退屈な毎日だった。
平凡な毎日だった。
当たり前にやってくる毎日だった。
その日常はあまりにも当然で
その日常がいとも簡単に壊れるなんて
私は夢にも思ってなかったんだ。
最後の夏に見上げた空は
爽やかな春風が吹く午後の授業。
歴史の先生の声だけが響く。
「えー、つまりだ。
君たちの生まれたその年、第三次世界大戦とも言われた戦争が終結した。
君たちが今、何不自由なく暮らせるのは、すごいことなんだぞ??」
どうやら16年前に起こった戦争の話をしているらしい。
その話は小さい頃から何度も聞かされてた。
ある一部の国の戦争ではなく、世界単位の戦争で、
たくさんの死者を出して、たくさんの人が犠牲になった。
だから、その戦争が終わって生まれた私たちは幸せなんだって。
「俺が今、こうしているのだって戦争が終わったおかげだ。
その頃には俺も出兵して、命をかけて戦うところだったんだ。
あの頃の日本は、それはもう戦争に勝つことだけを目標にしていたからな。
おかしくなっていたのかもしれない。多少の犠牲なんて誰も気にしていなかった。」
「あれー??『戦うところだった』って、じゃあ先生は参加してないわけー??」
「あー。先生逃げちゃいそうだもんなー。わかるわかる!!」
先生をちゃかす冗談が飛びかう。
慌てて弁明する先生は、どんどん墓穴をほってしまっている。
「と、とにかくだ!
もう、戦争なんてものは起こしちゃいけない!先生が言いたいのはそういうことだ!!
たく、お前らも茶化してないで真面目に聞け。実感ないだろうけどなー・・・・・・・・・お前らと同じ年で・・・・・・・・・・・」
そう、私たちは実際に戦争を経験していないだけに、どうにも実感というものができない。
実際、私もそんな一人だったから、先生の話も右から左へ流されていってた。
だって、こんな春風が吹いて、気持ちのいい日に真面目に授業なんて無理な話でしょ?
うん。こんなに気持ちいいんだから、きっと『あの場所』はもっと気持ちいいんだろう。
次の授業は・・・まぁいっか。どうせ授業聞く気なくなってるし。
授業終了のチャイムがなると同時に私は席から立つ。
階段を上がっていき、人目がないことを確認し、『あの場所』=屋上につながるドアへと向かう。
もちろん、危険防止のためドアは閉まってる。けれど・・・私はポケットをさぐる。
ポケットから出したのは、ヘアピン。
我ながら、こんなことができちゃうのもどうかと思うけど・・・まぁ悪用しなければいいよね。
カチャッ
屋上のドアが開く。
屋上へ出ると、やっぱり。
「おおーー!!」
気持ちのいい風と、真っ青な青空が広がる。
やっぱり授業サボってよかった。こんな光景なかなか見れないもんね。
空気を吸って、伸びをしようとしたけど、
・・・なんだか視線を感じる。ここに誰かいるとしたら。
「・・・三上先輩」
伸びをしようとした体勢のまま、上を見る。
用具入れとなっている建物の上に、あきれた顔の男が一人。
「・・・。また俺の邪魔しにきたのかよ?」
「まさか。先輩こそ何でこの時間にここにいるんですか?」
「そのセリフ、そっくりお前に返す。」
「・・・こんな天気の日に授業なんて、バカらしくないですか?」
「・・・めずらしく意見が一致したな。仕方ねぇ。俺様の憩いのスペースだが、一時、お前にも貸してやるよ。」
「なんで、いつもそんな偉そうなんですか。」
「あ?」
「いえ、ありがたく使わせていただきます。」
「最初から素直にそう言えばいいんだよ。」
このえらそうにしてるタレ目の先輩(というと怒る)。三上 亮と出会ったのは高校入学3日目。
中学の頃から屋上を休憩場所としていた私は、やっぱり高校に入っても屋上へ向かった。
もちろん鍵はかかってて、先生に見つかれば大目玉なんだけど、やっぱり私にとって一番落ち着く場所は屋上で。
ヘアピンで鍵をいろいろいじくってみると、意外と扉は簡単に開いてしまった。私って鍵開けの才能でもあるのかな?
そのとき会ったのが三上先輩。
きっと先生が見回りにでもきたと思ったら、見知らぬ生徒が現れたことに驚いたんだろう。
用具入れの上から顔をのぞかせ、私を見た。
最初は迷惑そうに「帰れ」とか「邪魔」とか散々言われたけど、
私も譲りたくないし、屋上は三上先輩のものでもないし?
こりずに毎日屋上に来る私にもうあきらめがついたみたい。
用具入れの横についている梯子を使って、上に登る。
三上先輩の向かいに座り、周りを見る。
先輩の周りには、ペットボトルやらマンガやらが散らばっている。
・・・準備万端だ。一体いつからここにいたんだろう。絶対私よりかなりサボってるよねこの人。
「何だよ?」
先輩の周りを凝視してた私を見て、先輩が訝しげな目を向ける。
「いえ。別に。」
「・・・準備万端でサボりすぎだとか思ってんだろ?」
・・・どうしてこの人、私の考え読めるんだろう?
「いえ、別に。」
「ウソつけ。」
くつろいで、伸ばしていた足に蹴られる。
「いたっ!三上先輩、女の子に暴力振るうなんて最低ですよっ!」
「誰が。俺が、憩いの場にずかずか進入してきた奴に遠慮なんかする人間に見えるか?」
「見えません。」
「いや、そこは否定しろよ。」
他愛のない口喧嘩。
他愛のない会話。
他愛のない日常。
そんな他愛のない毎日が当然だった。
これからもそんな毎日が続くのだと、なんの疑いもなく思ってたんだ。
この広い青空の下、変わるものなんて何もないと、そう信じてた。
TOP NEXT
|