保健室に駆け込んできた小鉄は、入ってきたと同時にに大告白をした。
当然もそれを受け入れて、二人はめでたく両思い。

ちくしょう小鉄の奴。
最後の最後でおいしいとこ持っていきやがって。



悔しいのも、寂しいのも、本当。
だけど、俺の心は意外と晴れやかだった気もする。










Run and Run

― きみと出会って ―












一度保健室から出て、体育祭の競技に戻った。
と両思いになり張り切っていた小鉄だったけれど、俺は容赦なくこてんぱんに倒してやった。
まあ手加減なしの真剣勝負だし?それは仕方ない。私情なんて全然入ってないぞ。

そして競技が終わったというのに、小鉄はまだその辺をうろうろしてる。
俺はてっきり速攻でのいる保健室に向かうと思っていたのに。




のとこ行かねえの?」

「・・・っ・・・。」

まだ保健室だって知ってるだろ?親が迎えにくるらしいけど、それまでお前いてやればいいじゃん。」

「わ、わかってるっつの!」

「とか言って足動いてねえし。じゃ、俺心配だから行こっかな。」

「ええ?!」





驚くくらいなら、とっとと行けっての。
あーもう、両思いになったっていうのに、相変わらずこういうことには臆病っつーかなんていうか。
小鉄は俺の姿を見てようやく決心がついたのか、保健室に向かおうと歩き出した。
けれど、何か思いついたようにこちらに振り向く。





「・・・お前は、さ。」

「・・・?」

「お前はのこと・・・好きなんじゃなかったのか?」





・・・お、よく気づいたな。
も、他の誰も多分気づいてなかったはずなのに。
いや、小鉄のことだからと仲のいい男子を気にしてただけかもしれないけど。





「そりゃあ、好きだけど。」

「ええ?!」





好きだったよ。



自分でも驚いたくらいだ。



特別な思いなんて持たないと決めてたんだけどなあ。





「友達の幸せを喜ぶのは当然じゃん。」

「・・・は・・・?」





でも、もう俺にとっては『特別な人』。





「おーっと何か勘違いしてるのかなあ小鉄くん。」





その想いの形が変わっても。





「っはは!お前って本当顔に出やすいな!」

「っ・・・うるせー!アホ日生!」

「そうだアホ小鉄! と両思い記念に俺とも友達ってことでどうよ?」

「は?!」

「やっぱりなんだかんだで俺、お前のこと気に入ってんだよなー。」

「き、気に入ってるなんだ!俺はペットかっつーの!」

「うん、そんな感じ。」

「日生ー!!」

「っていうのは冗談で。」





そして、それは多分。





「だってホラ、悲しいじゃん?俺はダチだと思ってるのに、敵とか言われたらさ。」

「・・・え・・・。」

「俺、転校してばっかだし、結構そういうの敏感なんだよな。」

「・・・!」





小鉄、お前も同じだと思うんだ。





「俺、お前との勝負、結構楽しいんだけど。」

「!」

「小鉄は違うの?」

「・・・あ・・・。」





きっかけはただの興味本位だった。
短いだろう学校生活を楽しむためのひとつの手段だったはずだった。
だけどいつも諦めないでまっすぐ、ひたすら前を見て突っ走るお前との勝負は本当に楽しかった。





「ライバルで天敵で友達っていうのも、いいと思わねえ?」

「!」

「・・・ま、お前が嫌ならいいけどさ。」

「・・・あ・・・。」

「じゃあ明日な!ちゃんとについててやれよー!」





俺、が想う奴がお前じゃなかったら、ここまですっきりしないと思うんだ。
諦めようなんて思わなかったかもしれない。身を引こうなんて思わなかったかもしれない。
だって俺は周りよりも自分の気持ちの方が大切だと思うから。そんなの、当たり前じゃん?








