「いいぞー小鉄!そうだ、そうやってお前の唯一のとりえを活かせ!!唯一の!!」

「きゃー!みっくんってば何やってもカッコいい〜!!最高ー!!」





体育祭がはじまった。
小鉄に勝負を挑まれ、そのために俺らは同じ組になるようクラスメイトに順番をかえてもらう必要があったのだけれど。
まず最初の100m走はタイミングがあわず別々の組で走った。

1位の列に並ぶと少し離れた場所から小鉄が俺をにらむ。
そんな姿がやっぱり可笑しくて、俺は奴とは対照的に笑顔を浮かべて手を振った。












Run and Run

― きみと出会って ―













「小鉄、やっぱり速えじゃん。」

「当たり前だろ!」





小鉄と軽く話している間に男子の100m走が終わり、女子のグループへと移る。
会話は続けながらもその光景を見ているとの番がやってきて、彼女はぶっちぎりで1位でゴールテープをきった。
テニス部所属とは聞いてたけど、さすがだなー。

でも・・・朝に話したときから思っていたけれど、彼女の様子がおかしい気がするんだよな。・・・気のせいか?
一緒に話していた小鉄はの姿を直視できないらしく、なんだか挙動不審になっていた。
あーもうじれったいな。俺に勝負を挑むときの威勢はどうしたんだよ・・・!

それからとも少し話して。様子が気になっていたから大丈夫かって声をかけた。
すると彼女は小さく笑って大丈夫、とそう言った。・・・うーん、やっぱりどうも気になるんだよな。









次の200m走は周りの奴らに協力してもらって、勝負をするために前から3列目に並べと言った小鉄の言うとおりにした。
だけど、やっぱりが気になる。大丈夫って言いながらすぐに俺から離れようとしたのも気になる。
俺は男子のさらに後ろ、女子の並ぶ列へと視線を向けの姿を探した。

その姿を見つけて、彼女をじっと見つめる。
さっきより息があらくなってるようにも見えるし、顔も赤く・・・



・・・どう見たって具合悪そうじゃんかよ・・・!





俺はすぐに立ち上がっての方へと駆け寄った。
彼女を引き寄せて額に手を触れる。





「・・・やっぱりじゃんか・・・!」





熱い。明らかに熱い。





「さっき聞いたときもお前逃げるしさ!何こんな無理してんだよバカ!」

「・・・別に無理なんて・・・」

「あーもう!いいから来いよ!!」





柄にもなく大声を出して、今まで言ったことのないような強い言葉。
でも俺はそれくらい彼女が心配だった。周りのざわめきだってどうでもよかった。
















の手をひいて、保健室へと連れていく。
保健の先生は外で別の生徒の手当てをしていたから、鍵だけ受け取ってをベッドに寝かせた。





「何で言わなかったんだよ。」

「・・・ごめん。」

「謝ってほしいわけじゃなくてさ・・・こんな熱あったんだから休んだってよかったじゃん。
俺が聞いたときに・・・言ってくれればよかったのに。」





本当は少し、悔しかった。
の様子がおかしいと気づいていながら、彼女は本当のことを言ってくれなかった。
俺はそんなに・・・頼りないだろうか。





「・・・心配、かけたくなくて。」

「・・・誰に?」

「みんなに。光宏にも・・・鉄平にも・・・。あんまり意味なかったけど・・・。」

「本当だよ!余計心配したし、最初から言えよなもー!!」

「・・・ごめんなさい。」





でも俺は彼女の性格を知ってるつもりだ。
だからみんなに心配をかけたくないって言ってるのも本心。
俺が頼りないとか、そう思っているわけじゃないことも。





っていつも無理するタイプか?こういうのちゃんと周りに言ったほうがいいんだぞ。」

「・・・いつもは・・・その、鉄平に強引に保健室に連れていかれたりとか・・・」

「・・・。」

「私、自分で体調悪いとかあまり気づかなくて。まわりも気づかないのに・・・鉄平はなぜか気づいちゃうんだよね。」





いつもの小鉄だったらどうしてただろうって、そう思ってた。
なかなか本心を言わない彼女でも、そうか、強引に安静にさせちゃうんだな。
今日は俺が先に気づいたけれど、いつもはアイツがを気にしてたってことか。



