私もなれるかな?







優しい彼らのように。










最後の夏に見上げた空は

















ー!!今日俺たち部屋でゲームすんだけど、来ねー??」

「悪いけどは私が先に誘ってるから。アンタたちはまた今度ね。」





若菜くんが満面の笑みで私をゲームに誘ってきた。
私が返事をする間もなく、有希が断る。





「ちぇー!何だよ小島〜。お前いつも一緒にいるんだから、たまには貸せよー。」

「貸せよってものですか私は。」

「ダメね。アンタたちなんかに渡したら、一体何されるか。」





あれから数日。若菜くんとのわだかまりも解け、私は平和な日々を送っている。





「小島。俺たちを一体何だと思ってるの?」

「そうね・・・。能天気とリンゴと策略家?」

「はあ!何だよそれ!!」

「誰がリンゴだよ!!」

「・・・いい度胸してるね。」





有希が何の遠慮もなく返す。
誰がどれを指しているのか、すぐわかるところがすごい。
さすが、長年付き合ってきてるだけあるなあ。

ふと気づくと、若菜くんが私の腕を見ていることに気づく。





「・・・。大丈夫か?それ・・・」

「ああ、全然大丈夫。この包帯も大げさに巻いてあるだけだから。気にしないで。」





数日前、私は若菜くんに大切なストラップを取られてしまい、焼却炉に手を突っ込んだ。
多少の火傷にはなったけど、もう本当にたいしたことはない。
ストラップも多少こげてしまったけれど、形を変えずに私の手元にある。





「あーもう俺!マジでバカだった!ゴメンな!!」

「だーかーらー。若菜くん気にしすぎだよ。
結局ストラップも無事だったんだし。結果オーライだよ。ね!これで話は終わりにしよ?」

「・・・・・。」





若菜くんが黙る。うーん。彼は優しいからずっと気にしちゃうのかも。
私はもう本当にいいんだけど・・・。





さ。」

「ん?」

「若菜くんって他人行儀!!これから結人って呼んで!!」

「・・・は?」

「ていうか、皆もう名前でいいよ!これからずっと一緒にいるんだしさ!
俺たちだってって呼ぶし!俺はもう呼んでるけどな!!」

「あー。それは言えてるかもしれないわね。〜〜くん、〜〜さんじゃ
確かに他人行儀な気がするわ。」

「まあ俺たちは名字で呼び合ってる方が多いけどね。小島だってほとんどの奴が名字呼びだし。」

「それはもう、俺たちの中で決まっちゃってるからいいんだよ。
けど、は呼び方が固まってないうちに、そうしてもらった方がいいよな!」

「そうね。じゃあは私たちのことは名前呼びにすること決定ってことで!私はもう呼ばれてるけど。」

「小島!お前勝ち誇ってんじゃねーよ!」





私の意見を無視して話が進んでいく。
・・・クラスメイトを名前呼びなんて、今まであっただろうか。
クラスで浮いていた存在の私は、呼ばれ方も呼び方も名字で『くん』とか『さん』付けだったし。





「じゃあ、あらためてよろしく。」

「決まりだな!!」

「・・・。」

「あはは!かじゅまが恥ずかしがって呼べないみたいだぞ!」

「は、恥ずかしくなんかねーよ!!かじゅまって言うな!!」



「・・・よろしくね。有希。結人。英士。一馬。」





皆が私を見る。私は顔が熱くなって、皆の顔を見ることができない。
・・・有希はすんなり呼べたのに、いざかしこまって呼ぶとなると、ちょっと・・・恥ずかしい。





「一馬以上に照れてるね。。」

「いいじゃん!ならかわいーし!!」

「あら?真田もやっぱり照れてるし。リンゴで正解よね。」

「て、照れてないって言ってんだろ!!」





笑い声が教室に響く。私、学校でこんなに笑いあったことなんてなかった。
楽しかった場所は、あの屋上以外なかったのに。
この学校に来た頃は、こうして笑いあえるなんて思ってなかった。













