遠回りしてやっと貴方に辿り着く。
貴方と一緒に、幸せになりたい。
最後の夏に見上げた空は
「おい。!ちょっと来いよ!」
何事もなく、1日が終わろうとしていた矢先、
後ろから声をかけられる。・・・この声は・・・。
「・・・鳴海くん。」
「おっ!その嫌そうな顔!最高だねぇ。」
「申し訳ないけど、私もう帰るから・・・。」
「いいからちょっと来いよ!クラスメイトと親睦を深めようとかって思わねえの?!」
「鳴海くんとは別にいいや。」
「ああ?!相変わらずムカツクな!いいから来いっての!」
半ば引きづられる形で、校舎の裏庭に連れていかれた。
・・・もしかして、結構やばい?いやいや、鳴海くんは乱暴だけど、根はいい奴・・・のはずだ。
「・・・で、なんでしょうか?鳴海クン。」
「・・・あのよ・・・なんだ・・・その・・・」
鳴海くんにしてはめずらしく、要領を得ない話し方だ。
何か言いづらい話なんだろうか。
「最近、アイツ、おかしくねえか?」
「アイツ??」
「アイツはアイツだよ!あの、オドオドしてる女!」
「・・・もしかして、?」
私や有希以外で考えれば、しかいないよね。
ああ、の話だから、鳴海くんもはっきり物を言わないんだ。
けれど、の変化に気づいてるのはさすがだと思った。
私でさえ、昨日の話がなければ、の変化には気づかなかったと思うから。
「そんなの、本人に聞いたら?」
「うっ・・・るせえな!アイツじゃ俺に怯えて話しになんねえだろ?!」
「いや、幼馴染なんだったら、怯えたりしないと思うけど。」
「やかましい!とにかく何かあったのかって聞いてんだ!!」
・・・つまり本人には恥ずかしくて聞けないんだ。
本当、鳴海くんって不器用な人なんだなあ。
「・・・知らないよ。知ってても、それは私の口から話すことじゃない。」
「ああ?!」
「鳴海くん。そんなに心配してるなら、やっぱり本人に聞くべきだよ。」
「・・・俺が聞いても、アイツは話さねえよ。信用、ねえからな俺は。」
「そんなことない。そうじゃなかったら、わざわざ鳴海くんのことかばって、
私に弁明しに来たりしないよ。」
そう、前に鳴海くんと一悶着あったときに、は私に鳴海くんのことを説明しに来た。
悪い人じゃないって、優しい人だって。
「・・・つーか、大体、予想はついてる。」
「・・・え?」
「担任だろ?」
「・・・!!」
「アイツが俺らの担任を見てんのはわかってた。
けど、最近になってアイツは、は、担任を見なくなった。」
鳴海くんはずっと、わかってたんだ。
誰にも言わなかった、誰も気づかなかったの想いに。
驚いた。けれど、考えれば当然なんだよね。
鳴海くんはを好きで、ずっとを見てきたんだ。
その視線の先に、いつも誰がいるかなんて、わかってて当然だったんだ。
「はっ。お前に聞いて正解だな。反応がわかりやすくていい。」
「・・・っ!!」
「何かあったんだろ?担任との間で。
じゃあ担任に、風祭を問い詰めればわかる。」
「鳴海くっ・・・「待って!!」」
私の声を遮って、別の声が聞こえた。
私も、鳴海くんも目を見開いて、その人物を見る。
「鳴海くん・・・やめて・・・。」
「っ・・・?!」
「功先生とは何もないよ。何もないから・・・苦しかったの。」
「・・・・・・何でここに?」
「ゴメンね。鳴海くんがちゃんを連れていくとこ見て・・・ついてきちゃったの。」
がいつもの穏やかな笑みを浮かべる。
鳴海くんは、を見たまま動けないでいるみたいだ。
「うまく隠してたつもりだったんだけど・・・鳴海くんに、気づかれてるとは思ってなかったなあ。」
「っ・・・気づかねえわけねえだろ?!一体どれだけ一緒にいたと思ってんだよ!!」
「そうだよね・・・ずっと、一緒だったもんね・・・。」
「けど、一つだけわかんなかった。何でお前、最近担任を見なくなったんだよ。」
「・・・・。」
「そのときのお前は!担任を見てたときのお前は!幸せだったはずだろ!?
