不安だし、怖いけど、
それでも、生きていたいって思うんだ。
最後の夏に見上げた空は
「あれー?俺の席にカワイー子が座ってんじゃん!」
授業中、乱暴に開けられたドアから、ガタイのいい長髪の男が入ってくる。
「お前っ・・・鳴海・・・!!」
「なーに先生。何怖がっちゃってんの?生徒が登校してきただけだろーが。」
「せ、席に着きなさい!」
「だーからー。俺の席には、あのカワイコちゃんが座ってるっての!」
ガタイのいい長髪の男は鳴海というらしい。
そういえば、クラスに滅多に来ない人がいるって風祭先生に聞いた気が・・・。
どう見ても私の席を指して、話している。
「鳴海。は転入生。お前が学校に滅多に来ないから
席を代えたんだよ。鳴海の席はそっち。廊下側の一番後ろ。」
「よー郭!相変わらず涼しい顔してんな。」
英士が鳴海くんに説明をする。
鳴海くんはその説明を無視して、郭くんに話しかける。
「いいから席につきなよ。授業が中断するだろ。」
「なーに今更!俺らに授業なんて関係ないだろ?!いい子ぶってんなよ!!それよりさー。」
「お、おい!鳴海!!席につきなさい!処分の対象にするぞ?!」
鳴海くんが先生をにらむ。
先生は肩をビクッとさせて、縮こまる。
「・・・したければしろよ!そんな方法でしか俺を抑えつけられねーの?!
情けなくって涙が出てくるぜ!ここの教師は!!」
「ひっ・・・!」
「おいおい鳴海ー。そんなに脅かすなよなー。」
「よお藤代!お前も相変わらず優等生やってんの?偉いね〜!」
「まあお前に比べたら、誰だって優等生だよ。」
「ははは!言うじゃねーか!・・・でさー。」
もはや先生は鳴海くんに何も言わなくなった。
体を小さくして、彼らのやりとりを見つめる。
「俺の席にいる転入生っての?紹介してくれよ。
俺らに転入生ってまずありえねーだろ?何?監視の子?」
「彼女は 。
政府の手違いで外の世界で育てられたんだってさ。」
藤代くんが答える。
あれ?政府の手違い・・・?
風祭先生が気を使ってくれたのだろうか。・・・まあ誘拐されてたなんて伝えづらいよね。
「へー!政府の奴らもとことんバカだな。
手違いって何だってんだよな〜。俺らの人生バカにしてるとしか思えねえ。なあ、チャン?」
鳴海くんが手を差し出す。
握手?言葉や態度は乱暴だけど、意外と律儀な人なのかな?
「俺は鳴海 貴志。よろしくな!」
「 です。よろしく・・・?!!」
「「「あーーー!!」」」
鳴海くんが、私の腕を引っ張りあげて、頬にキスをした。
私は硬直し、教室には叫び声が響く。
「コラ!鳴海!!ちゃんになんてことすんだよ!!」
「鳴海!に触んな!!」
「を離しなさいよ!ケダモノ!!」
私は呆然と鳴海くんを見上げる。
彼は口の端を上げて、笑っている。
「あれれ?すっげー人気者だなチャン。
つーか、口にしなかっただけ紳士的だと思ってくれよなー?」
「・・・鳴海。やりすぎだよ。を離しな。」
「あれー?郭まで。こんな外から来たアマイ奴の何がいいわけ?