結人たちに別れを告げて、私は有希と校庭へ向かう。
以前、有希が言っていた、サッカー部の見学に招かれたからだ。



「あー!小島ー!!」



聞き覚えのある声が有希を呼ぶ。



「来てそうそううるさいわねー。藤代。」

「だってちゃん連れてくるって言ってたのに、なかなか来ねーんだもん!」

「ちょっと邪魔が入ったのよ。」

「ちょっとお前ら。何騒いでるのさ。」





小柄だけど、綺麗な顔をした男の子(だよね?)がこっちに向かってくる。
私を見て、理解したように頷く。





「有希。この子が ?」

「そうです。とりあえず今日は見学でってことで連れてきました。」

「えー!ちゃんも入っちゃえばいいじゃん!一緒にサッカーやろうぜ!」

「バカ藤代!こういうのは強制するものじゃないでしょ?」





「僕は椎名 翼。この学校の2年で一応、サッカー部の副キャプテン。翼でいいよ。」

「あ、 です。1年で、最近この学校に転入してきたばかりです。」



自己紹介をしながらも、多少驚いた。
彼は2年。私たち1年と違い、遺伝子強化兵ではないんだ。



「有希、誠二。お前らは練習に参加してきなよ。さっき試合のメンバーが足りないってぼやいてたから。
は僕が面倒みとくよ。」

「えー!翼さんちゃん独り占めっすか?」

「お前と一緒にしないでよ誠二。とっとと行って来な。」

「じゃあ、翼さん。をお願いしますね!」





二人は校庭で試合を始めようとしている面々の中に飛び込んでいく。
二人とも、いや、サッカーをしている全員がすごく楽しそうだ。





「翼さんは参加しなくていいんですか?」

「僕はさっきまで参加してたから。ちょっと休憩。」



しばらく、彼らの試合を眺める。
私のクラスメイトがちらほらいるのが見えた。
有希に藤代くんに、将くんに、水野くんだ。



「試合って言っても、人数が足りないから正式な試合はできないけどね。」

「正式って・・・確か1チーム11人必要なんですよね。」

「まあね。一応1チーム分の人数は揃ってるんだけど、試合相手がいない。
桜塚高校と試合をしようなんてところは・・・ないしね。」





翼さんが悔しそうに顔を歪める。
いくらサッカーがうまくなっても、それを発揮できる場所は少ない。
それも桜塚高校で、遺伝子強化兵のせい。理不尽な隔離政策のせい。





「だから今は部活内で試合をしてる。10人以上いれば5対5もできるし。」

「・・・それでも皆、楽しそうです。」

「・・・そう見える?」

「見えます。皆、すごくサッカーが好きなんですね。」





翼さんはなぜか俯いて黙ってしまう。
私何か、いけないことでも言ってしまっただろうか。





「そう・・・見えるなら、俺のしたことも無駄じゃなかったんだね。」

「・・・え?」

「サッカー部。俺ともう一人が立ち上げた部なんだよね。」

「そうなんですか?」

「・・・将を見てさ。一人で校庭でサッカーを続けてる将を見て思ったんだ。
一人よりも、皆でした方が楽しいんだろうって。」

「将くん。ずっと練習してたんですね。」

「だから渋沢ってやつと二人で、玲・・・西園寺先生に相談して、サッカー部を立ち上げたんだ。」

「そう、だったんですか。」

「それからは部員を集めて、あいつらと気のすむまで一緒に、サッカーしようって思ったんだ。」





そう話す翼さんの表情は複雑で、微笑んでいるのに儚くて
心が締め付けられるようだった。

来年の夏までしか、大好きなサッカーをできない1年と
私たちがいなくなって、取り残されるだろう2年生。
それでも翼さんはサッカー部をつくった。きっと、将くんと、私たちのために。





「あいつら上達が早くてさ。俺が中学にいたときのサッカー部なんか目じゃないくらいだ。」

「翼さんは、この町の人じゃ?」

「うん。俺は玲の、西園寺 玲のはとこでさ。自分からこの学校にきたんだ。
名目は・・・『監視』だけどね。」





翼さんが苦笑する。
西園寺先生のはとこなんだ。・・・言い方はぶっきらぼうでも、やっぱり優しいのが頷けた。





も、サッカー部に入るなら歓迎するよ?」

「・・・楽しそうですけど、遠慮します。」

「どうして?」

「私、サッカーをするよりは、こうして皆を見ているほうが好きなんです。
たまに見学に来させてもらえれば、それで充分。」



本当の気持ちだった。
彼らの姿は本当に楽しそうで、私はそれを見ているだけでよかった。
私がその中に加わっている光景は、私の中では考えられなかった。



「・・・そう。残念だな。けど、いつでもおいでよ。」

「あはは。うれしいな。ありがとうございます。」







「翼さーん!!」



遠くから、翼さんを呼ぶ声が聞こえる。



「翼さんもサボってないで、そろそろ参加してくださいよー!
水野がファンタジスタ気取って、調子乗ってるんスよねー!!」

「おい!誰がファンタジスタ気取ってるんだよ!」





「・・・やれやれ。」



翼さんはため息をつきながら立ち上がる。
その表情は呆れたようで、けれど楽しそうだった。



「じゃあ。気がすむまで見てていいよ。」

「はい。翼さんの勇姿もばっちり見てます。」

まで僕をからかうな。じゃあ行ってくるね。」

「行ってらっしゃい。」















翼さんを加えて、彼らは試合を再開する。
サッカーをしている彼らは、遺伝子強化兵も何も関係なくて
楽しんで、前向きで、輝いている、ただの少年少女だった。
















私は彼らをずっと見つめて、思う。
















彼らを見て、願う。


















彼らが、優しい彼らが、せめて最期まで離れることなく、
大好きなサッカーを続けられるようにと。

















心から、そう願った。















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