとって大切な場所だということがわかる。





「お前も、あのバカみたいに笑う奴らに、ずっと笑ってもらってたいって思う?」

「・・・はい。皆のまっすぐに笑うとこを見るのが一番好きです。」

「・・・ふー。仕方ねえな。」

「へ?何ですか?先輩。」





決して、あのサッカー部のためでもないし、ましてや椎名のためなんかでもないけど。
お前が大切にしてる場所なら、俺もそう思ってやってもいい。



















と別れ、寮の自分の部屋で連絡用の携帯電話を手に取る。
慣れた手つきで携帯電話の番号を順番に押していく。
通話ボタンを押し、呼び出し音が鳴る。1回、2回、3回・・・。





「もしもし。」





・・・やっぱり低くて感情の薄く感じる声がした。
一体どうしたら、自分の行動は制限させずに、この親父を説得できるだろうか。





「親父。頼みがある。」





心の中では、いかに親父を説得しようかばかり考えていたけど
表面上では、こっちの思惑などわからないように、きわめて冷静に言葉を発した。











サッカー部のためでもないし、椎名のためなんかでもないけど。
お前が大切にしてる場所なら、俺も大切だから。







お前が椎名の話を聞いたのなら、きっとそれを望むだろ?







だったら、椎名があいつらの望みを叶えたいと思うように







俺もお前の望みを叶えてやりたいって、そう思うから。




















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