私の大切な人たち。






とても優しい人たち。






始めは喧嘩ばかりでも、きっとわかりあえると思うから。













最後の夏に見上げた空は














「は?サッカー部?」

「はい。行ってみません?」





昼休み。約束どおり屋上に来た私は、とりあえず笑顔で聞いてみた。
・・・唐突すぎたかも。先輩は購買で買っただろうパンをかじりながら、怪訝そうな顔で私を見る。





「つーか、この学校サッカー部なんてあったのか?」

「はい。あるんですよねこれが。私、結構見学させてもらってたんです。」

「お前サッカーなんて興味あったの?」

「いや、サッカーってよりは、彼らを見てる方が楽しくて・・・。」

「ふーん。そんなにおもしろい動きでもしてんの?あー。下手なわけ?」

「違いますよ!皆、すごいうまいですよ!」





三上先輩が必死の私をからかうように笑う。
うう。やっぱり意地悪いよこの人・・・。





「まーいいけどな。」

「本当ですか?じゃあ、今日学校終わったら、昇降口にいてくださいね!」

「へーへー。わかりました。」




意外とあっさりとOKが出た。
・・・うーん。翼さんのことは伏せて話してみたからだろうか。
けど、そんな話しちゃったら、それこそ絶対に来ないだろうし。
翼さんと三上先輩には仲良くなってほしい。
そのためにはとりあえず、顔を合わせてみるっていうのもアリじゃないかな、なんて。言い訳かな。





「・・・お前、なんか企んでねぇ?」

「い、いえいえ!滅相もない!!」

「・・・。」





先輩の視線が痛い・・・。
やっぱり先輩に隠し事とかって無理なんだよね・・・。





「まーいいや。じゃあお前のそれよこせ。」

「それって何・・・って私のメロンパンー!」

「俺、育ち盛りだから腹減るんだよ。ここの購買しけてんだもんな。」

「だからって私のパン取らないでくださいよー!」

「じゃあ、俺行かねーぞ?」

「ううっ・・・!」





また三上先輩の「俺様」が出た・・!
くうっ・・・私のメロンパンがっ・・・。





「じゃあ先輩、約束ですからね!」

「りょーかい。まあお前の初めての「オトモダチ」も見たいしなー。」

「初めてって・・・三上先輩だって友達いなかったくせに・・・。」

「って!!だからお前いつまで勘違いしてんだよ!」

「大丈夫です!三上先輩のいいところはわかってますからね!」

「・・・お前、ずっとそれで引っ張っていく気だろ・・・。」





三上先輩が呆れたようにため息をもらす。
いつも私をからかう三上先輩が、こんな風に慌てるのを見るのって
ちょっと新鮮で楽しい。・・・なんて言ったら怒られそうだから言わないけど。














昼休みも終わり、私は自分の教室へ向かう。
ちょうど、職員室の前を通るとき、聞きなれた声が聞こえた。





「どういうことだよ玲!こっちはもう承諾もらってるのに!」

「翼・・・。これ以上はもう・・・どうしようもないわ。」

「くそっ・・・あと一歩なのに・・・何で・・・」

「翼さん?西園寺先生?」





翼さんと西園寺先生が、真剣な表情で話しあっていた。
そういえば、前に藤代くんが言ってた。
翼さんたちが何か難しいことをしてるみたいって。内容はわからないけど、そのことだろうか。

悔しそうに表情を歪めて、翼さんが職員室の扉を開ける。
勢いよく開けた扉に、私は思わず後ずさる。





「・・・?」

「あ、あの翼さん。何か、あったんですか?」

「いや、何でもないよ。お前らは気にしなくていいこと。」





『お前ら』?
やっぱり私たちのために、何か動いてくれている?