何もないから苦しいってどういうことだよ!!」
鳴海くんが、叫ぶ。
今までに聞きたくても聞けなかったことを、まとめてぶつけるように叫ぶ。
「・・・気持ちがね。隠せなくなっちゃったから・・・。」
「・・・あ?!何だよそれは??」
「私の気持ちを功先生が知っても、それは重荷でしかないでしょ?」
「・・・。」
「いなくなる私の気持ちを受け取っても、それは残される先生には重荷でしかないでしょう?」
昨日、私に話したことをそのまま話す。
そしてまた、は綺麗で、寂しそうな笑みを浮かべるんだ。
「・・・バッカじゃねーの?」
「・・・え?」
「お前、バカだよ。何が気持ちを隠すだよ!何が重荷になるだよ!!」
「なっ・・・」
「そんなの、自分が傷つきたくないっていう口実じゃねーか!!」
「っ・・・!!」
へと向けた鳴海くんの言葉に、胸がズキリと痛む。
自分が、傷つきたくないから・・・?だから、私は伝えられなかった・・・?
「鳴海くんにはわからないよ!!好きな人に傷ついてなんてもらいたくない!
私がいなくなった後に、私が傷となって残るなんて、そんなことは嫌なの!!」
「じゃあお前は、あの担任が、いつもヘラヘラ笑ってる担任が、お前の気持ちを重荷に思ったり、
傷として残るなんて、そんな風に思う人間だって思ってるんだな?!」
「そんなこと思ってない!けど、功先生は優しいから・・・きっと、ずっと心にわだかまりが残る・・・。」
「それくらい残したっていいじゃねえか!!」
「・・・!!」
「それくらい、残してやれよ。あんなヘラヘラ笑ってる担任にも
好きになってくれた生徒がいたんだって。お前がいたんだって。残してやれよ。」
「鳴海く・・・」
「お前の気持ちは重荷なんかじゃない。ましてや傷になんかならない。
お前が気持ちを隠すことで、苦しんだりしなくていいんだよ。」
鳴海くんの言葉は、だけでなく私の心にも響く。
この気持ちは、重荷なんかじゃない?三上先輩の傷にならない・・・?
「相手の幸せを考えるなんて、そりゃ結構な話だ。理想的で感動もされるかもな。
考えてる方は悲劇のヒロインでも気取ってりゃいい。けど、現実は違うだろ。」
「・・・。」
「現実は、自分だって幸せになりたいと、そう思うだろーが。
相手だけ幸せであればいいなんて、そんなの理想の話だけだ。」
「私、は・・・。」
「・・・いいんだよ。お前が幸せになったって。
遺伝子強化兵が、幸せになっちゃいけないことなんてないんだから。」
「鳴海くん・・・。けど・・・」
「あーもう!うるせーな!!
お前の好きになった奴だろ?!もう少し信じてやれよ!!」
鳴海くんが有無を言わさずに、に叫ぶ。
は涙を流しながら、鳴海くんの言葉の一つ一つを受け取る。
「っ・・・うっ・・・ひっく・・・」
「面倒くせーなお前は・・・昔からよ!!
俺みたいに何も考えないで突き進んじまえばいいんだよ!」
「・・・鳴・・海くんは、考えなさ・・・すぎだよっ・・・」
「ああ!?お前泣きながら貶してんじゃねーよ!!」
「っ・・・あ・・・ありがとっ・・・ありがとう・・・」
「礼なんていらねーよ。俺は俺の考えを言ったまでだ。」
が、笑う。
それは寂しそうな笑みでも、何でもなくて
いつもの綺麗で、穏やかな、私たちを安心させてくれる笑顔だった。
が家に帰るためにその場を去って、私と鳴海くんはその場に取り残される。
鳴海くんは照れくさそうに、その場を去ろうとした。
「鳴海くん・・・。」
「・・・何だよ。また俺をからかうってんだったら殺すぞ。」
「鳴海くん、矛盾してるね。」
そう。鳴海くんはが好きで、なのに気持ちを押し隠してる。
は鳴海くんに「気持ちがわからない」とそう言ったけれど
の気持ちを誰よりもわかっていたのは、鳴海くんだった。
「何の話かわかんねーな。」
「鳴海くんの幸せはどうするの?」
「・・・俺は、そこそこシアワセなんじゃねーの?
好き勝手遊んで、好き勝手生きて、好き勝手して死んでいく。
たまに、アイツが笑ってるのを見れれば、それでいい。」
「・・・鳴海くんって、いい人だよね。」
「はあ?!どっからそういう発想が出てくんだよ!!
