お前に会って、初めて知った気持ち。
俺から逃げようったって、そうはいかない。
俺がそこへ行くまで、絶対待ってろよ?
最後の夏に見上げた空は
「・・・来ねぇ」
誰もいない屋上で一人呟く。
来ないっつーのは、 。あの図々しい1年坊主だ。
「何だ?俺にものをやるのは嫌だってのか?
根性きたないやつだな。俺からはもらっといて。」
もちろん、反応はない。
が屋上に来なくなってから、もう1週間がたつ。
前まではあれほど毎日のように来てたのに。
「・・・病気にでもなったのか?」
まぁ来ないなら来ないで全っ然かまわないけどな。
俺一人で屋上占領できるし。けど・・・
「もらったら、もらいっぱなしってのは気にいらねーなー。」
少し、考える。
今までアイツが連続して屋上に来ない日があっただろうか。
まぁ、雨の日や時間が合わない日だってあったから、必ずしも毎日会っていたわけではないが。
そう考えると、俺もしょっちゅう屋上に来てるんだよな。
その理由はもう、考えなくともわかってるんだけど。
「・・・ちっ。仕方ねーな!」
「よっ」と声を出して、立ち上がる。
屋上の扉を開け、1年のクラスがある2階へと向かう。
2階の廊下を歩いていると、1年の女子たちがキャーキャー言ってるのが嫌でも耳に入ってくる。
全く、何で女ってこんなにうるせーんだろうか。頭が痛くなってくる。
俺はのクラスの前で立ち止まる。
たまたま、顔見知りの後輩がいたので呼び止める。
「おい。お前のクラスにってのがいるだろ?今日は来てるか?」
「あれ?先輩、さんと知り合いだったんすか?」
「うるせーな。とっとと呼んで来い。」
「いや、さん転校したんですよ。1週間くらい前に。急な転校で挨拶もなしだったけど。」
「・・・は?」
すげえ間抜けな声を出してしまった。
何だ?急な転校って・・・。
つーか今時、挨拶もない転校なんてあんのか?
「何なんですかね。この間、クラスの女子がさんの家に行ったらしいんですよ。
一応、最後のお別れってやつをしたかったらしくて。」
「ふーん。」
「けど、やっぱりさんの家にはもう、誰もいなくて。」
「まぁ、そりゃそうだろ。急な転校なら、いないって予想つくだろ。」
「ただ、さんの家のドアがへこんで、ガタガタの状態だったらしいですよ。
まるで、ドアごと蹴り飛ばされたか、吹き飛ばされたみたいに。」
「・・・はぁ?」
「ね?ワケわかりませんよね?
さんの急な転校、壊されたようなドア。これは何か事件かもしれませんよ?!」
「アホか。変な話で盛り上がってんじゃねーよ。暇人だなお前は。」
・・・転校か。
アイツはそんな素振り見せてなかったけどな。
それに・・・そんな予定があったなら、俺との約束だってしなかったはずだ。
約束だけしてバックレるなんて、はそんな性格じゃない。・・・と思う。
それ以前に。
急にいなくなられても、俺が困る。
アイツには、まだまだ言いたいことがたくさんあったんだ。
「の家の住所ってわかるか?」
俺は迷うことなく、後輩に訪ねた。
電車で1駅。駅から近い場所にの家はあった。
普通の・・・家だよな?壊れているドアをのぞいては。
ゆがんだドアの隙間から、中をのぞいてみる。
・・・よくわからないが、争った後?それも壁までへこんでいるという、結構な光景だ。
どういうことだ?普通に争ったんじゃ、こうはならないだろう。
考えていると、後ろから声をかけられた。
「何を・・・している?」
振り向くと、少しくたびれた感じのおっさんが立っていた。
やべ。俺って空家をのぞいてる危ねー奴か?とりあえず、言い訳しねーと。
「俺、・・・さんの友人です。
さんが急に引っ越したって聞いたので、気になって。」
「・・・そうか。」
「何か、知ってるんですか?」
「私は・・・の父です。」
の親父?!何でこんなとこにいるんだよ?