「翼さん。本当に私たちに関係ないことなんですか?」

「・・・・。」

「私に、できることはありますか?」

「・・・。」

「はい?」

「お前は・・・政府の人間に知り合いとかって、いる?」

「・・・政府にですか?えっと、いませんけど・・・。」





確か三上先輩のお父さんは政府の人間って聞いてるけど、
三上先輩は関係ないって言ってたし。





「そっか、そうだよな。悪い、変なこと聞いた。」

「翼さん?」

「ホラ。もう昼休み終わりだよ。俺も教室戻るから、も戻りなよ。」

「え、あの・・・。」





そう言い残して、翼さんは3年の教室へと戻っていった。
私も職員室の奥にある、自分の教室へと向かった。

授業が始まっても、翼さんの悔しそうな表情が頭から離れなくて、全然集中できなかった。























「じゃあ!待ってるからね!」

「うん!了解!多分来てくれる・・・と思う!」

「何その弱気は!もっと根性入れなさい!」

「・・・相変わらず気合入ってるね。二人とも。」

「あ、も一緒に来る?」

「ううん。ゴメン。今日はもうお母さん呼んじゃってるから。帰らなきゃ。
今度また話聞かせてね?」

「そうなの。残念ね。そしたら私がこの目でしっかり見といてあげるわ!」



異様に気合が入って(私も乗ってたけど)テンションの高い有希が、
ガッツポーズをとって、に約束する。



「何、小島。テンションおかしいんじゃないの?
一体何があるの?」



隣の席の英士が、呆れたように有希に尋ねる。



「何よ郭!女の子たちの会話に入ってこないでよね〜!」

「今の男らしいガッツポーズは、女の子らしい会話に入るわけ?」

「う、うるさいわねっ!変なとこ見てんじゃないわよ!行こう。。」

「あはは。じゃあね英士。」

「よくわからないけど、小島の相手は大変だね。」

「か〜く〜?!アンタは一言多いっての!」





有希が英士を睨みつつ、私たちを連れて教室を出て行く。
私たちを見送る英士は余裕の笑みを見せていたけど・・・。何だか・・・。





「ねえ有希。」

「え?何?」

「最近の英士って、何か、違和感っていうか・・・感じない?」

「違和感っていうか、アイツはいつも変よ!」

「いや、そういうことじゃなくて・・・なんかこう・・・うまく言えないんだけど・・・。」

「・・・?なんか気になるの?」

「うーん。いつも通りなんだけど、いつも通りじゃないみたいな・・・。」

「ワケわかんないわね。私にはいつもどおりの嫌味ったらしい男にしか見えないけど。
もなんか変に思ってる?」

「え?私もおかしいとは感じなかったけどな・・・。
って言っても、私は郭くんとはあまり喋らないから・・・。」

「そっか・・・。じゃあ気のせいだよね・・・。うん。そうだよね。」

「いいわよ郭のことなんて。それよりちゃんと『三上先輩』連れてきなさいよ?
今更恥ずかしいとか無しだからね〜!」

「わ、わかってるよー!」





























「おい、。」





三上先輩が眉間に皺をよせて、私に声をかける。
口は笑ってるけど、目が笑ってないんですけど・・・。



3年生は私たちよりも少しだけ、HRが終わるのが遅い。
少しだけ遅れてきた三上先輩と昇降口で会って、そのままサッカー部にきたわけなんだけど・・・。





・・・?どういうこと?」

「・・・おい。何お前、いっちょまえにのこと呼び捨てにしてんだ?」

「それこそ信頼の差じゃないの?同じ学校にいても名字呼びのアンタとは違うんだよね。」

「ああ?何だとこの男女!」

「あーやだやだ。僕が男だってこの前言ってあげたよね?言わなくても普通はわかるけどね!
まだわかってないの?アンタやっぱり見た目どおり、頭空っぽなわけ?
それでも少しは学習しなよね。学習するくらい、猿でもできるよ?」





・・・いきなり鉢合わせました。





ああ、どうしよう。有希、なんとかなるどころじゃないんだけど・・・。

気合の入っていた有希は、少し離れたグラウンドでサッカーに夢中になっている。
くっ・・・有希め・・・。って私も乗り気だったから文句言えないんだけど。





「まあ落ち着け。二人とも。」



渋沢キャプテン・・・!ああそうだ。キャプテンがいた!