「あ、明日な!!みっくん!!」








だけど、お前ももあんまりいい奴だから。
あまりにもまっすぐだったから。一緒にいると居心地がよかったから。
俺も素直にお前たちの幸せを祈ろうって気になったんだ。





「・・・っ・・・は、あは、あはははは!!」

「日生お前っ!笑いすぎだちくしょう!さっきのしおらしい態度はなんだったんだ!!」





だから、小鉄。
絶対を幸せにしろよな。もうあんな悲しい顔させるなよ。

バカみたいにまっすぐで、お人よしなお前だから任せるんだ。
しっかりを守りやがれ。俺のライバルなんだったら、それくらいしてみせろよな。






















それから少しして、母親と父親が揃って俺の名前を呼んだ。
以前、夜に二人で話しているのも聞いていたから、何を言われるか予想はついてた。
そうか、そろそろこの場所ともお別れだ。

いつもの通り、クラスメイトにはギリギリまで言わないことにしよう。
しめっぽいのは苦手だし、さっぱりと別れたい。
この学校は居心地がよくて離れがたいことも本当だったけれど、俺にはどうしようもないことだから。

引っ越す当日にクラスメイトに説明した。
当然のように皆、怒ったり泣いたりしたけど、俺はずっと笑顔で通した。
最後なんだから笑って別れたいって言ったらみんなも笑ってくれた。やっぱりいい奴らだったよな。

の姿が見えないと思ったら、かわりにすごい勢いで小鉄が走ってやってきた。
これも予想できていたこと。俺は必死の形相を向ける小鉄に笑顔を見せた。





「どういうことだみっくん!!」

「あ、小鉄!見送りに来てくれたんだ。」

「おう!・・・じゃねえ!どういうことだよ引っ越すって!」

「え?親の転勤。」

「ああ、うん。そうだよな・・・って違う!!いきなりってどういうことだってんだ!」





なあ小鉄。お前も笑って送ってくれよ。
俺、お前といた時間すごく楽しかったんだ。最後がしめっぽくなるのなんて、俺ららしくないじゃんか。





「お、俺っ・・・。」

「?」

「俺、まだお前に勝ってねえ!!」

「・・・っ・・・。」





どんな言葉が出てくるのかと思えば・・・ま、まだ言ってる・・・!
もっと他に言葉なかったのか。いや、小鉄らしいって言えば小鉄らしいんだけど。
俺は思わず吹き出して笑い出す。





「何だよー、みっくんともっと話したかったぜ!とかじゃねえの?」

「やめろ気色悪い!」

「そうだな、確かに小鉄がそんなこと言ったら気持ち悪いな。」

「何だとコラ!!」





そのうちにも息を切らせてここまで走ってきて。
全力で走って小鉄を呼んできたんだろうな、なんて思ったらやっぱりちょっと嬉しかった。
本当、いい女だよな。こんな小鉄でいいのか?いいんだろうけど。





「やべ、俺もう行かなきゃ。じゃあな、小鉄!」

「・・・寂しくなるね。」

「うわ、そんな可愛いこと言うなよ。惚れちゃうじゃん!」

「なっ・・・もう行け!バカ光宏!」

「ははっ!わかってるっつの!」





ああ、楽しかったな。
ここに来たときには、特別な関係を作りたいだなんて思っていなかったのに。
思ってなくても、自然にできることを俺はお前らに教えてもらった。








「次は絶対負けねえからな!!」








・・・次・・・?







「俺は負けてねえ!負けを認めなければ負けじゃねえんだ!」







そうか。そうだよな。
俺は今まで学校が変われば、そこから関係を続けたりなんかしなかったけれど。



だって小鉄しつこいし。勝つまで諦めねえし。



お前となら、あるかもな。





だから、







「・・・ああ!また勝負しような!」






















昔から父親の転勤が多く、ひとつの場所に長くとどまることは少なかった。
知らない土地に生活をうつして、新しい学校に転入するのも慣れていた。

だけど俺はしめっぽくなるのも苦手だし、どんな場所であっても楽しく過ごしたいと思っていたから。
特別な関係をつくることなく、自分なりの楽しみを見つけて。
当たりさわりのない関係を続けてきた。そうやって、今まで過ごしてきた。
離れることがわかっていて、深く特別な関係など持ちたくなかったから。



でも、この学校でそんな理屈的なことを吹っ飛ばすような出会いがあった。
離れることがわかってて、それでも好きになり、振り向かせたいと思った子がいた。
負けず嫌いでいつだって一直線に向かってくる、そんなバカ正直な友達が出来た。



心から幸せを願いたいと思える人たちに出会った。





俺は遠く離れた場所に行ってしまうけれど、なぜか予感がするんだ。





きっと、また会える。











この場所に来てたくさんの思いを知った。





今まで味わったことのない痛みや切なさ。





結果がわかっていて、それでも止めることのできない気持ち。





そして、





腹の底から笑いあえるような相手と、そこにいてくれるだけで安心できる温かさを。







俺は、この場所でお前らと会えてよかった。





心からそう思うんだ。





だから、きっと







また、会おうな。









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