「鉄平っ!」 「?!」 「光宏、今日引っ越すんだって!」 「・・・はああーーーーー?!」 Run and Run めずらしくが息を切らせて、焦った表情で伝えてきたのはみっくんのこと。 体育祭が終わって、奴と、と・・・友達になってからも何度も勝負してきて。 「今教室にいるの!だけど、すぐに行くって・・・!」 「なっ・・・ちくしょうバカ光宏ーーー!!」 俺は自分の席から立ち上がり、一目散にのクラスへと走りだす。 廊下を全速力で走る俺を、そこにいる奴らが唖然とした表情で見る。 みっくんが親の都合で学校を転々としてることは知ってた。 この学校に来たのだってそれが理由で。 だけど、今日引っ越すってなんだよ。 すぐに行くってなんだよ。 俺は丁度クラスの奴らとの別れを終えて、廊下を歩くみっくんの姿を見つける。 「どういうことだみっくん!!」 「あ、小鉄!見送りに来てくれたんだ。」 「おう!・・・じゃねえ!どういうことだよ引っ越すって!」 「え?親の転勤。」 「ああ、うん。そうだよな・・・って違う!!いきなりってどういうことだってんだ!」 俺、何も聞いてないぞ。 昨日まで普通に勝負だってしたんだ。 「だってしめっぽくなるのって苦手なんだもん。」 「だ、だからって・・・。」 くそ、なんて自分勝手な奴なんだ。 お前がいなくなるって知ってたら・・・知ってたら・・・いや、どうにもならなかったかもしれないけど。 だけどあまりにも急すぎるじゃねえかよ。 「お、俺っ・・・。」 「?」 「俺、まだお前に勝ってねえ!!」 「・・・っ・・・。」 俺の言葉を聞いてみっくんが吹き出すように笑った。 何だくそう、笑うところじゃねえっつうんだ!俺にとっては大問題だ。 「何だよー、みっくんともっと話したかったぜ!とかじゃねえの?」 「やめろ気色悪い!」 「そうだな、確かに小鉄がそんなこと言ったら気持ち悪いな。」 「何だとコラ!!」 いつもと変わらないみっくんの意地の悪い笑み。 まるで今日が別れのときだなんて思えない。 「あ、。」 「え?あ、ああー!!」 「お前自分を呼びに来た置いてきたの?うわー小鉄くん最低ー。」 「う、うわー!悪い!ごめん・・・!」 「・・・バカ鉄平・・・。」 俺を呼びにきたときと同じように息を切らせて。 肩で息をしながら恨めしげに俺を見上げた。 「でもいいよ。鉄平、光宏に会いたかったでしょ?」 「あ、会いた・・・ち、ちげえ!そういうんじゃなくて、俺は勝負をだなっ・・・!!」 「素直じゃねえなあ?」 「ねえ?」 「お、お前らーーー!!」 二人で顔を見合わせて俺をからかって。 こいつらお似合いとかっていうより、何気に性格似てるだけなんじゃねえのか? 「やべ、俺もう行かなきゃ。じゃあな、小鉄!」 「・・・寂しくなるね。」 「うわ、そんな可愛いこと言うなよ。惚れちゃうじゃん!」 「なっ・・・もう行け!バカ光宏!」 「ははっ!わかってるっつの!」 みっくんの背中が遠くなっていく。 最後までマイペースで人のことからかいやがって。 「みっくん・・・!!」 「・・・小鉄・・・?」 「次は絶対負けねえからな!!」 俺の言葉に振り向いたみっくんが、目を見開いて俺を見る。 転校していって、もういつ会えるのかもわからない。だけど。 「俺は負けてねえ!負けを認めなければ負けじゃねえんだ!」 だけど、またいつか、お前と勝負する。 そして今度こそ絶対に勝ってやる。 お前に巻き込まれてはじめたサッカー。 走ること以外興味なんてなかったはずなのに、いつの間にか止められなくなってた。 お前がいなくなっても俺は止めない。 だから、お前も。 「・・・ああ!また勝負しような!」 そう言って嬉しそうに笑ったみっくんの背中がついに見えなくなる。 何だよ最後まであっさりした奴だな。これだけ俺を振り回しておいて・・・! 「・・・寂しいね・・・。」 「・・・お前、本気でがっかりした顔してるな。」 「だって鉄平と光宏の勝負、好きだったんだもん。」 「・・・。また見せてやるよ。」 「・・・うん。約束したもんね。」 「その時は今度こそ俺が勝つから!ちゃんと見てろよ!」 「・・・うん!」 みっくんが転校して何かが物足りないような、そんな日々。 いや別に決してアイツが恋しいとか、そんなんじゃないけどな! 急だったから、引越し先聞くのも忘れちまったじゃねえかよ、くそう。 いやだから連絡取りたいってわけじゃないけど! 「・・・寂しい?」 「・・・は?はあー?!何がだよ!俺はみっくんなんてどうでもいいんだからな!」 「・・・あははっ。誰も光宏のことだなんて言ってないよ。」 「だ、な、う、うるせー!!」 アイツの印象が強すぎて、あ、いやいや違う。 アイツに勝ち逃げされたから、どうもみっくんが頭にちらつく。 そうだよ、もう少しだったのに。もう少し時間があればアイツに勝てたはずなんだよ! 「そ、そういえばはアイツの転校先知ってるのか?」 「うーん、聞き忘れちゃった。」 「そうだよな!あんな急に行くからだバカ光宏!」 