「あれ?小鉄、何やってんだよ。」 「ひ、日生・・・!」 「のとこ行かねえの?」 「・・・っ・・・。」 体育祭の全ての競技が終了し、片付けもホームルームも終わった。 誰もいない教室に一人残っていた俺に、丁度教室の前を通りかかったらしい日生が声をかける。 「俺に負けたこと、まだ気にしてんの?」 「ぐっ・・・!」 そう、俺は結局日生に負けてしまったのだ。 のところへ行こうとは思っていたけれど、やっぱり格好悪くて。 躊躇してるところに本人だ。コイツは気を遣うってことを知らねえのかよ! くそ、やっぱり嫌な奴! Run and Run 「まだ保健室だって知ってるだろ?親が迎えにくるらしいけど、それまでお前いてやればいいじゃん。」 「わ、わかってるっつの!」 「とか言って足動いてねえし。じゃ、俺心配だから行こっかな。」 「ええ?!」 ちょっと待て、と思わず声をあげてしまった。 そんな俺を見て日生がニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。 「、待ってると思うけど。」 「うるせー!お前に言われなくたってわかってるっつってんだろ!」 ようやく俺は教室を出て保健室へと足を向ける。 そうだ、格好悪いとかそんなこと考えてる場合じゃなかった。 あれだけ大口叩いて、結局負けたなんてそりゃ格好わりいんだけど・・・。 こんなことチマチマ考えてんのが情けないっつーんだ。わかってるよくそう。 教室を出るときに、ふと日生を見た。 相変わらずの表情で俺に手をふりながら、早く行けと促す。 そんな日生を見て俺は思わず足を止めてしまって。 「・・・お前は、さ。」 「・・・?」 「お前はのこと・・・好きなんじゃなかったのか?」 あんなに仲良さそうだったのに。 変化の気づきにくいの体調にいちはやく気づいたのに。 周りから見てもお似合いって言われてるくらいだったのに。 それでも日生があまりにも普通にしてるから。思わず聞いてしまった。 日生は一瞬だけ目を見開いて、そしてまたニッコリと笑う。 「そりゃあ、好きだけど。」 「ええ?!」 「だってアイツいい奴じゃん。」 「だ、だって・・・じゃ、じゃあ何でっ・・・?!」 「何が?」 「だって俺お前の目の前でっ・・・もっ・・・!」 あまりに予想外だった日生の言葉に混乱して。 自分でも日生に何を言っているのかわからない。 「友達の幸せを喜ぶのは当然じゃん。」 「・・・は・・・?」 友達・・・? え?え?それって別に恋愛対象としてってことじゃないっていう・・・ 「おーっと何か勘違いしてるのかなあ小鉄くん。」 「・・・っ・・・!」 だあ!くそ!心配して損した! って何で俺、日生の心配なんてしてんだよ!コイツは敵!心配なんかしなくていいんだっつの! 「つーか俺が本気だったら、小鉄になんか負けないって。」 「な、なんかって何だ!!」 「あ、そうだ!いいこと教えてやろうか。」 そう言ってまたいたずらっぽく笑うと、俺の肩を組むように顔を近づけた。 内緒話でもするかのように口に手をあて、あのなーと面白そうに続ける。 「の表情が一番変わる話題って、小鉄との勝負なんだよな。」 「!」 「必死な顔してる小鉄が面白いとか、からかいがいがあるとかさ。 絶対俺の方が格好いい話題なのに、夢中なのは小鉄の話なの。」 「・・・それって・・・。」 「そうそう、小鉄にばっか興味があるってことじゃねえ?」 「ていうか、単に面白がってるだけじゃ・・・。」 「そうかも。」 「ぐっ・・・!そうかもって・・・!」 「でもさ、どんな話題でもが楽しそうに反応するのは、お前のことなんだよ。」 「・・・。」 「さすがにそこまで他に眼中のない奴に本気にはならないじゃん?」 日生と笑っていた。楽しそうに笑う先に、俺の姿があったとしたら? 日生からの情報だというのに、俺は不覚にも嬉しくなって顔を綻ばせてしまった。 「っはは!お前って本当顔に出やすいな!」 「っ・・・うるせー!アホ日生!」 「そうだアホ小鉄!と両思い記念に俺とも友達ってことでどうよ?」 「は?!」 「やっぱりなんだかんだで俺、お前のこと気に入ってんだよなー。」 