こんなこと、慣れていたはずなのに





いつから私はこんなに弱くなったんだろう。










最後の夏に見上げた空は








風祭先生がドアを開ける。
すると、ドアの外にも漏れていた声が押し寄せてきた。





「こらー。お前らやかましいー!
今日転校生来るって言ったろーが!もっと行儀よく待ってろよ〜!」



「功先生遅いんだよー!俺ら待ちくたびれちゃったんだよ!なー??」

「そうそう!俺、新しい友達できるってワクワクしてたのにー!」





教室に入った途端、茶髪の男の子と、泣きぼくろのある短髪の男の子が叫ぶ。





「悪かったなー!ちょっと事務処理してたの!
ホラホラ!紹介してやるからお前ら静かにしろー。。自己紹介してくれるか?」





ざわつきが徐々におさまる。
・・・自己紹介?って何を言えばいいんだろうか。とりあえず無難に言っておこう。





 です。武蔵野市から来ました。よろしくお願いします。」



「はいはーい!俺は藤代 誠二!仲良くしよーね!ちゃん!!」

「いきなり名前呼びかよ藤代!俺は若菜 結人!よろしくな!」





さっき一番騒いでいた二人が真っ先に自己紹介をする。
やっぱりどこの学校にも、クラスのムードメーカーっているものなんだな。
つくづくこの場所が特殊だということを忘れそうになる。彼らはどう見たって普通の高校生なのに。





「じゃあ、の席はそこだ。郭の隣。」





一通り、全員の自己紹介が終わると、席へ案内される。
私の隣は郭 英士という、きれいな黒髪、黒目が印象的な男の子だ。





「よろしくね。さん。」

「こちらこそよろしく。郭くん。」





郭くんが軽く微笑む。・・・男の子なのにキレイな顔してるなぁ。





「この学校は特殊だからね。わからないことがあったら、何でも聞いてくれていいよ。」

「ありがとう。」

「こんなこと言ってるけど、郭って策略家だから、ちょっと注意した方がいいわよ?」

「・・・小島。いきなり変な言いがかりするのよしてくれる?」





私の前の席に座る、小島 有希が会話に加わる。
この学校の1クラスは10人程度と少ない。その中でも数少ない女子だ。





「女の子が加わってくれてうれしいんだよね。私は小島 有希。有希でいいわよ。
さんも名前で呼んでいい?」

「うん。全然かまわないよ。」

「そっか!よろしく!」



「ほらほら!おしゃべりはそこまでな!先生の存在忘れんなよ??」

「あら?先生まだいたんですか?」

「・・・小島ー・・・。」





皆の笑い声とともに風祭先生が肩を落とす。その後、一声かけてホームルームが終了する。
ホームルームが終了すると、数人が私の席に集まり、そのまま質問攻めにあう。
予想はしてたけど、こんな風に人に囲まれるのはどうも苦手だなあ。
やっぱり私は、静かな場所で、静かに時間が流れていく方が好きみたい。





!武蔵野市ってどんなとこ?都会?こことはやっぱ違うんだろ?」

ちゃんって彼氏とかいるのー?」

「・・・藤代。初対面にいきなりそういうこと聞くのやめなさいよ。」

「何だよ小島!だって気になるじゃん!」

「そーだそーだ藤代!お前はもっと気を使えー。」



皆、仲がよさそう。・・・当たり前だよね。
小さい頃からこの町を出ることさえできずに、ずっと育ってきたんだから。



「武蔵野市はそんな都会ってわけじゃないよ。町並みもここと変わらないかな。
ただ、最近は大きなデパートがいくつか建ってたみたいだけど。」

「いいなー!桜町も大型デパートとか建ててくれねえかなー?品揃えも豊富なさ。
遺伝子強化兵の町にだって、それくらい建ててくれてもいいと思わねえー?」

「そんなことするわけないでしょ。あの政府が。」

「だよなー!あーむかつく!!自分らの責任を俺たちに押し付けやがってさー!」





若菜くんの言葉に一瞬、皆が反応する。
まるで冗談のように、『遺伝子強化兵』という言葉はすんなりと出ていたけど、
悲しくないわけないんだ。納得できるわけないんだ。それが・・・伝わってきた。





