出るわけのない答えを






俺はずっと、探し求めてた。











最後の夏に見上げた空は


















「せんせー!例のもの買ってきてくれたー?!」





俺はノックもなく、職員室の扉を開ける。
その場にいる教師たちがぎょっとした目で俺を見る。

何だよ。ビクビクしやがって。
そんなに俺たちの教師やるのが嫌なら、とっとと辞めちまえばいいのに。





「若菜・・・。お前先生をパシリに使うんじゃねーっての!」

「えー。けど買ってきてくれてる?」

「ついでだよついで。もうやんねーからな!」

「うっそ。また頼むよ先生!功先生しか頼りになんねーんだよなっ!」

「お前・・・また都合のいいように・・・」

「何言ってるのか、バカな結人くんにはわかりませーん♪」

「若菜っ。俺はパシリじゃねーからなー!」

「わーかってるって!じゃーな功先生!」





桜塚高校の教師の中で一番まともなのは、俺らの担任だと思う。
他のクラスの担任なんか、生徒のことなんて見向きもしねーっていうし
何より、政府から押し付けられたって感じがプンプンする。

その点、功先生は俺らの話も聞いてくれるし、こうしてパシリも頼まれてくれる。
この間はカラーリングの実験台になって、金髪にしちゃったけど、
気に入って、そのままにしてるし。結構おもしろい先生かもとか思ってる。

けど俺だって、好きで先生をパシリにしてるわけじゃない。
俺ら遺伝子強化兵は桜町から出ることができない。
だから、桜町に売ってないものなんて、手に入れることができない。
だから、今回だって桜町に売ってないメンズ雑誌を買ってきてもらったんだし。





俺は小さい頃からこの町にいた。
この町をでることすら許されなかった。
親はいたらしいけど、俺が物心ついたときにはいなかった。
俺は、遺伝子強化兵の集まる施設で育てられた。



小学生のときに、遺伝子強化兵だと聞かされた。
17歳までしか生きられないと、聞かされた。
正直、実感がなかった。
小学生の俺には、『死』ってものがよくわからなかったし
17歳って結構大人?とか思ってた。うーん。ちょっとバカだったかも。



それでも、徐々にその意味を理解していって。
実感は相変わらずなかったけど、『死』は確実に近づいてきてた。
それで、段々思ってきた。





『俺は何のために生まれてきたんだろう』






義務的に俺を育てる保育士。
誰からも愛されずに育った俺は、何のために、今ここにいるんだろう。





答えは、出なかった。









ある日、功先生が転入生が来ると告げた。
彼女は、政府の手違いで外の町に連れ出され、今まで遺伝子強化兵だと知らずに生きてきたらしい。

・・・そんな事例もあるんだ。
つまり、その子は外の世界も知っていて、きっと『ヒトナミのシアワセ』ってのも経験してる。
捨てられて、愛されなかった俺とは正反対の子なんだろう。





その子なら、俺の疑問にも答えてくれるだろうか。
正反対だから、俺の気持ちなんかわからないかも・・・。
けど、それでも俺のまわりは、外の世界を知らない奴らばかりだったから
それ以外の答えを聞いてみたいと、そう思った。










そして、 はやってきた。
想像とは違う、無表情をしてた。
まあ、当然か。自分は17歳までしか生きられないって知ったんだから。

それでも俺たちよりはマシだと思うけど。
きっと、16年間は何の制限もなしに、シアワセに暮らしてきたんだろうし。

俺の中で胸がチクリと痛んだ。
何の痛みかはわからなかったけど、とりあえずほっておいた。
それよりも、俺の疑問に答えてもらう方が先だ。



無難な質問をしていくうちに、何だかイライラしてきた。
は俺たちが、決して出来ないことを当然のようにしてきてる。
胸の痛みがどんどん強くなる。この痛みは・・・何だよ?



は自宅暮らしになるの?それとも寮暮らし?」


「寮暮らしだよ。」





・・・え?
はシアワセな家庭で暮らしてたワケじゃないのか?





