普段、表情をかえることのない彼女。 俺が学校を楽しむための出来事として、挑戦的な意味から いかに彼女の表情をかえられるかということも追加された。 そして気づいたのは俺が今のところ、彼女を笑わせることができるのはひとつだけ。 小鉄の話をしているときだけだということ。 Run and Run ― きみと出会って ― 「最近とみっくん、仲いいよね〜!」 「「そう?」」 「まあ俺ら、小鉄の面倒係だからかな!」 「面倒係って・・・。また鉄平に怒られるよ。」 「でも否定しないってことは、もそういう意識があると。」 「・・・ない。」 「ははっ、間があいた!」 少し仲良くなった女子がいると、周りからからかわれたりするのは今までにもあったこと。 そういうときは大体慌ててしまうものだけど、慌てると余計からかわれる原因になることを俺は知ってる。 こういうのは適当に流してしまうことが一番だ。 とはいえこんなとき、大体からかわれた相手の女子の方は慌ててしまうことが多いのだけど。 はまったく動揺することもなく、いつも通りの冷静な声で対応する。 「二人、お似合いだけどなー。」 「あ、本当?とそんな風に言ってもらえるなんて光栄だな!」 「、可愛いもんね〜!」 「そんな褒められても。」 「本当のこと言ってるだけでしょ?謙遜しないのってば!」 は自分から誰かと話すようなことは少ないけれど、クラスではかなり好かれているようだ。 今までの学校では、ノリが悪いといった理由で仲間はずれにするようなこともあったみたいだけれど。 このクラスではの性格も、さりげない優しさも皆わかっているように思える。 「・・・日生が適当なこと言うから。」 「えー、適当じゃないのにー!」 「ていうかさ。」 「「ん?」」 「二人ともまだ名字で呼び合ってるの?仲良くなったんだから、名前でいいじゃーん。」 「別に呼び方と仲の良さは「はい、みっくんはで!」」 「うーす、じゃあ!よろしく!」 「も名前で!」 「名前で!」 「訳わかんないけど、じゃあ、うん。光宏って呼ぶね。」 「「キャー!!」」 うーん。どうもこのクラスの女子は俺と・・・じゃなくてをくっつけたいみたいだ。 今まで告白されたことはあっても、こうして別の誰かとの付き合いを応援されるなんてことはあまりなかったから、 少しだけ調子がくるってしまう。 ただ、と俺がつきあうってことはないと思うんだ。その理由は、俺が薄々気づいてる彼女の気持ち。 「なあ !見てみてこれ!すっげえ面白いだろ?」 「・・・っ・・・。確かに。」 「だろー?」 この間、サッカーの練習が終わってから小鉄と取った写真。 むりやり肩を組んで満面の笑みを浮かべる俺と、心底嫌そうな顔をして勢いあまって変な顔になってる小鉄の姿。 はそれを覗きこむと静かに、けれど吹き出して笑った。 やっぱり彼女がこんなにも楽しそうに笑うのは、幼馴染の小鉄のことばかりなんだ。 それは幼馴染だから、見てて面白いからって理由だけじゃないだろう。それくらいまだつきあいの短い俺にだってわかる。 むしろクラスメイトたちが彼女の気持ちに気づいていないことの方が驚きだったけど、 を小鉄の保護者のような存在と昔から思い込んでいたから、その考えがなかなか変わることもなかったんだろう。 「あ、鉄平。」 「よ!小鉄!」 「・・・。」 そして、小鉄のほうも。 「小鉄も見るか?俺の取った写真、すげえ面白いから!な、。」 「そうだね。それは傑作だと思う。」 「な、のお墨付き!小鉄も・・・」 「うるせー!俺はたまたまお前らのクラスの前を通りかかっただけだ! き、気安く話しかけてくるんじゃねえ!」 「「・・・。」」 すっげーわかりやすい。 「どうしちゃったんでしょうか小鉄さんは。」 「まあ鉄平が変なのはいつものことだから気にしなくていいんじゃない?」 「そっかー!」 多分自分の気持ちにも気づいてない小鉄と、おそらくそんな小鉄に気持ちを伝えようとはしていない。 こいつら進展あるのかなー。あってもすげえ遅くなりそう、なんて二人にとっては大きなお世話なことを考えてた。 クラスの皆の推薦で、と体育祭実行委員をすることになった。 は小鉄が好きなんだし、俺も彼女に特別な感情はないから、どうこうなるなんてことはなかったけど。 「この学校の体育祭って結構本格的なんだなー。」 「本格的って?」 「いや、前の学校だとさ、結構適当っていうか。とりあえず競技だけ参加しときゃいーだろーみたいな雰囲気だったんだけど。」 「ああ、うちの学校は結構燃えてる人多いよね。」 「実行委員長とかな!どこの熱血漫画の人かと思った!」 「あー、うん。そんな感じ。」 少し笑ってはいるけれど、相変わらず小鉄以外の話には反応薄いなー。 ・・・本当にそれ以外、彼女を笑わせる方法ってないのかな。 勿体ないよな。彼女の笑った顔はあんなに・・・ 「・・・おお!」 「な、何?どうしたの?」 「いや、何でもない。」 「・・・そう?」 あーびっくりした。俺、今何を考えた? 彼女に特別な感情なんてないし、そもそもはこんなにわかりやすいくらい小鉄が好きなのに。 「それじゃあ行こう。」 そう、特別な感情なんて、 「光宏。」 どくんと、心臓が高鳴った。 俺を名前で呼ぶとそう言った。 だけど、実際彼女から俺に話しかけることは少なく、名前を呼ばれる機会はなかった。 「・・・光宏?」 ただ、名前を呼ばれただけなのに。 鼓動が、加速していく。 俺はどんな場所でだって学校生活を楽しみたかった。だからいつも自分なりにいくつかの楽しみを見つける。 たとえば小鉄との勝負とか。入ったばかりのサッカー部でどれだけの期間でレギュラーになれるかとか。 そして表情をあまり変えない彼女の変化がどれだけ見れるかとか。 だから彼女の傍にいることが多くなるのは必然で。必然だと、思っていて。 でも、理由はきっとそれだけじゃないと気づく。 俺はきっと最初から、彼女の笑顔や彼女との時間に心地の良さを感じていた。 楽しみとか挑戦とかじゃなく、ただ単純に彼女の表情を見ていたかったんだ。 だから、思った。 小鉄のことばかりじゃなく、何か別のことでも笑わないのかって。 俺自身の話を聞いてほしい。そして、できれば笑ってほしいって。 あー、しまった。 転校した先で特別な感情を持つことは避けてきたのに。 彼女にはあんなにもわかりやすく、好きな相手がいるのに。 TOP NEXT |