頭のネジはずれてんじゃねーのか??」
「私も、行くね。鳴海くんに勇気をもらったし。」
「ああ?よくわかんねーけど、勝手にどこへでも行けっての。
誰も引き止めねーし。」
「うん!ありがと!鳴海くん!!」
私は裏庭から、校舎へ入り、屋上を目指す。
もう、三上先輩はいないのかもしれない。
一度、貴方を拒絶した私を待っていてなんてくれないかもしれない。
それでも思う。貴方はきっと屋上にいてくれるんじゃないかって。
そんな淡い期待を胸に、私は屋上を目指す。夢中で走る。
屋上へ着いて扉を開ける。そこには。
「・・・。」
そこには誰もいなかった。
やっぱり三上先輩はもう、ここへは来ないのだろうか。
あんな拒絶をした私に、もう会いたくなんてないのかもしれない。
けれど、でも、私は・・・。
謝ろう。何度でも謝って、今度こそ気持ちを伝えよう。
私はやっぱり貴方の側にいたい。
貴方が傷つくことを恐れて、自分が傷つくことを恐れて、前に進めなかったけれど
それでも私は、貴方が好きだから。
この気持ちは隠しようもなく、消そうとしても消えない想いだから。
私は三上先輩の教室へ向かおうと、振り返る。するとそこには。
「おお?!」
「きゃあ!!」
そこには誰かが立っていて、勢いよく振り返った私とはちあわせ、ぶつかる。
けれど、ここに来る人間なんて一人しかいなくて。
「み、三上先輩っ・・・」
「お前!!何でこんなとこにいるんだよ!!」
「ええ?!」
「お前はいつまでたっても、ここに来ねーし。お前のクラスにお前を引きずりだしに行ったんだよ!!
そしたらお前のクラス誰もいねーし!どこほっつき歩いてんだお前は。」
三上先輩も私を探してくれていた?
じゃあ今ここにいなかったのって・・・。
「ごっ・・ごめんなさい・・・」
「あ?何だ?やけに今日は素直じゃねーか。」
「三上先輩。もう遅いかもしれないですけど・・・私、貴方に言いたいことがあるんです。」
「・・・・。」
「私・・・」
「三上先輩が、好きです。・・・できるならずっと側に、側に・・・いたいです。」
「・・・バーカ。」
「・・・っ!!」
「遅いんだよお前は!妙なこと考えて悩んでるくらいだったら、
とっとと言えってんだよ。」
三上先輩が私を抱きしめる。
私はそのまま、三上先輩の胸に顔を埋める。
「私、遺伝子強化兵ですよ?」
「知ってる。」
「もうすぐ、いなくなっちゃうんですよ?」
「知ってる。」
「三上先輩に、何もしてあげられないかもしれないんですよ?!」
「。」
名前を呼ばれ、顔を上げた瞬間、
三上先輩の唇が私の唇に軽く触れる。
私は何が起こったかわからずに、呆然と三上先輩を見つめていた。
「ほら。もうすでに一つもらったけど?」
「みっ・・かみ先輩・・・!!」
「側にいろよ。」
「・・三上先輩・・・。」
「側にいろ。」
三上先輩の強い言葉が、強い眼差しが、
私の不安を無くしていく。
「・・・いいんだよ。お前が幸せになったって。
遺伝子強化兵が、幸せになっちゃいけないことなんてないんだから。」
うん。私も幸せになりたい。
できるなら貴方と。三上先輩。貴方と幸せになりたい。
「・・・はい。」
三上先輩が私を強く抱きしめる。
私も三上先輩の胸に顔を埋めて、力いっぱい先輩を抱きしめる。
三上先輩。
私の時間は本当に後少しで
きっと貴方に悲しい思いも、寂しい思いもさせてしまうんだろう。
けれど、それでも貴方は
それも全部受け止めて、私の側にいてくれる。側にいろと、そう言ってくれる。
だから、私に残されたわずかな時間。
私が貴方に出来ることなんて、わずかなものかもしれないけれど
せめてこの時間は、貴方と一緒にいれるこの時間だけは
二人で笑って過ごしていきたい。
そうやって過ごしていきたい。
貴方といることで、私が幸せになれるように。
私といることで、貴方が幸せになれるように。
TOP NEXT
|