「・・・そうだねえ。」 が遠くを見るような目で空を見上げた。 みっくんのこと、思い出しているのだろうか。 「光宏ってさ。」 「?」 「皆に優しいし、いつも笑ってるけど、どこか一線引いてる感じだったんだよね。」 「え?ええ?!何言ってんだよ、あんな自己中な奴がそんなことするか!」 「だからそれ、鉄平にたいしてだけだよ。皆言ってたでしょ?」 「・・・。」 そういえば、と思い返す。 アイツ、俺のことはからかってばっかで、意地も悪かったのに。 何故かアイツの評価はいい奴だとか、格好いいだとか。皆騙されてるんだと思ってたな。 「転校ばっかりって、どんな気持ちなのかな。」 「え?」 「新しい土地に来て、誰かと仲良くなって。でも、すぐに離れなくちゃならなくて。」 「・・・。」 「きっと寂しい思い、たくさんしてるんだろうな。」 「俺、転校してばっかだし、結構そういうの敏感なんだよな。」 少し前に聞いた、みっくんの言葉を思い出した。 冗談だと笑ったアイツ。でももしかしたら、そこには奴の本音も隠されていたのかもしれない。 「だから一線を引いて、別れることのつらさを無くそうとしてたのかもしれない。 だけど、鉄平には違ってたよね。」 「・・・そりゃ違ってたけど・・・。」 「鉄平といたときの光宏が、本当の彼だったのかなって思う。」 「そ、そんな大げさなっ・・・。」 「鉄平の熱血に引っ張られて、彼も本当の自分が出ちゃったのかな?」 がクスクスと笑い出して。 アイツがそんなしおらしい奴か、と言ってやろうとも思ったけど。 引っ越したアイツを思い返して、やっぱり何も言わないことにした。 「引越し先、多分クラスの誰も詳しいことは知らないと思うよ。」 「・・・。」 「だけど、約束したから。嬉しそうに笑って、約束してくれたから。」 「きっと、また会えるよ。」 が俺の心を見透かしているかのように、優しく微笑んだ。 くそう、自分でも必死で否定してきたっていうのに。やっぱりには叶わない。 「お前さ・・・。」 「ん?」 「お、お、お・・・」 「・・・お・・・?」 「おっ、俺でいいのか?!」 ずっと思ってたこと。 だっては優しいし、綺麗な顔してるし、冷静だし。 人のことしっかり見て深いところまで考えられるような、大人な考えまで持ってて。 ひとつのことにしか集中できなくて、いつも勝負勝負って言ってるガキな俺。 どんなに一緒にいたって、お似合いだなんて言われたことのない俺。 「・・・鉄平は、私でいいの?」 「えええ?!い、いいに決まってんじゃねえかよ!何で?!」 「無愛想で無表情ばっかりで楽しくなんてないかもよ?」 「そんなことあるわけねえだろ?!」 全く何を言ってんだは。 俺はお前と一緒にいると楽しいし、なんかこう、落ち着けるし。 うまく言えないけど、とにかくお前と一緒にいたいと思う。 「・・・あははっ。私も。」 「・・・え・・・?」 「『そんなことあるわけない。』」 「・・・何・・・」 「鉄平以外、考えられないよ。」 のその言葉は、俺をかたまらせて動けなくさせるには充分で。 直後、体が熱くなって真っ赤になる俺を見てはまた笑う。 だけど俺はそんなを怒る余裕もなくて、その言葉のあまりの威力に言葉を失ってしまっていた。 「な、なななっ・・・何で?!」 ようやく出てきた言葉は、やっぱりガキみたいな疑問の言葉。 なのにそんな俺とは対象的に、は笑って。 「鉄平と一緒にいると、幸せだから。」 「!」 「他に理由、必要?」 ・・・参った。 くそう、俺がこう見事に負けを認めるなんてそうそうないんだからな。 「ひ、必要ねえな!」 「でしょ?」 真っ白になった思考。爆発しそうな心臓。笑う彼女と間抜けな顔をした俺。 あーあ。なんだかこれからも俺は、に勝てる気がしない。 「これからも熱血単純バカな鉄平でいてね?」 「おう!・・・って何だそれは!」 「あははっ。」 がまた笑う。楽しそうに、嬉しそうに笑う。 そんな彼女を見て、俺も笑った。なんだか温かくてくすぐったいような、そんな気持ちで。 「・・・走ってくる!!」 「わかった。行ってらっしゃい。」 俺のいきなりの言葉にも動じず、は頷いて俺を見送った。 走ることは俺のストレスと悩み解消法。だけど、今回だけはそんなものじゃなくて。 「うおおおーーーーーーー!!」 爆発しそうな心臓。 上昇する体温。 嬉しそうに笑う、の顔。 嬉しすぎて走りたくなるなんて、初めてだ。 単純でバカで周りが見えなくて。 足の速さしかとりえのない俺だけど。 ずっと一緒にいた幼馴染は、そんな俺の側にいてくれる。 優しく、嬉しそうに笑ってくれる。 「うおっしゃーーーー!!」 気づけば勝利の雄叫び。ん?勝利っていうのかコレ。 ま、どっちでもいっか!! だから、後は・・・ 「首洗って待ってろよみっくん!!」 ライバルで友達のアイツに勝つ! 次に会ったとき、みっくんがびっくりするようなすげえ男になって 参った!って言わせてやる! 格好いいとこ、見せてやるからな! TOP あとがき |