「・・・親は・・・ついてこなかったっていうことか?」


「・・・そうだけど・・・けど、」

「今までずっと一緒に暮らしてて?それでを捨てたのか?!」

「ちょっと落ち着きなよ。結人。」

「落ち着いてられねーよ!俺たちだって親に捨てられてるけど・・・
ずっと一緒に暮らしてたまで捨てられるって何だよ!
やっぱり、大人って皆こうなのかよ?!許せねー・・・」

「違うよ!」





が俺の言葉を遮る。





「両親はついてきてくれるって言った。けど、私が断ったの。」

「何それ?どうして?」






は何も答えない。
何でだよ?どうしてだよ??
どうして、まだ『シアワセ』を続けるチャンスがあったのに
どうして、手を伸ばせば、そこに『愛情』があったのに
どうして、それを自分から手放すなんてことをするんだよ??





「なんか・・・俺には理解できねー。」





俺はその場を立ち去る。
胸の痛みはどんどん痛くなって、耐え切れなかった。



・・・むかつく・・・むかつくっ!!
やっぱり俺らとアイツとじゃ全然違った。
俺の疑問の答えられるなんて、やっぱり無理だったんだ。



それなのに・・・俺はこんなにむかついてるのに・・・
は笑ってる。何だよ。転校初日はあんなに表情なかったクセに・・・。
何で笑える?お前はもう親に愛されたから、愛情なんてなくても生きていけるっていうのか?



「結人・・・」

「何だよ一馬。」

「お前・・・大丈夫か?」

「なーに言っちゃってんだよ!結人さまはいつも元気だぜ?!」



廊下を歩くと小島を見てると、の制服のポケットから何かが落ちた。
あれは・・・ストラップ?



「あ、おい!・・・!」



一馬が気づいてに声をかける。
ったく!何やってんだバ一馬!そんなの知らせてやることないのに・・・。



「ありがとう。大切なものなんだ。」



・・・大切なもの?
俺はその言葉を聞いて、ストラップを持った一馬を引っ張る。



「いてっ!何すんだよ結人!」

「・・・さあ。何でストラップなんて持ってんの?
この町で携帯持つことは禁止って知ってるだろ?ストラップだけ持ってどうすんの?」

「・・・あ、うん。けど、それはいつも持ち歩いていたくて・・・。」





一馬からストラップをひったくる。





「これ、カッコいいよな?俺にくれない?」

「えっ!」

「いいじゃん!ストラップなんていっぱい持ってるんだろ?
俺も一回持ってみたかったんだよね!」

「はあ?若菜何言ってんのよ?」

「・・・悪いけど、ムリ。それだけはあげられない。」

「・・・何で?」

「大切な人に、もらったものだから。」





タイセツなヒト・・・?
何だよそれ・・・。何だよそれは・・・!!





「お前は親も捨てて、この町に来たんだろ?!
今更タイセツなヒトがどうとか言ってんなよ!!どうせもう、会えないのに!!」

「ちょっ!若菜!何言ってるのよ!!返してあげなさいよ!」





小島が怒鳴る。一馬も心配そうに俺を見ている。





「・・・いけない、ことかな?」

「・・・は・・・?」

「大切な人にもらった、大切なものを大事にしてることは、いけないこと?」

「・・・!」

「会えなくても、それでも、大切にしたいって思うのはいけないこと?」





の強い目が俺を見る。
俺はストラップを持つ手を強く握る。





知らない・・・!俺は知らない・・・!!
誰かに愛されたことも、何かをもらったこともないのに・・・!!





俺はストラップを持ったまま、走り出す。
後ろで叫ぶ声がしたけど、気にせず走り続ける。


走りながら、胸の痛みの正体に気づく。
それは嫉妬と寂しさ。
『シアワセ』なお前にイライラしてた。
『シアワセ』なお前を憎んだ。
『シアワセ』なお前を羨んでた。








この気持ちを無くすにはどうしたらいい?









なあ?お前が答えを知ってるなら、教えてくれよ?












俺が生まれてきた理由って何なんだよ・・・。






















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