何もわかっていなかった。





『変化』をおそれて気づかないフリをしていた。





平凡だけど居心地の良い、日常のままでいたいとそう思っていた。





変わるものなんてないと、そう信じていたかった。













最後の夏に見上げた空は















「先輩のそれ、すっごいカッコいい!!」

「はぁ?」





またいつもの屋上で三上先輩と二人。
携帯を操作していた三上先輩の携帯ストラップが変わっていることに気づいた。






「それ!そのストラップですよー!
すっごい私好みです!どこで買ったんですかー!?」


「あ?ダチにもらっただけだし。そんなん知らねーよ。」

「えー!・・・うぅ。すっごいカッコいいのに・・・。」





それはいたってシンプルなクロスのストラップなんだけど
デザインといい、色合いといい、すごい私好みのものだった。いいなぁー。
落ち込む私に三上先輩が意地の悪い笑みを浮かべる。






「やろうか?」

「え!」

「そんなに欲しいなら、別に俺いらねーし、やってもいい。」

「えぇ!だって友達にもらったものじゃ悪いですよ!ってあれ??三上先輩友達できたんですね!!」

「だから友達はいるって言ってんだろーが!!
つーか、友達が自分用に買ったら、彼女に新しいストラップもらったからいらなくなったのをもらったってだけだし。別にかまわねーよ。」


「・・・いいんですか?」

「ああ。」

「ぃやったーーー!!」

「その代わり」

「え?」



「俺にもなんかよこせ。」

「ええ?!」



「当たり前だろー?俺がお前に無償で何かをやるほど優しく見えるか??」

「見えません」

「即答かよ。」



「もう、わかりましたよー。何が欲しいんですか?」

「お前に任せる。俺が満足するものを献上しろ。」

「ええ?!それが一番困るんですけど!しかもえらそうだし!!」

「じゃあ、ストラップ返せ。」

「うっ・・・。わかりましたよ。今度、選んで持ってきます。」





うう。プレゼントなんてしょっちゅう女の子からもらってるくせにー。
意外とがめついんだから、三上先輩。
・・・仕方ない。今日の帰りにでも探してみよう。




















学校からの帰り道。
目についたお店をまわってみると、なかなかカッコいい腕時計を見つけた。
これをつけた三上先輩を想像してみる。・・・うん。なかなか似合うんじゃない?
値段もお手頃だし、これでどうかな?文句言われたら、渡すだけ渡して逃げてやろーっと。






腕時計を買って、家に向かう。
先輩がどんな顔して受け取るか、どんな反応をするのか想像するとドキドキしてくる。
趣味があってなかったらどうしよう。喜んでくれたらうれしいんだけどな。


・・・ってほとんどたかられてる感じなのに、なんでこんなにドキドキしてるんだ私は。



なんて、ぐるぐるいろいろなことを考えてるうちに、家に着いた。
ドアを開け、家の中へ入る。




「ただいまー!・・・あ。」



勢いよくドアを開けると、スーツを着た数人の男が玄関にたっていた。
え?何この集団は。あやしいなー。けど、とりあえずは挨拶でもしとくか。


「こんにちは。ただいま、お母さん。」




黒スーツの集団に軽くお辞儀と挨拶をし、お母さんを見る。
しかし、お母さんは顔面蒼白だった。




「お母さん?どうしたの??」

「・・・・・・」



黒スーツもお母さんも私をずっと凝視する。何?一体どうしたの??



「そんな、はず、ない・・・そんなはずがないです!何かの間違いです!!」

「お母さん?落ち着いて!!どうしたの?!」

・・・・・・!!」

「お母さん?!」



顔面蒼白で私の名を叫ぶお母さんに駆け寄る。




「間違いではありません。全てこちらで確認済みです。」





黒スーツが静かに口を開く。
お母さんは怯えたように、私にすがりつく。






「なんなんですか!あなたたちは!!一体、母に何を言ったんですか??」





お母さんがいきなり怯えだした原因はおそらく、この黒スーツたちだ。
はやく追い出して、お母さんを落ち着かせなくちゃ。お母さんはただでさえ、体が弱いんだから。




「私たちは真実を述べただけです。」

「何?」

「・・・ さん。あなたの真実を。」

「・・・私?私が何なの??

 さん。」















「あなたは、遺伝子強化兵です。」





















家の中にお母さんの叫び声が響いた。
私は黒スーツが何を言ってるのか理解できずに、ただただその場に立ち尽くしていた。










日常が崩れた瞬間



私の何気ない日常はずっと続くもので



この居心地のいい毎日だって変わることなんてない



そう信じていた。





けれど私は何もわかっていなかったんだ



日常は変わっていくし、ずっと永遠に続くことなんてない。



何もわかっていなかった。





自分の日常の変化も、自分に芽生え始めていた気持ちさえも。









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