何度もあなたを思い出す。
もう、会えないはずのあなたを思い出す。
最後の夏に見上げた空は
「君がさん?」
黒スーツに連れられて、数日後、私は遺伝子強化兵の集まる学校、
桜塚高校へ編入することになった。
泊まっていたホテルのロビーで待っていたのは金髪の若い男の人だった。
顔立ちは優しく、穏やかそうだ。・・・三上先輩とは大違いだなぁ。
「俺は桜塚高校教師の風祭 功。
担当教科は数学。それでもって、君の担任だ。」
私は顔を上げて風祭・・・先生を凝視する。
先生が金髪でもかまわないんだろうか。桜塚高校は。
「うわー。この人信用できるのかなー?とか思ってる??
まあ、少しずつ俺を見ていって信用できるか判断してくれればいいよ。
いきなりここに来て、金髪の教師が現れて、信用しろってのも無理な話だし。」
「これから俺の車で学校まで移動する。
この黒スーツの方々ともお別れできるよ?」
黒スーツの集団が一瞬、風祭先生を見る。
けれど、すぐに視線を私に戻す。
「・・・よろしくお願いします。」
「了解!こっちこそよろしく!」
・・・爽やかな人だなあ。
ぼんやりとまた、彼と正反対の人物を思い出す。
「さん・・・ていうか、でいいよな?」
「はい。」
車の中で風祭先生が口を開く。
「学校の概要は聞いた?」
「軽く、あの人たちに。」
「あの人たち・・・って黒スーツのことか。
あー、あいつらじゃ頼りになんねえよなあ。」
黒スーツたちをあいつら呼ばわり。
風祭先生も黒スーツたちに何かされたりしたのだろうか。
「じゃあ、俺からも説明しとくな。
遠まわしに言うのも好きじゃないから、はっきり言う。
わかってると思うけど、桜塚高校は遺伝子強化兵の集められた学校だ。」
「はい。」
「桜塚高校に入学する条件は3つ。
@遺伝子強化兵である者。
A純粋な桜町の住民である者。
B政府の審査に通った者。
君と同じ、高校1年は@に当てはまる。条件と言うより、強制にあたるけれど。
Aは生まれたときから、桜町の住民であることだね。
これは兄妹で学校に一緒に通ったり・・・家族のための制度だ。
Bは・・・。」
「監視役・・・ですね?」
「・・・その通り。政府はそんな風には言ってないけどね。」
「じゃあ、遺伝子強化兵じゃない人もいるんですね。」
「そうだな。2、3年はそれにあたる。・・・数は少ないけれど。」
「後は、そうだな・・・。
桜塚高校は寮暮らし、自宅通い、どちらでもOK。
は・・・寮暮らしになる。」
「そうですね。」
お父さんとお母さんを思い出す。
離れていたのはたった数日なのに、とても長い間離れている気がする。
二人とも元気だろうか。お母さんは症状が悪化したりしていないだろうか。
お父さんは、後悔の念に苛まれてしまっているかもしれない。
私が少し俯き、落ち込んだように見えたのか、風祭先生が明るい声で話す。
「俺のクラスはD組だ。少しやかましかったり、いたずら好きだったりするけど
根はいい奴らだから。きっと仲良くなれると思うぞ。」
「・・・はい。」
そんな話をしているうちに桜塚高校へ到着する。
私は学校を見渡す。
私の背の3倍があるだろう、大きな塀。
遅刻したら、どうやっても入れそうもない固い鉄の扉。
その扉をものものしく守る、警備員。
どう見ても普通の高校じゃない。
いくら遺伝子強化兵の集まる学校と言ってもやりすぎじゃないだろうか。
黒スーツの話じゃ、普段は普通の高校生で、力だって発揮できないはずなのに。
『私たちは戦争の被害者となった、遺伝子強化兵の子供たちを守る』
テレビで宣言していた政府の奴らの神経を疑う。
けれど。
私も同じだったのかもしれない。他人ごとだった。
同情はしたけれど、自分の知らないところで、彼らが何を思っていたかなんて
考えたこともなかった。
「行くぞ?。」
風祭先生が私に声をかける。
私は無言のまま、先生の後をついていく。
しばらく廊下を歩き、はじめに着いたところは職員室。
先生が扉を開けると、ざわめきが走る。
「・・・あの子が・・・」
「私たち・・・大丈夫・・・・」
ざわめきの原因は考えるまでもなく私らしい。
風祭先生を見ていたから、ここの先生は遺伝子強化兵なんて慣れているのかと思ってたけど・・・
どうもそうじゃないらしい。先生たちはジロジロと私を見ている。
・・・もう少し、ばれないようにできないのかな。私だって、そんな目で見られたくなんてない。
「はい!先生方!そこで隠れてコソコソ話さない!が困ってるでしょーが!」
それを救ってくれたのは、風祭先生だった。
やっぱりこの人は特別なんだ。他の先生の反応の方が普通だと思うし。
「。悪いんだけどここで待ってて。ちょっと報告してこなきゃなんないからさ。」
私は頷いて答える。風祭先生が言ってくれたおかげで、多少は和らいだけど
好奇心だか、恐怖だかの目は相変わらず消えない。
・・・まあこんなの気にしてちゃ、これからやっていけないんだろうな。
私と同じ遺伝子強化兵の子たちも、同じ思いをしてきたのだろうか。
「さん?」
考えていると、声をかけられる。
「私は西園寺 玲。
担当は国語よ。この学校には女の子が少ないから、相談があったらいつでもいらっしゃいね。」
すごく、きれいな人だ。その優しい笑みに私は少し、安心した。
「。終わったぞ。クラスに行こう。」
「はい。」
「行ってらっしゃい。」
西園寺先生に見送られる。やはりとても優しい顔で笑っている。
どうやら、西園寺先生も他の先生とは違うみたいだ。
「ここが君のクラス。1年D組。」
職員室をさらに進んだところに、その教室はあった。
ドアの上に『1年D組』と書かれたプレートがある。
風祭先生がドアを開ける。
これから私が過ごす教室。
これから私が最期の時をむかえるその時まで一緒にいるだろうクラスメイト。
私は、やっていけるだろうか。生きて、いけるだろうか。
気づけば、ふと思い出す。
忘れようとしても、決して忘れることのできない。
大切な人達がいない、この街で。
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