ああ、そっか。そうだよな。



小鉄とはそれだけの時間を一緒に過ごしてきていて。
今は素直になれなくても、やっぱりお互いが大切で。きっと、一番頼れる相手。





「でも、わたし本当にそんなに具合悪くないんだよ?熱がちょっとあるだけで・・・」

「なあ。」





知ってる、二人の間に割って入るなんてできないこと。

知ってる、二人はもう同じ気持ちを持っているっていうこと。





、小鉄のこと好きなんだろ?」

「!」

「なーんで皆も小鉄もわかってないのか不思議だけどさ。」

「な、何?いきなり・・・」

「いいじゃん。教えて。」





俺はの手助けをすることはできても、彼女の心まで動かすことはできない。
表情を変えるのも、彼女の心を揺さぶるのも、いつもアイツだった。
知ってる、が小鉄をどんなに好きかってこと。
どうしたらお前らが幸せになれるのかってことも。





だから、教えて。





「俺、好きなんだ。」





の口から、伝えてほしい。





のことも・・・小鉄のことも。」





小鉄がを傷つけるだけなら、奪ってやるってそう思った。
いつまでも俺をライバル視してのことをほったらかすなら、本気になってやるって思った。





「大切な友達だって、そう思ってるから。」





そんな風に思いながら、この気持ちはきっともうとっくに本気だったけれど。

俺はが好きだし、一緒にいるとドキドキする。
たくさん笑っていてほしいし、もっとたくさん話したい。
正直なところ、彼女が小鉄を好きだからって簡単に諦めようとは思いたくない。
小鉄はの気持ちに気づかず、俺にくだらないヤキモチを妬いてるし。
そのせいで彼女を傷つけたりもしていた。ちょっとイライラしたりもした。
こんな奴よりも俺の方がって、そう思ったことだって何度もある。





「だからお前らの調子が悪いの見てると、手かしたくなっちゃうんだよな。
最近のお前ら・・・っていうか、小鉄の様子おかしいもんな。」

「・・・。」

「幼馴染って理由じゃなくても気になるんだろ?」

「・・・光宏・・・」

「小鉄がいつまでもうじうじしてるんだったら喝入れてやるし、
何か協力してほしいことがあるなら俺、協力するからさ。」





それでも、二人がお互いを思っていることを俺は知ってる。
二人に比べたら俺とのつきあいなんて短いものだと思うけれど、それでもわかる。
悔しいことに、わかっちゃうんだ。

だから俺がお前らを思う気持ちも、幸せになってほしいって願う気持ちも、本当。





「・・・ありがとう、光宏。」





俺の名前を呼ぶ声。
ちいさく、けれど優しく笑う彼女の姿。





「・・・言葉にしなきゃ、伝わらないもんね。」





めまぐるしく環境の変わっていくなかで、特別な感情なんて持つつもりはなかったのに。
今までそうやって過ごしてきたのに。



俺は、君を好きになった。







「私は鉄平が好きだよ。」







彼女の気持ちは最初からわかってた。
相手の気持ちも一目瞭然だった。



だけど、止められない気持ちがあることを知った。















「ほーら、やっぱり!」

「どうしてわかったの?」

「わからないほうがおかしいって!」

「・・・そうなの?」





そういえば、二人の気持ちはわかりやすいってそう思ってたけど、
そうか、俺がそれだけ二人を見ていたから、そう思ったのかもしれない。
二人の気持ちにすぐ気づけたのかもしれないな。





「・・・こんな話、光宏にしたのがはじめてだよ。」

「まじ?やった、嬉しいじゃん!」

「・・・光宏だから言ったんだよ?」

「え?」

「光宏は・・・なんだか、安心する。」

「・・・。」





予想外の彼女の一言に、胸に何かがこみあげた。
それは切なさだったのか、嬉しさだったのか、また別の感情だったのかはわからない。



でも俺は、少しでも彼女の気持ちを動かすことができただろうか。









廊下から騒がしく、大きな足音が聞こえた。誰かなんてわかりきってる。





「来たな。」

「来たね。」





その足音の主を二人で頭に浮かべて、小さく笑いあった。







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