!」

「おわっ!小鉄!」





思いのまま走ってきて、思いのままに保健室の扉を開けた。
あまりにも勢いがよすぎて、扉がはね返り音をたてる。





は・・・?!」

「・・・はーい。」

「お前病人が寝てんだからもっと気遣えよなー。」





弱々しくベッドに横たわりながらも、俺の声に応えたを見て小さく安堵のため息をついた。














Run and Run















「ぐ、具合は・・・?!」

「そうそう聞けよ小鉄。ってば熱が38度もあったんだぜ?それでよく走ってたよな!」

「熱・・・。」

「光宏は大げさだよ。自分でもちょっと調子が悪いかなくらいにしか思ってなかったのに。」

「大げさなんかじゃアリマセンー。は自分のことに疎すぎ!」





う、と言葉を失って。珍しくヘラヘラ顔じゃない日生には何も返せないようだ。
そりゃそうだ。熱があってあの炎天下の中、運動なんてしてたらいつ倒れたっておかしくなかった。
そんなの状態に気づいて、彼女を助けたのは日生なんだ。





・・・俺・・・。」

「どうしたの鉄平。深刻な顔しちゃって。」

「俺、全然気づかなくて・・・!」

「鉄平?」





何て言えばいいんだ?何から話せばいい?
たくさんのことが頭の中でごちゃごちゃに絡まって、整理がつかない。
大体俺にたくさんのことをまとめて考えろっていう方が無理なんだ。





それなら、俺が今一番伝えたいことは?











「俺、お前が好きなんだ!!」










日生に勝つとか、お似合いだとか、誰にも文句を言わせないだとか。
そんなこと、気にする必要なんてなかった。
何よりも大切だったのは、俺の気持ちとそしての気持ち。

ごちゃごちゃ考えすぎて、意地をはって。を意識して避けて。
理由をつけては遠回りを繰り返した。







「小鉄・・・。」

「鉄平・・・。」







と日生が驚いたように俺を見た。
わ、わかってるよこんなの今言うことじゃないのかもしれねえし、突然すぎるってことだって。

だけど、やっぱり俺に遠回りなんて無理で。
考えがまとまってなんていないけど、それでもならきっとわかってくれる。だから。







「好きじゃないって言ってごめん!」






「ずっとお前の顔見れなくてごめん!」






「お前が調子悪いの、気づいてやれなくて・・・ごめん!!」









口を開けたまま、ポカンとしている日生。
明らかに驚いて目を見開いて固まっている







「お、お前が日生と仲良くて、お似合いだって言われてて、だから・・・!」

「・・・。」

「今度こそ絶対に勝ってやるって思ってた。それしか見えてなかった。
お前の気持ちも知らないのに、一人で突っ走って・・・。」







何だよもう、日生もも何も言わねえし。
すっげえ恥ずかしい。だけど、だけど今言わないでどうする!
ここで男を見せないでどうする俺!











「でももう止めた!細かいことなんて考えねえ!俺はお前が好きだ!!」










叫んだ言葉の後には、しばらくの沈黙。
くそう何だこの空気。でもこの際日生でもいい。何とか言えよ・・・!










「・・・はは、、顔真っ赤。」

「・・・熱のせいだよ。」

「・・・ふーん。」










って、何だよ俺は無視で二人で会話始めやがったし!
どこまでも俺のことバカにしやがってちくしょう。

って、ちょっと待て。
これは本当にバカにされてるのか?実はこの二人は両思いで既にくっついて・・・。

ありえる。ありえすぎる・・・!
俺最近はと話してないし。周りの奴らはこいつらをくっつけようとしてたらしいし。
さっきだっての様子にいちはやく気づいて、彼女を連れ出したのは日生だ。









「てっぺ・・・「もしも!」」








の言葉を待ちきれなかったから、言葉が重なってしまった。
けれど既に動き始めた口は止まることはなく、俺はの言葉を遮って言葉を続ける。









「もしも、もしもだけど!お前が日生を好きだっていうならはっきり言えよ!
そしたら俺は・・・み、身を・・・ひ、引くっ!お前を困らせたりはしないから!」








もしも本当にそんなことがあったら。そりゃ悔しい。すっげえ悔しいけど。
でもそれ以上にお前を苦しませるとか、絶対嫌だから。








「・・・。」









がやっぱり無言で俺を見る。
頼むから何か言ってくれ。その目とこの沈黙は俺には耐えられない・・・!