けど、おもしろいから今度は口にしてみよーか?なーチャ・・・ぐぁ!!」
鳴海くんの顎に私の拳がクリーンヒットする。
彼は顎をおさえて体勢を崩す。皆はポカンとした顔で私を見ていた。
・・・だって、何だか無性に嫌だった。
こんなことされるのなんて・・・されるなら、鳴海くんなんかじゃなくて・・・。
私はポケットの中のストラップを握り締める。
「すっげー!かっこいい!!」
「ちゃんマジで?そこで拳が飛ぶとは思わなかったよ!!」
「、よくやったわよ!鳴海にはそれくらいしないと!!」
なんだかよくわからないけど、賞賛の声が飛ぶ。
「くっそ・・・この女・・・この俺になんてことしやがる・・・。」
「お前が悪いよ鳴海。これ以上くってかかるな。」
英士が私を後ろにかばい、鳴海くんをたしなめる。
「くそっ・・・女じゃなかったらぶっ殺してるとこだからな!」
鳴海くんが一度、教室の席を見渡して、教室から出て行く。
私はほっと胸をなでおろす。私以上に、先生が胸をなでおろしてたけど。
有希と英士が小声で私に話し掛ける。
「大丈夫。鳴海はああ見えて、女の子には絶対手をあげないから。」
「そうなんだ・・・。かばってくれてありがと。英士。」
「ううん。災難だったね。」
「、あいつにまた何かされそうになったら、絶対言うのよ?」
「ああ、そっか。手はあげないけど、手は出すよね。」
「何冷静に言ってんのよ郭。」
「実はああいう奴多いからねこの学校。まあ、自分に未来がないのに
学校でじっとしてる奴なんて少数だから。」
「・・・そう、だよね。」
「あのっ・・・ちゃんっ・・・。」
「あれ??」
学校が終わり、寮へ戻ろうとしてたところを引き止められる。
彼女は 。このクラスの数少ない女の子。綺麗な顔をしていて、性格は大人しい。
有希を通じて、一緒に話はしたりしたけど、彼女から声をかけてきたことはなかった。
「どうしたの?」
「あのっ・・・鳴海くんのことなんだけど・・・。」
「え・・?うん。」
「彼、悪い人じゃないんだ。ただ、今はいろいろなことに納得いってなくて・・・。
周りに当たっちゃってるだけで・・・。」
「・・・・。は、鳴海くんと仲がいいんだ?」
「えっ・・・あの、仲がいいと言うか・・・。幼馴染なんだ。」
「へえ・・・。そうなんだ。」
「・・・うん。鳴海くんも昔は優しかったの。皆のリーダーって感じで皆を引っ張って・・・。けど・・・。
自分が遺伝子強化兵って知らされてから、自暴自棄になっちゃったの。」
英士の言っていたことを思い出す。
自分の生が後少しだなんて、戦争の犠牲となって自分が死んでしまうなんて
そんなこと告げられて、冷静でいられる方がおかしい。
このクラスの人が優しすぎたから、私はそんなことにも気づいていなかった。
「うん。わかったよ。もう何とも思ってないから。・・・私も殴っちゃったし。」
「はは。大丈夫だよ。鳴海くんは頑丈だから。」
「そんな感じだよね。見た目からして。私のパンチなんて何ともないことを祈ります。」
「ははは。ありがとう・・・ちゃん。」
「・・・もしかして・・・。」
「・・・何?」
「鳴海くんのこと、好きだったりして?」
「ちっ・・・違うよ!鳴海くんはただの・・・幼馴染で・・・私には別に・・・」
「あ、そうなんだ。別に・・・好きな人がいるの?」
「あの・・・その・・・う、うん。」
は顔を真っ赤にして頷く。
こんな優しくて、いい子に思われる人は幸せだろうな。
鳴海くんも、こんな子が側にいても、全然救われないんだろうか・・・。
と別れ、寮へ向かう。すると、その先の廊下に男の子が立っていた。
「よー。チャン。」
「鳴海くん。ここでずっと待ってたの?」
「そうだな。愛しのチャンに会いたくて。」
「しつこいって言われない?」
「情熱って言ってほしいな。」
「まーあの場では退学でも何でも処分しろって言ってたけど、
実際、退学って困るんだわ。だから、」
「だから先生の目の届かないところで、私を待ち伏せ?」
「その言い方はちょっとやだなー。まあその通りなんだけど。」
「女の子には絶対手を上げないって聞いてるよ。」
「手は上げないけど、手は出すって聞いてねえ?」
「・・・。」
・・・しまった。まさかこんなところで待ち伏せしてるなんて思わなかった。
さっき、に聞いた『悪い人じゃない』っていうのに信憑性が感じられなくなってるんだけど。
そんなことを考えてる間に、鳴海くんが私に近づいてくる。
「・・・が、」
鳴海くんの足が止まる。
「が、心配してたよ。
鳴海くんをかばって、私に弁明しにきた。」
「・・・な・・・あいつ・・・」
「何であんないい子に心配かけるの?は鳴海くんの行動で心を痛めてるよ?」
「・・・関係ねえだろ?!お前には!!」
私は壁に押し付けられる。
鳴海くんの力は強くて、逃れることができない。
「くそっ・・・何なんだよあいつは・・・中途半端に首突っ込んできやがって・・・!!」
「何が?当然でしょう?幼馴染の心配するのがいけないの?」
「むかつくんだよ!!あいつは、俺なんて・・・どうでもいいくせに!!」
鳴海くんが叫ぶ。彼は顔を背けていて、表情が見えない。
けれど、もしかして、鳴海くんは・・・。
「鳴海くん・・・もしかして・・・」
「うるせえ!!お前には関係ない!!」
「何をやっているの!!」
西園寺先生だ。
彼女が走ってこちらに向かってくる。
「・・・ちっ・・・」
「あなたは・・・D組の鳴海くんね?