「だって渋沢!何でこんな奴がここにいるのさ!」

「う・・・私が誘いました。」

。前の学校で一緒だったからって、無理して一緒にいる必要はないんだよ?!」

「ああ?何言ってんだよてめえは!」

「みっ、三上先輩・・・!」

「ははは。まさに犬猿の仲だな。」





笑い事じゃありませんキャプテン・・・。
こう見ると、いつも穏やかな渋沢キャプテンは大物に見えるなあ・・・。





?お前の企みはこういうことだったワケか。」

「企みって、違いますよ!私はただ単純に、皆を、見てもらいたいなって・・・思って・・・。」





説明する私は声がどんどん小さくなっていく。
ああ、こんなはずじゃなかったんだけどなあ・・・。二人には嫌な思いさせちゃったかも。
特に翼さんなんて、何か別のことに悩んでたみたいなのに・・・。






「・・・・。」

「・・・・。」

「ほら、二人とも。可愛い後輩が悲しそうな顔してるぞ。
いつまでも睨みあってないで、少しは大人になったらどうだ。」

「・・・チッ。お前は落ち着きすぎだ渋沢。」

「うちの部のキャプテンにケチつけないでよね。部外者。」

「ははは。三上、じゃあ今日は見学ってことでいいな。よし。俺らも行こう椎名。」





すごいなあ渋沢キャプテン。さすが大人の人って感じがする。
って、三上先輩と翼さんも同い年のはずなんだけど。

二人の背中を見送って、隣で無言のままいる、三上先輩を見る。
・・・眉間に皺をよせて、確実に機嫌の悪そうな顔をしている。





「・・・先輩、怒ってますか?」

「・・・別に。お前には怒ってない。あの、椎名にむかついてるだけ。」

「翼さんも悪い人じゃないんですよ?」

「・・・翼さん?」





三上先輩がさらに機嫌の悪そうな顔でこっちを見る。
わー。やっぱり今日連れてきたのは失敗だったかも・・・。





「お前、何で椎名を名前呼びなんてしてんの?今までそんな奴いなかっただろ?」

「え、えっと、いや、流れで・・・。けど、こっち来てからは割とそうやって呼ぶ機会も増えてきてますよ?」

「・・・ふーん。」





これはもしや、まさかと思うけど・・・
・・・やきもち・・・?





「まー別にいいけど。で?どれがお前のクラスメイト?」





・・・違った。「まー別にいいけど。」で済まされちゃったよ。
ちょっと喜んでしまった自分が恥ずかしい。





「えーと、一人だけ女の子がいますよね?それが小島 有希。
後、ちょっと小さめの男の子、あの子が風祭 将くん。風祭 功先生の弟です。
その将くんから今、ボールを奪ったのが藤代 誠二くん。
で、少し離れたところにいる真ん中分けで、少し茶色がかった髪の男の子が水野 竜也くんです。」

「ふーん。」





私は彼らを指で追って、説明する。
三上先輩はまだ不機嫌なのか、あまり興味を示した様子もなく、私の説明を聞く。

・・・あれ?ちょっと違うかな?
興味は、ありそう。ボールを追う彼らをじっと見つめて集中して見ているようにも見える。






「皆、楽しそうですよね。」

「・・・まあ、バカみたいに笑ってはいるな。」

「三上先輩。そんな意地悪い言い方するから、誤解されちゃうんですよ?」

「別に構わねーし。誤解も何もこれが素だしな。」

「むー。意地っ張りですね。」

「何がだよ。」





ちゃーん!!今の俺のシュート・・・って誰?!」





先輩と話している間に、藤代くんがここまでやってきていた。
どうやら皆、休憩時間に入ったみたいだ。





「バカ藤代!初対面に向かって失礼でしょ?」





藤代くんに追いついた有希がやってきた。
言葉とは対照的に、すごくワクワクしてる表情なんだけど・・・。





「初めまして。小島 有希です。とは同じクラスで。
と同じ学校にいたんですよね?」

「え!そうなの?どうも藤代 誠二です!ちゃんにはお世話になってます!」

「・・・あー。」





やっぱり興味なさそうに、二人を見る。
サッカーを見てたときには、かなり集中して見てたのに。
ていうか、挨拶してきた人たちに「・・・あー。」っていうのはないから!三上先輩!