沈黙が続く中、日生がを見て笑う。
あー、くそ!何で俺がこんなにてんぱってんのにアイツはいつも余裕ぶってんだ!腹立つ!

そしてもそんな日生の視線に気づき、目を合わせるともう一度俺の方へと視線を戻した。










「・・・私が選んでいいんだ?」










選ぶ?俺と日生とどっちがいいかってことだよな?!
だから今日生と目を合わせたのか?!それって俺の勝ち目がないってこと?!
あー!わかんねえ!わかんねえけど!!












「おう!男に二言はねえ!!」

「じゃあ私、鉄平がいい。」











・・・・・・・・は?










「・・・今、何て?」

「鉄平がいい。」

「・・・は、は、はあーーーーー?!!」

「うるせえなあ小鉄。」










だ、だだだって!!
何だよ今の前フリは!!俺はてっきり玉砕するものかと・・・。










「ひ、日生じゃなくて?」

「うん。」

「お、俺、日生に負けてばっかで・・・周りからも全然似合ってないって・・・言われてるのに?」

「うん。」

「お前が調子悪いのも、わからなかったのに・・・?」

「うん。」









自分で言ってて情けないくらいに、俺ってどこにいいところがあるんだって思うのに。
それでも迷いなく、は俺の問いに頷いていく。









『次は障害物競走です。出場する選手は所定の位置に並び、準備をお願いします。』










さっきとは逆に、今度は俺の方がかたまってしまって。
次の競技のアナウンスが流れても、それは全然頭に入ってこなくて。








「障害物競走だって。光宏も鉄平も出るんじゃないの?」

「そうだな。小鉄、行く?」

「え?は?な、何・・・?!」

「保健の先生ももうすぐ戻ってくるって言ってたから。俺ら抜けるとクラスの奴らうるさいからな。」

「先生・・・?何が・・・?」

「ダメだこりゃ。」





日生が苦笑しているのも、が面白そうに顔を俯けたのも。
目には入っていたのに、怒る気も文句を言う気にもなれなくて。頭は真っ白。





「小鉄!勝負!!」

「おおっしゃ!望むところだあーーー!!」





それはただの反射で、だけど意識を取り戻すには充分な言葉。
そうだ、俺はもともと日生と勝負してて、奴を負かすことが目標で。





「行ってらっしゃい。活躍してきてね、二人とも。」

「おう、任せて!」





小さく手を振るがあまりにもいつも通りだから
さっきの言葉は夢だったかなんて、一瞬思って。



だけど。





「余計なことは考えなくていいからさ。単純熱血バカな鉄平が私は好きだよ。」





だけど、やっぱり夢なんかじゃない。








「うおおおーーーーー!!見てろよ!見てろよ日生!!」

「いや、は見れないけどな。」







日生の言葉なんて無視して。楽しそうに笑うを見て、任せろと拳を突き出して。
俺は次の競技、障害物競走の待機場所へと走る。



そりゃへの気持ちと、日生との勝負は関係ないってわかってるけどさ。
それでもやっぱり、格好いいところを見せたいとは思うから。
勿論それとは別に、日生に勝ちたいって気持ちもあるけど。



だから見てろよ
ほえ面かくなよ日生!



きっと考えることはたくさんあった。
が俺を選んでくれた理由だってわからないし、さっきの日生との表情の意味だってわからない。
だけど、俺の頭は一度にたくさんのことなんて考えられないから。

自分の想いを伝えての言葉が聞けた今、次に目指すのはただひとつ。





今度こそ日生に、勝つ!!











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