「き、気に入ってるなんだ!俺はペットかっつーの!」 「うん、そんな感じ。」 「日生ー!!」 「っていうのは冗談で。」 冗談かよ!つーかどこから冗談?! 本当コイツって理解できねえ奴だな! 「だってホラ、悲しいじゃん?俺はダチだと思ってるのに、敵とか言われたらさ。」 「・・・え・・・。」 「俺、転校してばっかだし、結構そういうの敏感なんだよな。」 「・・・!」 めずらしく真面目な顔をして、少しだけ顔を俯けた。 だ、だって仕方ねえじゃんか。俺たちはライバルで、日生は俺の天敵で。友達なんかじゃ・・・。 「俺、お前との勝負、結構楽しいんだけど。」 「!」 「小鉄は違うの?」 「・・・あ・・・。」 お前が現れて、確かに俺のプライドはボロボロになったけど。 だけど、お前を追いかけて必死になる自分は嫌いじゃなかった。 自慢の足では誰にも負けなかったし、相手になる奴だっていなかった。 初めての敗北。勝ちたいと強く思った。だから、何度も何度も挑んだんだ。 それが楽しくなかったかと聞かれたら・・・。 「ライバルで天敵で友達っていうのも、いいと思わねえ?」 「!」 「・・・ま、お前が嫌ならいいけどさ。」 「・・・あ・・・。」 「じゃあ明日な!ちゃんとについててやれよー!」 日生は人をからかって遊ぶ奴だし、俺が必死になっても余裕でいやがるし、 必死の人の顔見て笑うし、負けた俺に追い討ちまでかけてくるような、やな奴だ。 だけど、ずっとコイツに勝負を挑み続けて。 不本意だったけど、同じ部活にも入って。 一緒にいる時間が増えて、嫌なところだけじゃないコイツも知っている。 「何だよ小鉄厳しいなー。いいじゃん友達にグチるくらい。」 「うっそ!俺小鉄のこと好きなのに!!」 「幼馴染なんだろ?心配かけるなよな。」 わかってる、わかってるよそんなこと。 だけど今更、だって日生は天敵でライバルで。 くそ!いつもはもっとしつこいくせに、何でこういうときはすぐに行っちまうんだ! 後で俺からダチになろうなんて無理!絶対無理! 何て呼び止めればいい?いや、ていうか呼び止める必要なんてあんのか? あーもう!訳わかんねえ! なるようになれ!! 「あ、明日な!!みっくん!!」 日生が背中を向けたまま立ち止まった。 そしてゆっくりとこちらに振り返る。 「・・・お前、いきなりみっくんって・・・」 「あ、ど、のあっ・・・そのっ・・・」 「・・・っ・・・は、あは、あはははは!!」 「日生お前っ!笑いすぎだちくしょう!さっきのしおらしい態度はなんだったんだ!!」 「だ、だって小鉄・・・っ。な、なかなか俺を、ダチだって言って、く、くれないからっ・・・!」 「結局嘘かよ!つーか笑いすぎだっつってんだろーー!!」 呼び止めようとしたとき、なぜか浮かんだ日生の言葉。 「そろそろ日生って止めて、もっとダチっぽく呼び方変えてくれてもいいって思ってるのになー。」 そうだ呼び方だ!単純な俺はすぐさまそう思って。 「あー!小鉄じゃーん!またみっくんに勝負挑みに来たのー?」 そう、みっくんなんて呼ばれ方してるから、クラスに馴染んだんだと思った。 だから、そう呼んでやれば俺が思ってることも伝わるんじゃないかって思ってしまって。 「じゃあ、これからは、み、ぶはっ・・・みっくんで宜しく。」 「誰が!もう呼ばね・・・」 「男が一度決めたことを曲げるのはみっともねえぞー。」 「ぐっ・・・!」 「あははっ!!」 「ちくしょう!お前とっとと帰れ!俺はもう行くからな!」 腹を抱えたまま、笑いの収まらないらしい日生はほっておいて 俺は一人歩き出した。やっぱり嫌な奴にかわりはねえんだ! 「あははっ・・・ははっ・・・。」 俺がいなくなった後も笑い続けて、誰かに見られておかしな奴とでも思われてしまえ!バカ日生め! 「・・・やっべ・・・笑いすぎて・・・苦しくなってきた・・・。」 俺は日生をおいて、の元へと走り出した。 「お前がそういう奴だから・・・憎めないんだよ・・・。」 だから俺がいなくなったその場所で、日生が呟いた言葉は聞こえなかった。 「・・・絶対、幸せにしろよ。バカ小鉄。」 その直後の表情さえも、知ることはなかった。 TOP NEXT |