親父がここにいるなら、はどこへ行ったんだ?
「は・・・ちょっと・・・家庭の事情で、私の、母のところへ。
その事情もあって・・・学校で挨拶させることができなかったんだ。すまないね。」
の親父は、目をそらせてたどたどしく喋る。
ダメだなこの人は。ウソをつくことができない人間だ。
「・・・さんに、連絡を取ることはできますか?」
「・・・今は無理だ。都合が良くなったらから連絡させよう。」
「さんは、元気ですか?」
「・・・ああ・・・元気、だよ。」
やっぱりだ。こいつはウソをついてる。
一体どうしたんだよ。は。
「さんは、あなたたち両親が好きだと、そう言ってました。
そのさんが、あなたたちから離れなければいけなかった理由はなんなんですか。」
「っ!!」
の親父は顔を背ける。
肩を震わせているようにも見える。
「教えてください。さんはどこにいるんですか?」
「・・・すまない。それは言えないんだ。・・・帰って・・・くれないか?」
「けどっ「帰ってくれ!!」」
言葉を遮られる。
の親父は肩を震わせ、必死に俺を追い返そうとする。
その姿はとても悲しげに見えた。
「・・・すみませんでした。」
「・・・いや」
「じゃあ、帰ります。」
「・・・君、名前は?」
「三上・・・亮」
「そうか。三上君。
君がのことで必死になってくれていることはうれしい。
あの子はあまり、他人に興味のない子だったから・・・。君のような友人もいたんだね。」
「・・・・」
「けれど・・・
もうのことは忘れてほしい。それが、君のためだ。」
「どういうことですか?」
「・・・・・。」
「言ってください。むしろ言ってもらえなきゃ、俺はどこまででも
を探しますよ?」
「・・・もう君が、に会うことはない。は・・・
は・・・・遺伝子強化兵だったんだ。」
耳を疑った。
が?
あの、戦争の負の遺産って言われてる、遺伝子強化兵・・・?!ウソ・・・だろ??
の親父は静かに、事の経緯を話し出す。
その内容は信じられるものじゃなかったけれど、壊れたドアやへこんだ壁、
そして何より、の親父の表情が、それが真実であることを物語っていた。
の親父と別れ、俺は一人歩き出す。
話を聞いて納得はしても、頭がついていかない。全然、現実味がない。
。お前にはまだまだ言いたいことがたくさんあったんだ。
「先輩こそ毎日屋上来て、友達いないんじゃないですかー??」
「あ?バーカ。俺はなー・・・・」
あのとき、初めてわかった。自分の気持ちに。
俺が屋上に毎日行く理由。それは、お前に会いたかったからだ。
「その代わり」
「え?」
「俺にもなんかよこせ。」
何だってよかった。
ひねくれた言い方したけど、
結局はただ単純に、お前からの何かが欲しかった。
「・・・無理に好きでいる必要はないです。けれど、
無理に嫌いになる必要だって、ないと思います。」
あのときお前には、結構救われたとか言ったけど
すっげー救われてた。
俺の何気ない一言にだって、真剣に悩んで、考えてくれる
そんなお前が愛しかった。
つまりはさ。
俺にとって屋上は、お前に、に会える場所だったんだ。
そんなが遺伝子強化兵で、
17歳までしか生きられないなんて、
お前の笑う顔がもう、側にないなんて、
もう会えないなんて、ウソだろう?
お前が当たり前のように、俺の側にいたから
それは明日も明後日もそこにあるものだと
そう、思っていたんだ。
こんな簡単に日常が壊れることがあるなんて
思ってもみなかった。
なあ?
お前は今、何をしてる?
何を、思っている?
もう会えないなんて、そんなこと俺は認めない。
誰がなんといおうと、どんな手を使ったって、俺はお前に会う。
絶対、会ってやるから、待ってろよ?
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