何をしていたの?返答によっては処分をしなければならないわ。」
西園寺先生は私を見る。
鳴海くんは顔を背けたままだ。
「まーあの場では退学でも何でも処分しろって言ってたけど、
実際、退学って困るんだわ。」
「むかつくんだよ!!あいつは、俺なんて・・・どうでもいいくせに!!」
・・・鳴海くんが退学になりたくないワケ。
に対してだけ崩れる余裕。
鳴海くんは、が好きなんだね。
けれど、には、別に好きな人がいる。
が心配すれば、するほどに苦しい。
がかばってくれれば、くれるほど切ない。
けれど、好きだから、離れたくない。
好きな人は側にいるのに、愛されず
自分の時間も、好きな人の時間も、残り少なくなっていく。
焦って、不安で、周りに当たり散らして。
・・・なんて、不器用な人なんだろう。
「すみません。ちょっとケンカしてしまいました。」
「・・・ケンカ?」
「・・・?!」
「はい。ちょっとしたことで言い合いになって・・・それで鳴海くんが
大きな声を出しちゃっただけなんです。」
「あなたが一方的に、何かをされたわけじゃないの?」
「はい。ただのケンカです。」
「そう・・・アナタがそういうのならいいけれど・・・。じゃあ私は、戻るわよ?」
「はい。ちゃんと話しあってみます。お騒がせしました。」
西園寺先生が後ろを振り返りながら、去っていく。
先生ごめんなさい。先生のおかげで助かったのに、ウソをついてしまいました。
「・・・何かばってんだよ?」
「別に。」
「お前にとっちゃ、俺なんてすぐにでも退学なってほしい存在だろうが!」
「・・・かもね。」
「じゃあ何でかばってんだよ?借りでも作ったつもりか?俺がそんなもん返すとでも思ってんのか?!」
「思わないよ。けど、」
「なんだよ!」
「退学、したくなさそうだったから。」
「!!」
鳴海くんが目を見開く。
一瞬言葉を失って、けれどすぐに言葉を発する。
「何、言ってんだよ。バッカじゃねーのか?
俺が退学にならなくて後悔するぞ。またお前を襲うかもしれねーし。」
「・・・そのときはに言うよ。」
「なっ!!なんでそこでが出てくんだよ!!」
「何でかな?」
「ふざ・・・けんな!!お前!絶対許さねーからな!!」
鳴海くんはきっと気づいてないだろうけど、
彼の顔は真っ赤だった。そんな彼がどんなに凄んでも、怖いなんて感じられなかった。
「・・・くそ!今日はもう気分がのらねー!けど、お前を許したわけじゃねーからな!」
「うん。」
「うん。ってうなずいてんじゃねーよ!むかつく奴だな!!」
鳴海くんは怒りながらもその場を去っていった。
彼も、怖がっているんだ。不安なんだ。
自分の命がなくなることも、大切な人が離れていくことも。
私だって怖い。
私が死んだら、全てがなくなってしまいそうで。
私が生きてきたことも、両親への思いも、三上先輩への想いも。
先を考えると、不安だし、怖い。けどね。だから、だからこそ、
一緒に、頑張っていきたい。生きて、いきたい。
そう、思うんだ。
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