「二人とも、彼は三上 亮。私たちの一つ上で、翼さんたちとは同じクラス。
有希の言ってたとおり、私の前の学校の先輩なの。」

「へー。三上先輩はサッカーはやったことあるんすか?」

「・・・まー。それなりに。」

「え?マジですか?どこで??」

「中学のときはサッカー部だったからな。そこで。」

「え!サッカー部だったんすか?!」





三上先輩が面倒くさそうに淡々と話しているのにも動じず、
藤代くんが次々と質問をしていく。うーん。彼も大物なんじゃないか?





「じゃあ先輩もサッカーしましょうよ!ていうか、俺と勝負してください!!」

「はあ?ふざけんな。何で俺がそんなこと・・・」

「いいじゃないっすかー!俺、うまくなってるか見てくださいよ〜!!」

「そんなもん、椎名にでも渋沢にでも見てもらえばいいだろーが!」

「たまには違う目で見てもらいたいんすよ!お願いします!三上先輩!」

「だから、嫌だっていってんだろーが。他に当たれ。」

「とか言って〜。先輩、俺に負けるのが怖いんじゃないっすか??」

「ああ?!んなわけねーだろ?!」





・・・藤代くん。すごいよ君は・・・!
あの三上先輩がペースに巻き込まれて、翻弄されている・・・!!





「ふーん。あれが例の『三上先輩』か。」

「有希。そんなに楽しそうに見ないでよ・・・。」

「まあ、いいんじゃないの?それなりに格好いいし。
言葉は乱暴だけど、乱暴になりきれてない感じ。逆にからかわれキャラっぽいわね。」

「・・・有希。」

「え?何?違ってた?」

「いいえ。当たってます・・・。」

「でしょ?」





有希が笑いながら、私と三上先輩を見る。
三上先輩は、藤代くんの予想外のお誘いに必死に抵抗している。
ていうか、そこまで必死になるくらいなら、サッカーしてあげればいいのに。





「あら?」

「ん?どうしたの有希。」

「西園寺先生と、翼さんが、また何か言い合いしてるみたいだけど・・・。」

「また?いつもしてるの?」

「うーん。はとこだし、喧嘩くらいするんだろうと思ってたけど・・・。最近は多いかな。」



昼休みの二人の言い合いを思い出した。
何なんだろう。何が、あったんだろうか。



「あ!キャプテンが集合しろって言ってる!行くわよ藤代!」

「おわ!引っ張るなよ小島!
三上先輩!次来たときは、絶対相手してくださいねー!」



二人は嵐のようにきて、嵐のように去っていった。
三上先輩が、横で異様に疲れた顔をしていた。



「・・・。」

「三上先輩?大丈夫ですか?」

「何なんだあのバカ犬は・・・!お前の友達ってあんなんばっかなのか?」

「バカ犬って・・・。藤代くんはサッカー大好きですからね。」

「それにしたって、初対面の人間にあんなまとわりつく奴っておかしくないか?!」

「先輩、気に入られちゃったんじゃないですか?」

「気持ち悪いことを言うな・・・。」





三上先輩が脱力する。よっぽど疲れたんだな。
はたから見たら、すごい微笑ましい光景だったんだけどなあ。





「もう俺は帰るぞ。」

「え!ちょっと待ってくださいよ〜。
じゃあ、キャプテンたちに挨拶して・・・。」

「ちょっと待って。」





帰ろうとした三上先輩を引き止めたのは、意外な人物で。











「・・・三上、お前に頼みがある。」













翼さんの瞳は、表情はとても真剣で





何かとても焦ってるように見えた。





私も、さっきから憎まれ口を叩いていた三上先輩さえも





翼さんの真剣な表情に何も言えずに、次の言葉をただ、待っていた。




















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