は自宅暮らしになるの?それとも寮暮らし?」



話題を変えるように、有希が私に尋ねる。



「寮暮らしだよ。」





私は正直に答える。
しかし、その言葉に反応したのは若菜くんだった。





「・・・親は・・・ついてこなかったっていうことか?」

「・・・そうだけど・・・けど、」

「今までずっと一緒に暮らしてて?それでを捨てたのか?!」

「ちょっと落ち着きなよ。結人。」

「落ち着いてられねーよ!俺たちだって親に捨てられてるけど・・・
ずっと一緒に暮らしてたまで捨てられるって何だよ!
やっぱり、大人って皆こうなのかよ?!許せねー・・・」

「違うよ!」



若菜くんの言葉を遮るように言う。



「両親はついてきてくれるって言った。けど、私が断ったの。」

「何それ?どうして?」



私は言葉につまる。
あの出来事を、あの思いを、簡単に話せる勇気を私はまだ持っていない。



「・・・よくわからないけど、さんは親を捨てたってこと?」

「・・・捨ててなんかないよ。」

「だってそういうことでしょ。二度と会えなくなるとわかってて
それでも親についてきてほしくなかったんだから。」

「・・・郭。そんな言い方しなくても良いでしょう?」

「俺は真実を言ってるだけ。
さんの言ってることはつまり、そういうことでしょ?」

「・・・・。」



確かに彼らから見た私は、『幸せ』を放棄した愚か者だ。
生まれたときに親に捨てられたらしい彼らには、
その小さな『幸せ』をつかむチャンスさえ、やってくるものではないのに。



「なんか・・・俺には理解できねー。」

「・・・・。」



若菜くんと郭くんが私の席から離れる。



「あーあ。若菜って変なとここだわるからなー。
ちゃん大丈夫?」

「・・・ゴメンね。なんか、変なことになっちゃったわね・・・。」



藤代くんが心配し、有希が謝る。
どうやら寮暮らしの話題を出したことに罪悪感を感じているようだ。



「ありがとう。大丈夫だよ。本当のことだし。」





やっぱり私は『学校』というものになじめない性格をしてるのかもしれない。
有希と藤代くんにお礼を言って、教室を出る。
私の周りにいなかったクラスメイトも、会話には耳を傾けていたようで
教室を出て行く私を見つめている。

・・・こんな気分のときには、いつもあの場所へ行っていた。
あの場所へ、屋上へ行って空を見上げれば、心が落ち着いた。
学校の構造なんてわからないけど、私は上へ向かう階段を見つけて
無心でのぼり続けた。






学校中を回り続けて、やっと屋上と思われる扉をみつけた。
学校の中をまわっててわかったことだけど、学校の中にはあのものものしい警備員はいないようだ。
だからこそ、監視としての生徒なんて設けられているんだろうけど。

それでも一応、まわりに誰もいないことを確認し、扉に手をかける。
やはりというか、当然というか、扉には鍵がかかっていた。



私は当然のように、ヘアピンを持ち出し、扉の鍵穴をいじくる。
すると、『カチャリ』という音がして、扉の鍵が開いた。
・・・やっぱり私、鍵開けの才能ありすぎだよね。

そのまま屋上へ出て、空を見上げる。
そこには青空が広がって、白い雲が流れていく。



「・・・・。」



屋上にくれば、たいていのことは平気だった。
ここに来て、いっぱいに広がる青空をみれば、心が落ち着いた。
・・・ずっと、そうだった。



けれど、今は心が落ち着かないんだ。
悲しい、寂しい気持ちが胸いっぱいに広がる。















「・・・先輩・・・」


















そう、アナタがいない。

















私はポケットの中に入れておいたものを握り締める。
それは、三上先輩からもらった、クロスのストラップ。














「・・・三上先輩・・・」

















私、屋上にさえくれば平気だったんですよ?
この青空を見れば、一人でだって平気だったんですよ?





私、どうすればいいですか?
アナタと話すこともできずに、アナタを忘れることもできずに、
一人で最期を・・・迎えなければならないの?





突然私を不安が襲う。





一人でだって平気だった。





一人で平気だって思ってた。

















ねえ三上先輩。










私は・・・どうしたらいいですか?















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